第三話 ていうか、覚えている人いるかな?
トラップに引っ掛かって朝までぶら下がっていたエイミア、リル、リジーを下ろして、朝ご飯を済ませてから会場へ向かった。
「クソ、まだ身体中が痛い……」
そりゃあ、朝まで逆さ吊りだったからねえ…。
「はう〜……目が真っ赤です……」
そりゃあ、朝まで泣き続けてたみたいだしねえ……。
「私は何故に巻き添え?」
リジーは一切下心なく、たまたま歩いていて罠にロックオンされたみたい。あんたには悪いことしたわ……。
「リジーはともかく、あんたらには当然な罰だと思うけど?」
「ぐ……! し、仕方ない。今回は勘弁してやろう」
「サーチ、すいませんでした……でも私はいいモノが見れたので大満足いひゃっ!」
「へええ……いいモノって何のことかしら?」
「へ? それはサーチとルーデルのキしゅひみょーーーーーーーんんんっ!!」
エイミアの口を精一杯左右に引っ張ってやった。
「んみゃあああ! 口が広がるうう! 口裂け女になっちゃいますー!」
「ちょっと待って、なぜ口裂け女を知っている」
「サーチは知らねえのか? 口裂け女っていうモンスターがいるんだよ」
え、そうなの?
「口が裂けてるだけで身体はナイスバディばっかだから、男の冒険者には大人気らしいぞ」
存在価値何なの? そのモンスター……。
ていうか、リルが遭遇したら間違いなく瞬殺うひゃあ!
「あああ危ないわね! 何すんのよ!」
「悪い悪い……何か殺気が抑えきれなくなってな」
……ホントに鋭いわね。
「サーチ姉。私達は何をしに会場に向かってる?」
「あれ? リジーは知らなかったの?」
「ルーデルが教えてくれるはずだったけど、朝に消えた」
あ、そっか。ルーデルは狐獣人の長老代理で帝都に来てるらしいから……今日は一日国賓席で接待される側だったわね。
「じゃあ私が説明してあげるわ……今回も予選と同じように、トーナメントの組み合わせ抽選会があるのよ」
「……また?」
リジーが心底イヤそうな顔をする。そりゃそうよね……予選では一回戦、二回戦と終わる度に組み合わせ抽選会をするもんだから、大会が進まないこと進まないこと。聞いた話だと、もう一週間分は予定をオーバーしているらしい。
「今回は大丈夫よ。皇帝が見ている以上は、あまりグダグダにはできないみたいだから」
本戦のトーナメントに出場するのは三十二人。一日目に一回戦の前半、二日目に後半。三日目に二回戦があって四日目に準々決勝……という具合になる。
予選よりは遥かにスピーディーに進行する……はず。
「……というわけだから、今日の組み合わせ抽選会が終われば、スムーズに進行するわよ」
「ならいい。待つのは飽きた」
「うわ、何だよこの列!」
急にリルが叫んだので何かと思ったけど……。
「そういえば本戦の一般チケットって、今日発売じゃないですか?」
「ああ、なるほどな……それにしてもスゲえ列。そこまでしてまで欲しいんかね」
「いつもなら『ここまでは人気はないねえ』ってことみたいよ。今回は冒険者や一般枠で注目の選手がいるから人気があるんだってさ」
「……毎度思うけどさ、サーチはどこで情報を仕入れてくるんだよ」
「ん、今の? そこの屋台のおばさん」
ケンタウルスの串焼きを買うときに教えてくれた。
「……まるで井戸端会議のノリですね」
「ん〜……かもね。それぐらいのノリの方が、結構ペラペラとしゃべってくれるもんだし」
前世でもこういうので、重要な情報が入ってきたりすることもあったし。
「そうなんですか……勉強になります」
…エイミアの場合は胸元開けて涙目になって下から見上げれば、大抵の男は堕ちるものと思われ。
「!! な、何か寒気が?」
……このパーティには超能力者ばっかりいるのか。
ここで聞いた『注目選手』というものを、しっかりと考えておくべきだった……と後悔することになる。
会場に入って受付を済ませると、リル以外は別の場所へ案内された。予選落ちしたリルは、なぜか私を恨めしそうに睨んでいたけど……また超能力か第六感が発揮されたのだろうか。
で、会場に案内されたわけだけど……。
「うわあ……広〜い」
私も思わず呟いてしまうほどの広い控え室だった。
が。
「いえ、ここは貴族専用の控え室となります」
じゃあ何でここに案内したんだよ!
「ここをお見せすることによって、貴族と庶民との格の違いを理解させます」
……さいですか。
「貴族以外の控え室はこちらです」
貴族専用の控え室の更に奥。一番隅にこじんまりとした扉があった。
「こちらです。あとはご勝手にどうぞ」
と言い放ってから、案内してくれたメイドさんは、さっさといなくなった。
「何なんですか、この対応の違い……」
「別にいい。無駄に広い空間の必要性はない」
確かに。現実主義が色濃いリジーらしいと言えばらしい。
「それより腹減った」
……現実主義というか自分に正直なんだろうな。とりあえずドアを開ける。
ギイッ
「………悪くないじゃん」
リジーじゃないけど、ムダに広くない落ち着いた雰囲気だ。調度品も豪華さがないのが幸いして、非常に居心地がいい。いいな、こういう部屋に住んでみたい……と思える。
「……私…さっきのキラキラより、こっちの方が良いです」
「……無駄が無い空間……良い」
エイミアとリジーにも好評なようだ。
「失礼します」
するとさっきのメイドさんとは違うメイドさんが入ってきた。
……げっ。
「はじめまして。皆様のお世話をさせていただきますヒルダと申します。よろしくお願い致します」
「え……ええっと……あ、よろしくお願いします。私がサーチで……エイミアとリジーです」
「はい。皆様よろしくお願い致します」
ヒルダさんは私を見てニーッコリと笑った。
……うそん。
私が「トイレに行く」と言って控え室を出ると。
「あら、おトイレですか?」
……いた。
「は、はい…」
「案内致します」
「あ、いやその」
「案内致します」
「じ、自分で」
「案内致します」
……ムリだ。
「よ、よろしくお願いします」
「はい、ではこちらへ」
そう言って案内され……
たどり着いた部屋に入れられ。
バタンッガチャ
鍵閉めやがった。
「さて……」
ヒルダさんが真顔になる。その前に私が駆け出して。
「久しぶりです! 院長先生!」
院長先生こと〝飛剣〟のヒルダの胸に飛び込んだ。
「シャアちゃん……すっかり大きくなって」
「今はサーチって名前です。院長先生もお変わりなく……ていうか、何で変わってないんですか?」
年齢的に言えば結構とひゃぐっ!
「シャアちゃん……じゃなくてサーチの考えてる事はお見通し。年齢に触れたら……」
とんでもない殺気で私を威圧する院長先生。
「マジ怖いですから止めてください!」
「あら……このくらいの殺気は耐えられるのね。ずいぶんと修羅場を経験したみたい。本当に大きくなったわ……ところで」
「……はい?」
「何でビキニアーマー?」
趣味です。
院長先生再登場。
なかなかトーナメントが始まらない。




