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第九話 ていうか、何で私が注目されるハメに!?

 おかしい。

 何かがおかしい。


「サーチさんサインお願いします!」

「サーチさん握手してください!」

「サーチさんおっぱいハアハア……ぎゅべっ」


 最後の気持ち悪いヤツだけ闇討ちする。うーん、こんな形でアサシン系のスキルが役に立つとは……≪早足≫と≪気配遮断≫に感謝。



 私本人(・・)のデビュー戦が終わって、次の日の朝。いつものように朝風呂に向かう途中だった。


「あの……サーチさん……」


「ん? 何か?」


 この旅館で働いてる子だった。


「昨日の試合、見てました……とっても、とっってもカッコよかったです!」


「あ、ありがと……」


 フフ……なんか照れくさいわね……。


「あの、握手してもらえませんか?」


「いいけど……私なんかでいいのかしら?」


「サーチさんだからいいんです!」


 まあ、そこまで言うなら……右手を差し出すと、ガッチリと握手をされた。痛い。


「が、頑張ってください! 私、私……一生右手洗いませんから!」


「あ、え、ちょっと! ……行っちゃった……衛生的にちゃんと洗った方がいいよ〜」


 何てったって旅館なんだから……。



 それが最初だった。

 訓練の一環で走り込みをしていると。


「あ、サーチさんですね! 頑張ってください!」


 途中で屋台に寄って葡萄水を買うと。


「ほら、オマケしてやる。あんたの気概(・・)が気に入った! 頑張って優勝しろよ!」


 ……道具屋に行っても……。


「あなたのような方が必要なんです! 頑張って続けて(・・・)くださいね!」


 …………コイツら…………。


「あ、サーチさんですね! 本当にビキニアーマー着てるんですね! 今はなかなか着る人がいないので注目されて…………ます……よ…………あの……何か?」


「………………」


「……? ……ボク……何かしましたか?」


「………………」


「あの……えと……」


「………………」


「…………………………………………すいませんでした」



 ……ずっっっとこんな感じなのだ。正直に言ってウザいしいい加減にしてほしい。泊まっている旅館の女将に言わせると「一過性だから一二週間も経てば落ち着くわよ」 とか言ってたけど!


「サーチさんビキニアーマーくださぐげぇ!」


 ……そんなに待ってられないわよ!



 どうにかしなければ……と考えていたら。


「う〜……緊張します〜……」


 あっさりと解決法が見つかった。


「エイミア! 考えすぎだから! いざ負けそうになったら≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)で黒焦げにしてやれば一瞬でKOじゃない!」


 ていうか、それぐらいハデにやってくれれば、私への肝心は薄れるはず!


「……何かサーチの悪巧みを感じますけど……」


 鋭い。

 ていうか、何でわかるんだろう……。


「……私も竜の牙折り(ドラゴンブレイカー)の一員ですから……パーティの名に泥を塗りたくありませんから! 絶対勝ちます!」


 ……そこまで大層なパーティじゃないけど……。


「エイミア。勝ちに拘らなくてもいいの。私を含めた全員が願うのは……エイミアの無事よ。危ないと思ったら躊躇しないで降参しなさい。わかった?」


「……でも……私だけ……」


「エイミアだけじゃない。リルも、リジーもよ。私だって危ないと感じたらすぐに白旗をあげるつもりなんだから」


「サーチ……」


「だからね。がんばり過ぎない程度にがんばりなさいな」


「……はい!」


 ……さて……。

 あとは……と。



 そしてエイミア登場の日。


「えええ!?」


 ……控え室からエイミアの悲痛な叫びが響いた。


 バンッ


「どしたのエイミア!? 何があったの!?」


「きゃっ! ……サ、サーチですか」


 エイミアは上半身インナーのままで半泣き状態になっていた。


「……どうしたのよ? もうすぐ始まるわよ?」


「あ、ああ! これ! これ見てください!」


 そう言ってエイミアはいつも着ているドラゴンローブを広げた。

 ……ああ、そうだった。すっかり忘れてたわ……。


「なぜか胸元のボタンが全部取れてる(・・・・・・)んです!」


 エイミアを目立たせようと思って、ボタン取っておいたんだった……。


「うーん……今から直そうにも、間に合わないわね……」


 私なら間に合うと思うけど。


「え〜……どうしよう……」


 ……ちょっと可哀想だけど……私のために犠牲になってくれ!


