第十五話 ていうか、リルの出場に黄色信号……。
疲れた。
「良かったです〜……どうやら全員医療検査は問題無かったみたいですね……」
疲れた。
「まあ……な。一人を除いて……だけど」
「え? 誰が……あ」
……疲れた。
「サーチ姉ありがとう。おかげで助かった」
……疲れた。
「このソフトクリーム、とっても美味しいからあげる」
「リジー! あんたはホントに気が利く可愛い妹分だわ〜〜!」
私はリジーの頭をワシャワシャと撫で回す。
「…………リジーと比べると…………ぺちゃ○いと二の腕太くんは何をしてるのかしらね〜……」
「ぺちゃ……!」
「二の腕……!」
エイミアとリルのこめかみに血管が浮かぶが知ったこっちゃない。
「……あんたら、私がここまで連れてこなかったら、どうなってたか……わかってる?」
「「うっ」」
ソフトクリームを一舐めしてから、二人に呟いた。
「……抹茶パフェと野イチゴのタルトね」
「「………………はい」」
めちゃくちゃ高いヤツを食ってやるんだから!
「えー……サーチとリジーとエイミアは問題無し。だが……」
リルを指差す医務官。
「そこの獣人はダメだ。さっさと帝都から出ていけ」
……ちぃ。やっぱりこうきたか。
「な、何故ですか!? リルはちゃんと正々堂々と戦って勝ったんですよ!」
エイミア。正々堂々では無いわよ。
「あのなあ……前回の戦いを見ていれば、別人が戦ってたってすぐわかる。どう見ても身長が違いすぎるだろ!」
あ、そっちか。
確かに私とリルとじゃ身長差が10㎝以上あるからね〜……。
「ちょっとリジー。≪化かし騙し≫で身長は誤魔化せなかったの?」
「流石にサーチ姉とリル姉くらい差があると無理」
「……あんだけ見た目が変えられるのに?」
「動かないのならできる。あれだけ動きまわるんじゃ、身長の誤魔化しはムズい」
ふうん……そういうもんなのか。
「リル、どうするの?」
「仕方ねえな……私は一足先にタンプに行ってるか……」
「……わかったわ。そういうことだから医務官さんよかった?」
「リルは棄権でいいんだな? 最初から出なければいいものを……」
……ムカつくヤツね。
「まあいいわ。行こ行こ」
「そんな……いいんですか、リル! サーチ!」
「エイミア……もういいから……」
(早くここから移動するわよ)
「え? ……あ、はい」
「……この辺りでいいわね」
「……まさかここまで露骨とはな……」
「え? 露骨って?」
え?
もしかして……エイミアは気づいてなかったのか。
「エイミア……リルが外された理由……何だかわかってる?」
「え? サーチが代わりに出場してたのがバレたんじゃないんですか?」
「違うわ。リルが獣人だからよ」
「獣人だからって……そんな理由で!?」
「そんな理由がここでは当然の理由なのよ。獣人が差別されてることはわかってたでしょ?」
「で、でもリルが不正してたからって……」
「あれね……まあ不正してたのは間違いないから、何も言えないけど……」
「……たぶんな、真っ当に試合したとしても、因縁はつけられたと思うぜ」
そう。だから私達は何も言わずに引き下がったのだ。
「医務官の後ろに警備隊がいただろ? 私達が抗議したら介入する手筈だったんだろうぜ」
「そ。ついでに野蛮な冒険者の数も減らせられれば一石二鳥ってわけよ」
貴族が勝つためなら何でもするってことね……。
「それじゃあ……この大会は帝国貴族が勝つための出来レースってことですか!?」
私とリルは顔を見合わせてから。
「「……何回も言ってると思うけど……」」
「え? そうでしたっけ?」
「……あんたがどんだけ人の話を聞いてないかわかったわ」
……今度からは耳タコになるくらいに繰り返してやる。
「で? リルはどうするの?」
「んなもん決まってる。出るさ」
「へ? 出る?」
……エイミア……。
「エイミアにはちゃんと説明しないとダメね……」
この大会の現状を知らなさすぎる……。
「私達が戦ってるのはトーナメント戦でしょ? 今の状態だとリルは棄権扱いになった以上、空きが出るわけ」
「え? そういう場合はリルに負けた相手が繰り上がるんじゃ?」
「私があれだけボコボコにしたのに?」
「ケガはもう回復魔術で……」
「…………ちょっとやり過ぎちゃったみたいでさ…………あと一ヶ月かかるみたい……」
「…………サーチ」
「……何よ」
「……手加減って言葉知ってます?」
うるさい!
「……まあそういうわけで、対戦相手も出場できないわけだから、この一枠を争ってバトルロイヤルすることになったのよ」
「あ、それでリルが出るんですか……てことはリジーの≪化かし騙し≫で姿を変えて?」
「無理」
「きゃ! びっくりした!」
「さすがにリルの動きに合わせて≪化かし騙し≫を維持するのは大変……以上」
「………………」
エイミアがぽかんとしてる。最近のリジーはつかみどころがないからね……。
「……とにかく! リジーの≪化かし騙し≫が使えない以上は、変装するしかないわ」
「変装……ですか」
「変装……なのよ」
リルが「変装ならまかせろ!」と意気込んでいたけど……。
「……不安しか感じられないのは私だけ……?」
「「………………」」
微妙な顔をしたエイミアとリジーは……どう見ても「不安です……」と言っているようにしか見えなかった……。
次の日。
トーナメント二回戦を開く前に、残り一枠を賭けたバトルロイヤルが開催された。
「朝早くにリルは出ていったわ……」
「……何でなんだろう……リル姉のことが全く信用できない……」
私もエイミアも同じよ……たぶん。
「あ……始まったみたいですね」
出場者が五十人以上もいると、あちこちで戦闘中になるからワケわかんない。
「あ、あそこで何人か吹っ飛びましたね」
「バカねえ……あんな狭いとこで雷魔法使えば自分も痺れるわよ」
「こんな混戦に槍持ち込んでる馬鹿がいる……」
……そんなバカ騒ぎが一時間ほど続き……。
「……最後に残った二人のどっちかがリル……なのかな……」
「……私としてはリルが負けててほしいです……」
エイミアがそういうことを言うとは……でもわからないではない。
「……あの二人……よくあの格好で戦おうと思ったわね……」
……ひどい。ひどすぎる。
「あ! ネコ仮面のアッパーが決まりました!」
「……キツネ魔人は立てそうにないですね……あ、審判が止めましたね」
これで決まりか。
…………ネコ仮面ってことは…………あれがリル……よね……。
「リル姉…………幻滅」
……うん。
パーティ全員でリルのファッションセンスを叩き直しましょう。
え? 具体的に格好を説明しろって?
……これ以上パーティの恥を晒すのはイヤなので勘弁してください。
……その頃。
ノックアウトされたキツネ魔人が目を覚ました。
「くそ……いてて」
痛みを我慢しながら仮面を外す……。
「……サーチどこにいるんだろ」
……ルーデルだった。