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第一話 ていうか、つまんない皇帝の演説を無視して甘味処へゴー!

 パンパカパンパンパンパカパン♪


 何か有名なボクサー映画のテーマを彷彿とさせるファンファーレが会場に響き渡り。


『皇帝陛下、御開龕(ごかいがん)


 お偉いさんの掛け声と同時に、全員膝を折る。


(あのデブが偉い人なの? 理解不能)


 リジー、あんたの気持ちはよーーくわかるわ……この皇帝、見るからに。


「酒池肉林」

「公私混同」

「絶対無能」

「容姿醜悪」

「体重超重」


 などの悪い意味の四字熟語がよく似合う。

 え? 三番目から聞いたことがない四字熟語だって?

 いいのよ。雰囲気は伝わるでしょ?


『楽にして良いぞ』


(何を偉そうに…)


 リルもか。ま、気持ちはよーくわかるけどね。

 ていうか、皇帝の一声で全員立ち上がる。


(どこかの不敗の名将みたく、座ったままでいようかな……)


 などと思わないでもなかったんだけど、今は目立ちたくないので止めておく。


『……であるからして……』


 あ、なんか演説してた。全然聞いてなかったわ。


(リルは聞いてるの?)

(アホか。あんな自慢話しか言わない演説なんか、金貰ったって聞きたくねえ)

(同感。ちょっと出ようか)

(出るのは構わねえが……)


 チラッとエイミアを見るリル。エイミアは時折涙を流しながら、皇帝のありがたい話(・・・・・・)を聞いている。


(ウソぉ! エイミアのヤツ、あんな自慢話で感動してんのかよ!?)

(違うわよ。口元をよく見てなさいよ)


 こっそりエイミアの口元を注目していると。


(……あ、痙攣してる)

(ね。欠伸を噛み殺してるのよ)


 流石は真面目なエイミア。眠たくなりながらも、必死に聞いてたわけだ。


(エイミアも誘うか?)

(止めときましょ。あの子、肝心なときにデカい音を立てそうだから)


 そう言ってコソコソ動き始める。リルも納得した顔で私についてきた。



「あ〜〜…肩凝った」


 肩をトントン叩きながら、ベンチに座る。


「あんまりデカい声だすなよ。見つかると厄介だぞ」


 とか言ってるリルも、ベンチで脱力中。


「あの皇帝の治める国じゃあ、治安も乱れるわよね……」

「……まあな」


 そういえばこの国のことをあんまり触れてなかったので、少しだけ解説を。

 皇帝は前にマーシャンが言っていた通り、自称(・・)勇者の子孫だ。当然、本物(エイミア)がいる以上は偽者確定なんだけどね。

 で、帝国は完全な身分ピラミッドを形成している。頂点に皇帝、その下に貴族が続き、あとは騎士に商人に職人に農民などとなっている。当然の如く富は皇帝と貴族、あとかろうじて騎士と一部の豪商に集中しているため、国民の八割は貧困に喘いでいるという極貧国家でもある。私達が新大陸に上陸したときの違和感はこれだったのだ。

 それに拍車をかけるように、前述の現皇帝の治世は乱れまくっている。犯罪率は高いわ、警備隊は汚職がまん延してて機能してないわ、ギルドを国が管理してるもんだからこちらもうまく機能してないわ、結果的にモンスターは増えまくるわ。

 言い出すとキリがない状態である。極論ではあるが……人間的に暮らしたいのなら、他の国に行った方がいい。

 ……ランデイル帝国とはそんな国である。



「あーあ、せめてギルドさえちゃんと機能していてくれたらなあ……」


 以前はギルドだけが(・・・)まともな運営をしていたので、国民も冒険者もまだ生活できたんだけど……。


「あの皇帝(デブ)がギルドを締め出したのは何でなんだ? モンスターが野放しになるだけだぜ」


「あ、知らなかったんだ。帝国の財務大臣とギルドの支部長が利権で揉めたのよ。で、財務大臣の報告を鵜呑みにした皇帝が一方的にギルドと絶縁しちゃったのよ」


「……で、ギルドがなくなったツケを、警備隊に押しつけたってわけか……」


 そりゃあ警備隊は機能しなくなるわけよね。激務を通り越してるわ……。

 まあ中には、集中した権力を悪用してるバカもいるんだけどね。


「私達には関係ないと思ってたけど……実際に目にしちゃうと複雑よね」

「だからって私達に何ができるかって言われても、どうしようもないんだけどな」


 そうなんだけど……さ。



 リルと珍しく真面目な話をしていたら、案の定、気が滅入ってきたので。


「……甘いモノでも食べる?」

「「食べる!」」


「って、いつの間に……リジー、いつからいたの?」


 合流したリジーを加えて、大会会場近くの甘味処へ繰り出した。


「ん〜! 美味しい!」


 意外と甘党なリルが悶え。


「甘い甘い甘い甘過ぎる」

「そんなに甘いのがイヤなら私が食ってやるよ」

「リル姉ありがとう……ひょいパク」

「あ゛ーーー!! 私のケーキのイチゴ食いやがった……ぶっ殺す!!」

「あーれー、助けてー」


 相変わらず掴み所がないリジーが、リルにちょっかいを出す。


「私は静かに食べたいんだけどなあ…」

「全くだぜ。新大陸(ここ)に来ても相変わらずのマイペースぶりだな」

「そうなのよ〜、私の苦労をわかってくれてるわね…………って、ちょっと!?」


 ごんっ!


「へぶっ!」

「あんたこんな所で何をしてんのよ、ルーデル!」


 何故か甘味処にルーデルがいるし。一体何なのよ、今日は……。


「お前……久々に再会した仲間に対して、拳骨(それ)は無いだろ?」

「まーいいじゃない」


 条件反射でつい。


「良くねえよ! それより何でお前らがこんなくっだらねえ大会に?」


 ……そういえばルーデルはエイミアの事情を知らなかったのよね。


「話すとかなり長いから……また後で話すわ」

「……わかった」


(甘味処(ここ)では言えないってことか?)

(そういうこと……それと)

(何だ?)


 めきょっ!


「ぬばあっ!」

「顔が近い!」


 あ、しまった。また手が出ちゃった。


「ルーデル、大丈夫ー?」


 リジーがルーデルを看てくれるのでお任せで。


「おいサーチ……」


「何よ」


「お前、忘れたわけじゃないよな?」


 は?


「……何を?」


「忘れてやがる……ルーデルが不憫すぎる……」


 な、何よ、大げさな……。


「お前さ……新大陸の最初の港町で別れたときのこと、マジで忘れたのか?」


 ………………え?


「……船尾で手を振る……」


 ……あ、思い出した。


「……ここまで言わないと思い出してもらえないルーデルが不憫すぎる…」


「……返す言葉もございません」


「お前、ちょっとは優しくしてやれよ」


 わ、わかったわよ……。



「………………え?」

「だーかーらー、明日デートしてやる(・・・・)って言ってんのよ」

「……してやるが余計だよ」


 リル、うるさい!


「で、行くの? 行かないの?」

「い、いいいいいい行くさ行くよ行くに決まってんだろ!」

「……さいですか」

「うおおおおおおおおお!! じいいいざすくらいすとおおおおおお!!」


 おい待て。何故お前がそれを知っている?


「我が人生に一片の悔い無ああああああし!」


 だから何故それを。


「奇跡だああああ! 奇跡だああああぐぼふぅ!?」

「しつこい!」

「いてて…」


 ていうか、デート云々すっ飛ばしてヤることヤった(・・・・・・・)人が何を言ってんだか……。

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