「ん? んんん?? ……なぜかサーチを見てたら殺意が……?」


 怖っ!


「よ、よくわかんないけど! ホントに間に合わなくなるわよ!」


「え!? は、はいいっっ!」


 エイミアは血相を変えて走っていった。

 ……いつもなら嫌みにしか見えないけど……。


 ゆっさゆっさ


 ……今回は揺れまくれ。



「……エイミアはまだか!」


「す、すいません! 遅れました!」


「遅い! 時間はきちんと守るように!」


 ……何て偉そうに言う審判が前屈みになるんじゃないわよ。


「エイミアは減点とする……始め!」


 ……マズいわね。これでタイムアップに持ち込めなくなった。


「悪いが勝たせてもらう。君の対策は万全だ!」


 そう言って対戦相手は鎖の分銅を地面に叩きつけた。そして鎖を身体に巻く。


「何だアイツ? 自分の身体を地面に固定してるのか?」


 ……そう来たか!


「……よくわかりませんけど……一撃で決めます! せいでんきよ、敵を薙ぎ払え! ≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)!」


 バリバリ!


「……え? 効いてない?」


「エイミア! あいつは接地(アース)をしているから電気は通じないわ!」


「え? あーす?」


「……静電気を地面に逃がしてるのよ! あの鎖を何とかしなさい!」


「鎖を……?」


 さらに言い募ろうとする私の前に、審判が立ちはだかった。


「試合中の助言は禁止だ」


 くっ!


「……エイミア……」


 ……ごめん。助けられない……。


「武芸では僕のほうが有利だ。勝負あったね」


 何気にエイミアに降参を勧める対戦相手。


「いーえ! 勝負はこれからです!」


 エイミアは釘こん棒を構えて突進した。


「えい!」


 エイミアの大振り(・・・)の一撃が炸裂!


 ブウン!


 ……せずに空を斬った。


「バカ! だから大振りするなって言ってるのに……!」


 こんなとこでエイミアの悪い癖が出た。致命的よ!


「甘いね」


 そう言って笑う対戦相手。


 がぎいん!


 金属がぶつかる音が響いて……エイミアの釘こん棒が場外に飛んでいった。

 勝負あり。エイミアも考えるようになったわね。


「さて。武器も無くなった。まだやるのかい?」


 対戦相手は嘲笑しながら言い放つ。


「あの……」


 エイミアがおずおずと尋ねた。


「何だい? 降参かい?」


 エイミアは「いいのかな?」という顔で私を見る。

 ……あいつまだ気づいてないのね……。

 エイミアは視線を対戦相手に向ける。


「あの……本当にいいんですか(・・・・・・・・・)?」


 そう言ってエイミアは持っている鎖の分銅(・・・・・・・・・)を見せた。


「ん……ああ! その鎖は!?」


「もう一度聞きます。本当にこのまま電気を流して(・・・・・・)いいんですか(・・・・・・)?」


 対戦相手は真っ青になった。

 そりゃあそうよね。接地(アース)に使ってた鎖をエイミアが掴んでるんじゃ、電気を流してくださいって言ってるようなものよ。


「く……! ……クソ……………………参った、降参だ……」


「……勝者、エイミア!」


 わあああああああっ!!!


 来た来た来た!

 私以上の大歓声!


「あ、あ、ありがとうございます〜!」


 エイミアが戸惑いながらも手を振って歓声に応える。

 ゆっさゆっさと胸を揺らしながら。

 よし! 私の計画カンペキ!



「エイミアさん! 握手してください!」

「エイミアさん! サインください!」

「エイミアちゃんのおっぱいハアハア……」


「いっやああああああ!! 近寄らないでくださああああいっっ!」


 しばらくの間、必死に逃げ回るエイミアの叫びが街中に響いた。


「がんばりなさいエイミア。一過性のことだから、一二週間も経てば落ち着くわよ……」


 ……たぶん私、相当に悪い顔してるだろうな……。

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