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第十一話 ていうか、初戦突破記念飲み会!

 次の日の朝。


「どう? 短剣の有用性はよく(・・)わかった?」


「は、はい……わかりましたあ……ぐう……」


「はい寝た〜はいやり直し〜」


「ひゃぐ!? ……も、もう許してください〜! びえ〜……」



 試合で勝ったリジーは私達にVサインをして……そのまま崩れ落ちた。待機していた回復魔術士がすぐに駆け寄ったものの、リジーは大きなイビキを響かせて熟睡していただけだった。

 ただ会場の観客席からでは、そんなことはわかるはずもなく。


「ギリギリの戦いに勝利したものの、精神的、肉体的疲労がピークを越えて倒れた美女」


 ……という解釈がされた。

 結果、リジーはエイミアを超える注目株となってしまうわけだが……まあリジーが起きるまでは放置しておく。

 それよりも……。


「びええ……」


 ……いつまで泣いてんのよ!!


「エイミア! もう終わりにするから泣き止みなさい!」


「びええ……」


 ……泣き止まないし。

 それにしても、何でエイミアはいつも「びええ……」なのかしら。


「……エイミア。もう『びええ……』は聞き飽きたわよ。いい加減に止めなさい」


「びえ……ぐす……違う泣き方ですか?」


 そういうことじゃないんだけど……。


「…………つくつくほーし、つくつくほーぴぎゃ!」


「あんた私のことナメてるの!?」


「痛い〜! ……ち、違う泣き方にしたじゃないですか!」


「『鳴く』じゃないわよ! 『泣く』よ!」


 しばらくエイミアとぎゃあぎゃあ騒ぐことになった。ていうか、我ながら低次元な争いだなあ……。



「……まあ何はともあれ、パーティメンバー全員が一回戦突破となりました! みんながんばりました!」


 ……三人だけでパラパラと拍手する。むなしい。


「サーチ姉!」


「はい、リジー! 何ですか?」


「長い話はいらない。食べたい飲みたい」


 校長先生の話じゃないんだからそこまで長くないわよ!

 けど。


「食いたい飲みたいは同意します! だから乾杯!」


「「かんぱーい!」」


 ……私達は一回戦の前半に試合が集中していたので、二回戦が始まるまでにはかなり日にちがある。なので帝都近くにある温泉地スパシールへ繰り出すことにしたのだ。

 乗合馬車の特急に乗ること二日、ついさっき到着した私達はそのまま酒場へなだれ込んだのだ。


「それにしても、乗合馬車に特急があるなんて知らなかったわ……」


「あんまり一般的ではないですからね。観光地にしかないと思いますよ」


 ……こういうことはどこの世界でも同じか。


「ほらほらジャンジャン頼んで! 予算の心配はいらないから」


 このためにモンスターの素材を少し売り払ってきたのだ。とはいえ、三人で飲み食いするだけで尽きるような金額じゃないんだけどね……うん、売り過ぎた。


「すいませーん、オークのサイコロステーキ追加してくださーい! ……これ美味しいです」


「エイミアって野菜が好きなのかと思ってたわ……こっちもジョッキ追加で」


 幸せそうに肉を頬張るエイミアが答える。


「もぐもぐ……別に肉が嫌いだったわけじゃないです……もぐもぐ」


「そうなの? 今度は大ジョッキでもう一杯!」


「私……これ以上大きくなると(・・・・・・・・・・)嫌ですから……」


 ………………はい?


「これ以上……何が大きくなるとイヤなのかしら?」


「はい、最近二の腕が……あれ? どうしたんですかサーチ?」


「え? な、何でもないですよオホホホ」


 ……思わず特大ハンマー作っちゃったよ……霧散霧散。

 ていうか、そう言えば忘れてた。


「リジー静かね。ちゃんと飲み食いして……る……わね」


 リジーの周りには信じられない量のジョッキと皿が転がっていた。


「うーい」


 ……完全に酔ってるわね……。

 ……ん? この匂い……。


「まだまだ飲めまーす……うーい」


 リジーはぐびぐびと飲みながら何か呟いている。


「リジー? 大丈夫ー?」


「大丈夫大丈夫大丈夫ーうーい」


 うーいって何なのよ。

 ……それにしても油臭い……。

 ん!? 油臭い!?


「ちょっと何飲んでるのよ…………はあっ!?」


 リジーが飲んでいたのって……字が消えかかっててわかりにくいけど「火」と「禁」て書いてある……。

 まさか……。


「も、申し訳ありません! さきほどお持ちしたボトルは……」


 なぜか真っ青な顔をした店員さんが私達のテーブルに走ってきた。


「え? これ? 今、リジーが飲んでるけど……」


「えええっ!?」


 ……ていうか、これよく見たら「火気厳禁」って書いてあるじゃない!


「ヤバいヤバいマジヤバい! エイミア、リジーを捕まえて!」


「え? は、はい!」


「うーいー」


「ちょっとフラフラするな! 吐かないとマジ燃えるから!」


「うーいーうーいー!」


 救急車か!


「サーチ捕まえました!」


「よし! 吐かせるわよ〜……うりゃ!」


 ずどむっ!


「ぐぼぁげっ!」


 よし! 鳩尾にクリーンヒット!


「う……ぶ……【お食事中の方sorry】」

「きゃっ!」


 エイミアに少し飛んだ……っていうか、エイミアは静電気の塊みたいなものよね。


 パチッ ボオンッ!


 や、やっぱり!?



 どっかああああああああんんんんんん!!



「きいああああああああ!!! 熱い熱いあちあちあちーー!!!」


 か、髪の毛に火がああああああ!!!


「げほげほげほげほ……な、何が起きたボオオオ」


 リジーが正気に戻ったけど……口から火を吹いてるじゃない!


「きゃああ! リジー喋っちゃダメえええ!!」


「エイミア姉何がボオオオ」


「あっつ! あちあちあちあちー!! 熱いですー!」


 ばしゃああ!


 きゃ! 冷た!


「お客様! 大丈夫ですか!」


 大丈夫なわけないでしょ!


「な、何でリジーは火を吹いてるのよ!?」


「た、たぶん油を飲んだことが原因かと……」


 油ぁ!?

 何で油飲んで酔ってるのよ!?


「サーチ姉、髪の毛が燃えボオオオ」


「来るなああああ!」


「み、店が! 私の店がああ!」


「ご、ごめんなさボオオオ」


「「あっっちいけええええええ!!!」」



 ……この日。

 創業百数十年を誇る老舗の酒場が全焼した。

 原因は「不明」とされているが……居合わせた客の証言では「キレイな女の子が火を吹いてまわってた」とか何とか。



「すいませんでした……弁償します……」

「いえ……酒と間違えて油を出したウチの店員が元々の原因ですので……」



 その後。

 私達がムリヤリ押しつけた弁償と、近所の皆さんの援助によって再び酒場をオープンしたそうだ。



「たく……回復魔術で髪の毛が治せるから良かったものの……」


「サーチ姉ごめんなさい」


「……もういいわよ……」



 余談ではあるが。

 リジーが酔っぱらってたのは「油」じゃなく「高濃度のアルコール」だったということらしい。

 アルコールとはいえ「飲んだら死にます」程度のモノだったので相当危険だったらしい。

 それと…………なぜかリジーのスキルに≪火炎放射≫が追加されてました。スキルの獲得条件ってよくわからん。

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