第十二話 ていうか、リジー、かえんほうしゃ!
酒場への弁償で予算が吹っ飛び、財政難に陥ってしまった竜の牙折り。
「ごめんなさい……」
リジーにしては珍しく悄気ている。
……まあこれで平気な顔をしてたらマジで張り倒してたけど……。
「ホントにもういいわよ。その代わりに大会をバンバン勝ち抜いて、ジャンジャン賞金を稼いでね」
「……わかった。精一杯がんばる」
リジーは決意を新たにしたようだ。
「そう言えばリジー。あんた新しいスキル覚えたんだったよね?」
「うん。≪火炎放射≫」
「……まさか口から火を?」
「そのまさか」
どういう理屈のスキルなのよ!
「……油を飲まないとダメ?」
リジーは首を振った。
「試してないからわからない」
……試してないなら試せばいいわね。ここなら一切問題無いし。
「だったらここでやってみましょう」
「ここで? わかった」
「じゃあいくわよ……リジー! かえんほうしゃ!」
「ういっ! ぐおおっ!」
ごおおおおおおっ!
「あっつ……! スゴい熱量ね……もういいわよ!」
リジーが口を閉じると同時に火も消えた。
「リジーは熱くないの?」
「全然」
「……何も身体に異常はない?」
「……ちょっとお腹すいたくらい」
……たぶん……エネルギー代謝が激しいのね。
「でもスゴいじゃない! めっちゃ戦力アップよ!」
「そうなの?」
そりゃそうよ!
MPという縛りがない属性攻撃なんて、便利すぎるわ! これって、エイミアの≪蓄電池≫に並ぶくらい有用なスキルだわ。
……でもデメリットがなさすぎる気が……。
「…………リジー、もう一回できる?」
「わかった」
ごおお……ぷすんっ
あれ?
「もうムリ〜……腹減った……」
…………ああ、なるほど。
エネルギー代謝が激しすぎるのね…………結果的に連発はできないことが判明した。
「サーチ、リジー。まだ入ってるんですかー?」
先にあがったエイミアが呼びにきた。
言い忘れてたけど、私達はいま朝風呂中です。
「はいはーい。もう出るわよ」
「サーチ」
「何?」
「さっきなんで≪火炎放射≫をしたとき、ひらがなで叫んだ?」
…………何となくやってみたかったのよ。赤白のボール取り出して「戻れリジー」なんてやらないわよ。
着替えてるときに。
となりにいるリジーの胸に目がいった。
「……!!」
私より……大きい!?
とりあえず自分のを掴んでみる。
で、リジーのと比べてみた。
「……負けた……」
「?? ……サーチ姉、何がしたい?」
「……あんたに大きさで負けたのよ……」
「大きさ? ……もしかしてこれ?」
リジーは自分の胸を持ち上げて言った。
く……! これ扱いなの!?
「これ邪魔。重いし揺れるし肩凝るし。んー……削ぎ落とそうかな」
「削……ダメ! ダメダメダーメ! そんなもったいないことしてはダメ!」
削ぎ落とすくらいなら私によこせ!
「……でも邪魔だし……」
「もし削ぎ落としたらリジーの呪いアイテム全部解呪してやる」
「サーチ姉冗談ですよそんなことするはず無いじゃないですか」
…………これだけの美乳を削ぎ落とそうだなんてどうかしてる!
「……サーチ姉……私服着たいんだけど……」
……絶対にリジーを抜いてやるんだから!
「あの……サーチ姉……?」
……エイミアに声をかけられるまで、私はリジーを解放しなかった。
くそ……絶対リジーより大きくなってやる……。
「……ごめんね、リジー」
やり過ぎたのかちょっと腫れたらしい。
マジごめん……真っ赤になってる……。
「びっくりした。サーチ姉がマーシャン化したのかとへぶっ!?」
「それは失礼すぎるわよ!」
「ごべんばばい……」
……ずいぶんと話が脱線してたけど、私達はスパシールの温泉巡りをしているのだ。
スパシールは温泉の湧出量がめちゃくちゃ多いため、あちこちに共同浴場や露天風呂がある。
なので朝早くから浴場巡りをしてるんだけど……。
「……これで六箇所目か……あとどれくらいあるの?」
「そうですね……うわ、まだ半分もいってません」
「う゛〜……熱いし暑い……私はそろそろ限界……」
リジーはそろそろグロッキーか……。
「仕方ない。ここを出てから休憩がてら甘いモノでも食べよか」
「賛成です!」
「……甘いモノより冷たいモノ……」
「たぶんあるわよ」
「なら行く」
よし、決定!
あとは美味しい甘味処があれば最高なんだけど……。
「なかなか無いわね……甘くて冷たいモノ……」
「……難しいですね」
「……暑暑暑暑い……」
リジーがノックアウト寸前だ。
「うーん、安直だけどかき氷……」
「季節外れですよ、流石に……」
……かな。
いま新大陸は日本の季節でいうと春真っ盛りだ。
「うーん……ならソフトクリームかな……」
「サーチ、あれはどうです?」
ん? ……わらび餅……。
「……それだ!」
「ん〜! 冷たくて美味しいー!」
まさかこっちの世界でわらび餅が食べられるなんて〜!
「この風味がたまりません……!」
「ふう〜い……冷やされます」
「リジー、それを言うなら癒されますじゃないですか?」
珍しくエイミアがつっこみをいれてる。
……ていうか、竜の牙折りのつっこみ役はどこへいったのやら……。
「ねえサーチ」
「……ん、なあに、エイミア?」
「あそこに座ってる……」
んー?
「……ああ、向かいの席の?」
「はい、あのピコピコ動く猫耳、可愛いですよね」
「……は? 猫耳?」
……普通の人間にしか見えないけど?
「え? ほら見てくださいよ。ここに耳が」
ちょちょちょエイミア! 赤の他人の頭をいきなり掴まないの!
「はみゅっ!?」
「バカエイミア!! 何て失礼なことを……! あ、ホントにすいませんでした!」
「い、いえ……げっ!」
え? げっ?
…………あれ?……よーく顔を見てみると……。
………………。
「ごめんなさいねー、ちょっとこっち来てね……エイミア、リジーをお願い」
「は、はい……?」
エイミアが「何事?」 というような顔をして私ともう一人を見送った。
ガラガラピシャン!
わらび餅屋を飛び出して路地裏へ。
周りに誰もいないことを確認してから……。
びすっ!
「いて!」
連れ出した女の子にデコピン一発。
「何すんだ!」
「何すんだ! じゃない!」
エイミアの一言で気がついた。注意して見ると確かに猫耳が見えたのだ。
「そのカチューシャは、身につけた者の注意を逸らす魔術道具よね? そんなモノ装備してまで、何で甘味処にいるのよあんたは」
「あ、あー……これはだな……」
私は女の子のカチューシャを奪い取って叫んだ。
「言い訳は無用よ! 何やってんのよリル!!!」