第十六話 ていうか、ニャンコ仮面はベビーフェイス、つまり正義。
「阿呆が」
「な、何だよいきなり!」
「何だよいきなり、じゃないわよ! なんであんなに目立ってるのよ!」
バレるリスクが高くなるだけじゃないの!
「え? 目立ってた?」
…………自覚無しかよ…………。
「……で、何なの、あの格好は?」
……前世的に例えるなら……学生のプロレス同好会で、お笑い担当に作った衣装がめちゃくちゃスベった感じ。
「な、何なのとは失礼な! あれは私達猫獣人が祭礼の際に、必ず着る伝統的民俗衣装だよ!」
………………………………マジで?
「……………………ま、まあ……多種多様な文化があるしね…………」
「……何かスゴいバカにされたような気が……」
コンコン
「誰か来たわ! リル、仮面被って仮面!」
「お、おう…………どうぞ!」
ガチャ
「失礼します……おや、あなた方は……」
リルの控え室に訪ねてきた係員が私達の姿をみて目を細めた。
マズい。私達がここにいると怪しまれるか……。
「私達、この……」
……しまった、登録名聞いてない……。
仕方ない、適当に。
「……ニャンコ仮面のファンなんです!」
「ニャンコ仮面……?」
係員が私の顔を訝しげに見る。後ろでリルは口をパクパクさせ、エイミアとリジーはぽかんとしていた。
「……なるほど、ニャンコ仮面でよろしいのですね。登録の際に、名前をお伺いするのを忘れていましたので……わかりました。ニャンコ仮面で登録しておきます。では失礼しました」
……はい?
「あ、あの」
つい係員を呼び止めてしまう。
「何か?」
「……どう考えても偽名なんですが……大丈夫なんですか?」
「全く問題ありませんよ」
そ、そうなの?
「なかには家庭の事情等から、本名を名乗ることができない方もいらっしゃいますので……偽名も認められています……ただし」
ただし?
「もし優勝した際には、公式記録として偽名が掲載されてしまいますので、そこだけはご了承いただければ……ということです」
係員は軽く会釈をしてから去っていった。
「ちょっと待てええぶごっ」
その係員を追っかけようとしてたリルをキャッチして控え室に戻った。
ばたん
「むぐー! むぐー!」
口を押さえてる私をめっちゃ睨み付けるエイミア。
「静かにしてなさいてえええええっ!!」
か、噛みつきやがった!
「ふー、ふー……てめえ……なんでニャンコ仮面なんて、ふざけた名前にしやがったんだあああああ!!」
見た目だよ!
「あ、あんたね……」
「元々はサーチ、お前が獣人の姿で出場しなきゃこんなことには……!」
確かに。
けど。
「……あんたが遅れなきゃよかったんじゃない?」
「うぐっ」
はーい、私の判定勝ちー。
「く、くそおおおおっ! うわーん!」
あら、マジ泣きしちゃった。
「……そんなにイヤなのかな、ニャンコ仮面……」
「……私ならイヤですね」
「エイミアも?」
「だって、優勝しても記録される名前は『ニャンコ仮面』なんですよね? 私でも戦う気力が削がれるんですから……リルは……」
もっっと戦う気力削がれるわね。
「大丈夫。リル姉はちゃんと戦う」
リジー?
「今回はリル姉にとっては重要な大会だから」
リルにとって重要な大会?
「どういうこと?」
「私からは言えない……リル姉に直接聞いて」
……リルに……直接か。
「うわーーーーん!!!」
……当分ムリそうね……。
それにしても豪快な泣き方……。
リルは一度泣き出すとなかなか泣き止まないみたいなので。
「……いいんでしょうか、私達だけ夕ご飯で」
「待ってたら日が暮れるわよ……実際に暮れかかってたし」
リルはもう二時間は泣いてるからね……やっぱ豪快だわ……。
そんな会話をしながら何を注文するか話していると。
「あの、すいません」
「……はい?」
「大会の係員さんから聞いたんですけど、ニャンコ仮面さんのお知り合いの方ですよね?」
ブッと水を吐くエイミア。汚いわね。
「げほげほげほ!」
「だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫です大丈夫です……リジー、エイミアをお願い」
リジーは頷いてエイミアの背中を擦る。
「あ、ごめんなさいね……ニャンコ仮面がどうかした?」
「あ、はい。実は……」
「わ、私のファンというのはおま……いや君達か?」
ぜひニャンコ仮面さんに会わせてください、という要望をリルに伝えたところ。
「きゃあああ! ニャンコ仮面さまーー!!! 素敵ですー!」
「す、素敵!? わ、私のような者には過分な言葉だな……」
「きゃあああ! 控えめなニャンコ仮面さまはもっと素敵ですー!」
めっちゃノリノリだった。
「……ていうかさ、ニャンコ仮面の何がいいの?」
「すいません、全然わかりませんし、理解できません」
「……私も理解不能」
だよね。
私がおかしいのか……と思っちゃったわよ。
「今度の試合は観戦しに行きますので頑張ってください!」
「ああ、わかった! 私の華麗な試合をぜひ観に来てくれたまえ!」
「「きゃあああああ!!」」
……宝塚じゃないんだから……。
「……リル……」
「何も言うな! 言わないでくれ……」
そう言ってリルはベッドの中で丸まっている。そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「私が〜♪ 華麗な〜♪ 試合を〜♪」
「にいいいやあああああああっ!!!」
……リジーにからかわれてベッドでのたうち回るリル。
「……リジー……あんた変わったわね……」
「そうか? 色々と学習しているだけ」
かなり余計なことを学習している気が……。
「まあ……いいカモフラージュよ。普段のリルからは想像もできないしね……このまま続けよ」
「……サーチ姉が悪い顔をしてる」
「サーチてめえ……」
「私には〜♪ 過分な〜♪」
「わかった悪かったやめてくれええええええっっっっ!!!」
そして、数日後。
ついにやってきました!
「それでは予選トーナメント二回戦抽選会を開始いたします!」
二回戦、三回戦と進んでいく度に、再抽選するという謎ルールがある大会なので。
「第一試合! ユナンvsニャンコ仮面!」
……ということがあったりする。
「…………いきなりかよ…………」
「いいじゃない。ファンの子達は大喜びよ」
「サーチてめえ……」
私は第十八試合、リジーが第二十試合、エイミアが第二十三試合となった。リジーとエイミアがニアミス。危ない危ない。
「助かりました〜……リジーとは当たりたくないです……」
「……私も。エイミア姉とは嫌だ」
「「勝てる気がしない」です」
「「……あれ?」」
「……お互い様だったのね」
私でも戦いたいとは思わないわよ……特にエイミアとは。
「そういえばリルの対戦相手の……ユナンでしたっけ?」
私は対戦表を見て確認する。
「……そうね、ユナンってヤツよ。知ってるの?」
「直接知ってるわけじゃないです。でも噂はよく聞きますよ」
噂?
「良い方の? 悪い方の?」
「良い方は全くありません」
……すごいヤツね。
「どうやらユナンって人は……『一度でも勝てば刑を免除する』とか言われて出場した死刑囚らしいんです」
……うわあ……。
完全な盛り上げ役じゃない。
「ユナンの罪状って?」
「私が聞いた話だと……」
はあ!?
皇帝の足をふんじゃっただけ?