第二十二話 ていうか、死神の大鎌によってエイミアを助けられる!
「みんな来てくれたのね」
「いや、魔王の誘いを断るなんて命知らずはいなぐふぁ!!」
奇妙な声を出して踞るリル。余計なことを言うなっつーの!
「で、どういうこと? 私を大会に出場させた真の目的って?」
「「真の……目的?」」
エイミアとリジーは二人同時に首を傾げ。
「……目的なんてありましたっけ?」
「〝死神の大鎌〟にしか興味なかったから、目的すら知らない」
……こいつらは……。
「そう! それよ!」
訳のわからない天然ボケに激しく反応するソレイユ。何でよ!?
「私の真の目的は〝死神の大鎌〟なのよ!」
「……何でソレイユが死神の武器に興味を?」
ソレイユは私をまっすぐに見て言った。
「“死神の大鎌”にかけられた強大な呪い……その呪いをかけたのは誰だと思う?」
へ? 呪いをかけた人?
「……呪いってどうやってかけるの?」
思わずリジーに聞いてしまう。
「呪いは生き物の恨みや嫉妬等の負の感情が溜まりに溜まって発生する……と言われているから、人為的に呪いをかけるのは不可能……なはず」
はず……ね。
「リジーちゃん、正解!! その通りなのよ。人為的な呪いは無理なはずなのよ……だけど」
ソレイユは私に向けていた視線をフッと外して。
「不可能を可能にしちゃったのよ……〝知識の創成〟への恨みによって……」
〝知識の創成〟への強烈な恨み……って、まさか!
「呪いかけたの……ソレイユ!?」
「絶対に言うと思った! 違いますー! 惜しいけど違いますー!」
……惜しい?
「あ、わかりました」
エイミアが勢いよく手を挙げる。
「はい、エイミア」
「ソレイユ以外の堕天使じゃないですか?」
「ぴんぽーーん……当たり〜!!」
ソレイユ、ハイテンションで拍手。
「〝死神の大鎌〟の呪いをかけた張本人は……天より堕とされた三人の天使の一人、繁茂よ」
以前に語った創世記に記されている三人の堕天使は「光明」「真鉄」「繁茂」とそれぞれ呼ばれている。
「真鉄」はソレイユ。
羽を鉄に変化させるのを見たことがあるけど、どうも異名と使う術に共通点があるように思える。
残りの二人も異名に見合った術を得意としているんじゃないだろうか。
となると……繁茂なのよね。
「……植物を操るのが能力なの?」
「そうね。繁茂が得意としてたのは植物……って、それがどうかしたの?」
「いや、何となくなんだけどね……呪いをかけるのにも、異名になってる能力の影響が出るのかなって」
「え? じゃあ繁茂がかけた呪いだと……頭に花が咲いたり、口から種が出てきたり?」
ずいぶん可愛らしい呪いだな!
「あははは! 頭に花は見た事ないけど、口から種はよくやってたわね。怒るとよく種ぶつけてたわよ」
リアルにやってたんかい!
「で? 繁茂が呪いに反映されるとどうなるわけ?」
「だって繁茂でしょ? 植物限定ではあるけど『栄える』ってことじゃない」
「ん〜……まあ、そうね」
「反対の意味って『枯れる』つまり『滅びる』ってなるわよね……」
リルがハッとなった。
「つまり……『死』」
「そう。繁茂の呪いが反対の意味になるのなら……『死』よね」
つまり……死神。
「そう捉えるとそうか。あはは、繁茂のヤツ、一応神様になっちゃったのねー」
カラカラと笑うソレイユだけど……やっぱり少し寂しそうな笑いだった。
「ねえ、ソレイユ」
「んー、何?」
「〝死神の大鎌〟が必要なのは……エイミアのためなんでしょ?」
「ほえ? 何でそう思うの?」
「〝死神の大鎌〟が手元になかった。それが〝知識の聖剣〟を魔王が預かってた理由よね?」
……ソレイユは黙りこんだ。
「……何でそれが私のためになるんですか?」
「あんた、今の自分の状態わかってないの?」
エイミアはポカンとしている。危機感が無さすぎる……。
「一度〝知識の創成〟に乗っ取られたでしょうが!」
「うぐっ……せっかく忘れてたのに……」
「忘れていいわけないでしょ! いい? 完全に問題が解決したわけじゃないのよ?」
「……へ? で、でもソレイユがもう大丈夫だって」
「……あまり言っていいことじゃないから、先に謝っとく。ごめんなさい、ソレイユ」
「いーよ。エイミアにもちゃんとわからせた方がいいから」
ソレイユの了解を得たので、単刀直入に。
「ソレイユに何かあったらどうなると思う? 間違いなくエイミアは身体を奪われるわよ」
「………嘘」
「ホントよ。今はソレイユの存在がエイミアの安全を保ってるだけ」
「……じゃあ……私は……私の身体は……」
「ちょっと、泣くのはストーップ! だから〝死神の大鎌〟が必要なんじゃない」
「……そうなん……ですか?」
「うん。〝死神の大鎌〟こそが、この世界で唯一〝知識の創成〟に止めを刺せる武器なのよ」
〝知識の創成〟の力とは、神聖なる力。闇の力とは対となる力である。
神聖なる力とは祝福。闇の力とは呪い。
祝福と呪い。これは相反する力なのだ。
そうなると〝知識の創成〟に対抗できる力とは……呪いの力。
「だけど腐っても一応神様だからね。生半可な呪いじゃ傷さえ負わせられない」
だからこそ「最凶」の呪いを纏う〝死神の大鎌〟が決め手になるのだ。
「アタシが散々苛めて弱らせた〝知識の創成〟よ。〝死神の大鎌〟なら間違いなく止めを刺せる」
「……そういうことだったんですね……わかりました」
エイミアは潤んだ目で私達を見つめて。
「私、みんなとまだまだ楽しい事をいっぱいしたいです。だから………よろしくお願いします」
頭を下げた。
「まっかせなさーい!」
ソレイユの言葉と同時に、全員頷いた。
「……ソレイユ」
解散してから、周りから見えない場所にソレイユを呼び出した。
「んふふ……夜は長いわよ♪」
「私にそういう趣味はないわよ……一つ聞きたいことがあったの」
「ん?」
私は親指を立てて。
「繁茂ってソレイユのコレ?」
そう言われた途端に、真ん前にソレイユが迫って来た。
「なななな何言ってんのよ!」
図星か。
「落ち着きなさいよ……ソレイユが〝死神の大鎌〟に異様に興味を示した理由も……」
「それ以上先言ったら外すわよ」
「すんませんした!」
ソレイユはほんのりと赤くなった顔を隠しながら、この場から立ち去った。
「……意外や意外よね……」
さーて、私の友達のために頑張ってくれてる魔王様のために。
絶対に〝死神の大鎌〟をゲットしなきゃね。
閑話はさんで新章です。