第二十話 ていうか、エイミアが最強の領域へ?
「ダルマさんが〜〜〜」
「………」
「〜〜〜…」
「………」
「……転んだ! はい、リル動きました〜」
「クッソ! 全然隙がないじゃねえか!」
いい歳して何をやってるんだって? 地球のある島国のお遊び「ダルマさんが転んだ」よ。
これ、エイミアの訓練にはうってつけなのよね。
「次は私がやる! 私がやる!」
「待てよ、私のリベンジが先だ!」
なぜか「いい歳して」るリルやリジーには大好評なんだけど……あ、リジーはまだ一歳ちょいか。
「あのー……エイミアの訓練であって、あんた達の遊びじゃないんだけど」
「「遊びじゃない! エイミアとの真剣勝負だ!」」
「いやいやエイミアの訓練なんだっての……ていうか、聞いてんのかコラ!!」
「仕方ない! リル姉と戦いたくなかったけど!」
「上等だ! 格の違いを見せてやる!」
「アホかああああ!!」
ごんっごんっ!
「あいた」「いってええ!」
「エイミアの訓練だっつってんの!! いい加減にしないと剥くぞコラ!!」
「「す、すいません……」」
まったく! 目的と私欲を混同しないでほしいわね。
「じゃあ次はリジーよ。ちゃんとした訓練をお願いね?」
「はい……(そこまで言うならサーチ姉がやればいいのに)」
「……聞こえてるわよ。まあ、リジーがそう言うのなら、私がやってあげるわよ」
「ええ!? サーチがやるんですか!?」
エイミアがかなり動揺している。ま、そりゃそうか。
「……サーチがやるのがマズいのか?」
リルが不思議そうにエイミアに聞いてきた。
「マズいです……マズいんですよ! 私、『ダルマさんが転んだ』でサーチに一回も勝ったことがないんです!」
「ダルマさんが〜……」
「……」
「転んだ!」
「……」
「ダルマさんが〜転んだ!」
「……」
「うー……ダルマさんが」
「はい、終わり」
「ひえっ! ま、また負けました……」
リルはアゴが外れたんじゃないかってくらい、口を開けっぱなしにして驚いていた。
リジーも相当驚いたようだ。手にしていた“不殺の黒剣”を足元に落としている。
「……二人ともどうしたの?」
「ど、どうしたの……って……」
「サーチ姉……どうやって近づいたの?」
どうやってって……。
「……歩いて」
「「それはわかってる!」」
「ていうか、それ以外に何があるのよ?」
「いいか? 私達がどれだけ慎重に近づいても、エイミアの≪蓄電池≫に引っ掛かったんだ。何でお前は普通に歩いて近づけるんだよ!」
「ああ、そういうことか。エイミアの静電気は場所によって強弱があるから、弱いところを感じとって、そこを通過すれば簡単に近づけるわよ」
「……静電気の強弱を……」
「感じとれればって……」
「簡単よ。コツさえ掴めれば……ね」
リルとリジーは頭を抱えてり空を見上げたりしてから。
「「……どんだけ難しいコツなのよ……」」
……と呟いた。
≪絶対領域≫。いつか話したように、修得条件は不明とされていた究極のスキル(ソレイユ談)。
一説には一つの道を極め、その先にまで踏み出せた者のみが掴める……とされている(ソレイユ談)。
「でも……それは違う」
私にはわかった気がする。≪絶対領域≫とは何なのか。
なぜ世の中には道を極めた人が多数存在するのに、このスキルを修得した人がいないのか。
それは……後半にて。
数日後、最近私達の周りをチョロチョロと嗅ぎ回ってるヤツがいたので。
「……うぐあ……ぐふ」
捕まえてみた。
「さっさと話しなさいな。誰に指示されて私達のことを探ってたの?」
「………」
「あらそう? 何も言わないつもりなんだ……だったら」
「な、何をする気だ」
ごぎぃ
「あぎゃあああああああああっ!!」
「さて……指は何本あるかしら? いっぱい折れるわねぇ」
「や、やめてくれ! 話す、何でも話すから許してくれ!」
「協力してくれるの? ありがとう♪ じゃあ、最初に聞きたいことは……」
うわあ、おもしろいくらいペラペラと白状してくれるわ。
「……なるほど。エイミアの弱みを握って……」
「試合を棄権させるつもりだと……ぐっ!?」
「それだけじゃあないみたいね……」
「い、いや、何のことか……」
男の喉に手をかけたまま、耳元で呟いた。
「弱みを握られて、どうしようもなくなった女が一人。何をしようと抵抗できない女が一人。ホントに邪な考えが過らなかったのかしら?」
手に力が入る。
「ぐぎゃ……ぐ、ぐるじ……」
「あんたみたいなゲスを飽きるほど見てきたから、ゲスが考えそうなことぐらいは……」
指先に魔力を集中し、≪偽物≫を発動。
ブシュッ
「ぐげ………!!」
「……お見通しよ」
男から手を離す。鮮血が滴り落ちた。
「さて……このお礼はしっかりと返さないとね」
また日は変わって、エイミアの試合の日。
「うわあ……強そうです」
「心配しなくても大丈夫。新しいスキルをちゃんと使いこなすことができればね」
「サーチには通用しないじゃないですか!」
「あのね……あんだけ訓練に付き合えば、対抗手段の一つくらい考えつくわよ」
ていうか、初見であんたのスキルを破れるのは魔王様くらいよ。
「自信を持って……勝ってらっしゃい♪」
「……始め!」
「うらあああ!」
ブン! ブウン!
エイミアは問題なく避けてるわね。
「おのれい! ちょこまかと!」
ブンブンブン!
「く……! な、なぜ当たらん!?」
「何故って言われても……≪電糸網≫でわかっちゃうんです」
「ス、スタンネット!? 何だそれは?」
「ほら、あなたの左手が背後のナイフを掴みました」
「!!!」
「あなたは最初から私の≪電糸網≫に包まれてるんです。あなたの動きは私に筒抜けなんです」
「が……がああああ!」
「これは単なる自棄ですね」
そう言ってから男の一撃を避けて。
「えい」
ぱかん!
脳天に釘棍棒がめり込んで勝敗は決した。
さて、うんちくの続き。
≪絶対領域≫の修得条件は、二つのスキルを極め、それを融合させること。
エイミアは≪蓄電池≫と≪ダルマさんが転んだ≫の二つのスキルを融合し、、≪絶対領域≫の≪電糸網≫を開眼したのだ。
え? ≪ダルマさんが転んだ≫がスキルなのかって?
エイミアのスキル欄に載ってるんだから、スキルなんじゃないの?
あ、そうそう。私も成長したのよ。
「はあ、はあ……何故……」
リルを手懐けようとしていた貴族を、追い詰めている。
「何故なんだ……」
逃げた先に必ず現れる私に、恐怖して震える貴族。
「何故、私が隠れた場所がわかるんだああああ!!」
「なぜって……あんたの乱れた息使いが、わからないわけないじゃない」
あんたは私の領域の中にいるんだから。
「うわあああ! 死ねえええっ!!」
完全に自棄になったらしく、がむしゃらに剣を振りまくる。当然、そんなモノが私に当たるはずもなく。
ドスッ
「がっ! っ………」
ドサッ
貴族は息絶えた。
「私も……エイミアほどしゃないけど、掴めたのよ」
究極への道標、をね。
…難産でした…。