第十四話 ていうか、音速地竜で私の前は走らせねえ!
あの後、酒場でリル達と合流し。
「私だって……私だって……巨乳にニャりたいんニャーーー!!!」
半分自棄酒になっていたリルに付き合い。
「ちょっと! リルどれだけ飲んだんですか……!」
「も、もうダメ……飲めない食べれない寝られない……」
「リジー! しっかりしてください、リジー!」
「は、吐きそう……」
「ぎゃあああ! 駄目です駄目です駄目ですぅ!」
「……リル姉達、どんだけ飲んだのよ……」
「………………半分以上はサーチが飲んだんニャ……」
……というような痴態を一晩中晒し続け……。
……朝。
とんでもないことに気づいた。
「……ふわあ……んん〜」
酔いつぶれた三人を引き摺って宿まで帰ってきた私は、二時間ほど横になっていた。
「おっかしいな〜……いつもなら夕方くらいまで爆睡できるのに……」
お酒に関しては無制限で飲めるけど、飲んだ次の日は決まって寝過ごすのが私の常だったんだけど……。
たまに気になることがあると目が覚めちゃうことがあるのよね。
「……何か忘れてるのかな……」
思いだそうとはするんだけど……何だろう……。
「私がこれだけ気になることがあるってことは……何か重要な……」
……こういう状態になるときは、決まってろくなことがないのだ。今の私達にとって重要なこと……重要なこと……。
「……温泉♪」
ち・が・う!
ちょっと温泉から離れろ、私!
……今は闘技大会の予選中で……。
私達の一回戦が早々に終わっちゃって……二回戦まで二週間くらい時間が空いたから……。
二週間くらい……。
二週間……。
……二週間……。
「そうだ……あのとき……」
受付の人が何か言ってた……。
えっと……。
何だったっけ……。
……。
…………。
………………。
…………あ。
『初戦は二週間後ですが』
そうだ。初戦は二週間後に始まる……って言ってたんだ。
で。
『ただ、十日後に出場者全員を対象とした医療検査が行われますので必ず参加してください。なお、すっぽかした場合……』
……うわ……。
『出場資格の取り消しとなりますのでご注意を……』
……あと何日!? ていうか、明日じゃない!!
「今から乗合馬車の特急に乗っても間に合わない……!」
ならエイミアに頼んでワイバーンの力を借りるしかないわね。
「エイミア! 起きて!」
「……zzz」
「一大事なのよ!! 起きろおお!!!」
「……ん〜……んふ♪」
……唇に……柔らかい感触……。
「……て、何さらしとんじゃあ!!」
どごっ!
「へぶっ」
…………あ。
「エイミア! ちょっと起きて! エイミア!」
「………………」
しまったああああ!! 完全に目ェ回してる〜〜!!!
こうなったらアレを借りるしかない!
「あ、いらっしゃいませえひええっ!!」
「人の顔を見て叫ぶってどういう了見よ! ……じゃなかった!」
私は全速力で貸し馬車屋へ走り込んだ。目的のモノがないか探すが……ない!
「ちょっと! 音速地竜はいないの!?」
「は、はい……一匹だけ……」
「いるのね!! 貸して貸して今すぐ貸せ!」
「は、はいわかりました! ……あの料金は……」
金貨を叩きつける。
「これで足りる!?」
「お、お釣りがかなり出ますよ」
「お釣りはあげるから今すぐ連れてきて」
「は?」
「今すぐ連れてこいっつってんだよ!」
ごすぅんっ!
≪偽物≫でハンマーを作って店員の前に叩きつけた。
「わわわわわかわかわかわかりましたああああ!」
「ほらほらほら! さっさと走りなさい!」
ぐわああ!!
音速地竜はイヤそうな鳴き声をあげる。
音速地竜。
ドラゴンではあるが知能も低くそこまで強くないため、Cクラスというドラゴンとしては最低クラスとなっている。
ただし、足の速さはドラゴンで一二位を争うほどの実力を持っている。そのために飼い慣らして乗用として使う人もいたりするのだ。
ただ……。
「こら! 言うことを聞きなさいっての!!」
ぐわあ! ぎゃあ!
……ワガママで凶暴。人の言うことなんてほとんど聞きやしない。
「あーばーれーるーなー!!!」
ぎゃあ! ぎゃあ!
……あまりにも使いヅラいため、貸し馬車屋のレンタルで借りるか……愛好家が好きで乗ってるくらいが関の山……。
え? 何で貸し馬車屋がレンタルしてるかって? 時と場合によってはどうしても高速移動が必要なことがあるのよ。
今の私達みたいに。
「言うこと聞かないと食うわよ」
ぎょっ!!?
ぎゃぎゃ!
音速地竜は直立姿勢をとって大人しくなった。
最初からそういう態度しなさいよね。
……ぎゅっ!
「よし……これだけ固く縛れば大丈夫ね」
……いまだに眠りこけているリルとエイミアとリジーを音速地竜の胴体に縛りつける。
荷物はもろもろ私の魔法の袋に放り込む。
「ぃよっし、いくわよ! ていやあ!」
音速地竜のお尻にムチを振り下ろした。
ばしぃん!
………………。
「あれ? 走らない?」
……ああそうか。ドラゴンの皮にはムチなんて意味ないわね……。
「ならっ!」
≪偽物≫でトゲ付き棍棒を作って振り下ろ……。
ぎゃぎゃ!
……す前に音速地竜は縮地並みのスタートダッシュで走り出した。
「をををををををっ!!」
これは……!
オフロードをF1マシンで走ってるような体感……!
「……もう何でもいいわ! ぶっちぎれええ!!」
ぎゃあおおおおっ!!
……音速地竜の鳴き声が、ドップラー効果を伴って響き渡った……。
「…………あと三分で締め切りでーす」
「あの……なんだっけ? ビキニアーマーと超巨乳の子がいるパーティ」
「ああ、竜の牙折りか。来なかったな」
「残念です……私応援してたんだけど……」
…………ドドドド…………
「……ん? 何の音だ?」
「何でしょうね……あれ? 向こうから砂煙……」
……ドドドドドドドド!
「「ソ……音速地竜の暴走だあああああ!」」
ドドドドキキキキキーーーーー!!!
「はあはあはあ……ま、まだ受付中……ですか……?」
「…………あ、は、はい! まだ大丈夫です!」
「良かった……サーチとリジーとエイミアとリル……受付お願いします……」
「は、はい……では本人確認を……」
「おらおら起きなさい!」
どごっどごっどごっ!
「ぎいあああ!」
「いったあああい!」
「あきゃああああ!」
「ほらほら! さっさと受付してきなさい!」
「ば、バカヤロ! いってえなあ……」
「……何で私ここにいるんですか?」
「サーチ姉ひどい。金棒でお尻殴るなんて……」
ぶうんっ
ずっどおおおおおおんっ!!
「……受付してくるか、木っ端微塵になるか、好きな方を選びなさい」
「「「受付してきます!」」」
………………はあ。
間に合った。
……ばたり




