第八話 ていうか、試合が終わって疲れてるのに刺客かよ。
またまた差別的用語あります。ご注意を。
「サーチじゃなくてリル……あれはマズいですよ」
回復魔術士が何人かで囲んでいるところを見ると……重傷じゃなく重体なのかもしれない。
「わかってるわよ……ちょっとイラッとしちゃってさ……」
「ここにいると危険。控え室に戻ろう」
わかってる。
戦いが終わった途端に私に……いやリルに向けられる嫌悪感……恐怖……そして殺意。
「エイミア、リジー、行きましょう」
私達は急いで引き上げた。
廊下の陰に入ったところで。
「リジー! ≪化かし騙し≫解いて! 早く!」
「ん……ホホイのホイ」
何よその呪文!?
ボムッ
「うわ! ゲホゲホ……ていうか、この煙……」
「……あれ? サーチに戻るんですか?」
「これでおけ」
おけじゃなくておkね! どうでもいいけど!
「念のためよ。リジーは髪色変えて! エイミアは髪上げて!」
……やっぱり。ごっつい音を響かせて、追っ手が来てるじゃない!
「あ! リジー、耳と尻尾は隠せる?」
「楽勝」
……ガチャガチャガチャ!
「おい、貴様らあ……あ、あれ?」
私達を見て、追いかけてきた騎士らしき男達は戸惑う。
「……こいつらではないな?」
「違いますね。ビキニアーマーの女はいませんでしたし……もう一人は狐女でしたから」
「……驚かせたな。すまなかった」
私は少しビックリしたような表情を作って応対する。
「い、いえ……何かあったんですか?」
「うむ、罪人が逃走中なのでな」
……私達、相手に勝っただけで罪人扱いっすか……。
「あんた達は猫女と狐女を見なかったか?」
「猫女と狐女って……獣人の方ですか?」
「そうだ。獣人風情が帝国内で好き勝手してくれたのでな」
……前世なら人種差別で一発アウトの発言ね……。
「この先の控え室に入りましたよ」
「お、そうか! 情報感謝する……行くぞ!」
ガチャガチャガチャ……
「……行ったわね。リジー、控え室に≪化かし騙し≫いける?」
「……厳しいけど……小規模なものなら」
「それでいいわ。リルとリジーとエイミア、この三人の幻影を少し印象を変えて控え室に出して」
「わかった」
「それとエイミア……ちょっと」
『く! カギがかかっているぞ! 開けろコラ!』
『逃げられると思ってるのか!』
(どう? ここから届きそう?)
(この距離なら大丈夫です。気絶させるくらいでいいんですね?)
(OKよ……)
男達は痺れを切らしたのか、ドアを蹴破るつもりのようで……。
ガンッ! ガンッ!
『畜生!』
『待ってろ、俺が……おらあ!』
ズドオン! バン!
一番デカい男がタックルをかましてドアが開いた……て言うより壊れた。
『いたぞ! おとなしくしろ!』
全員剣を抜いて入っていった……よし計画通り!
(エイミア!)
(はい! ≪蓄電池≫!)
バリバリバリバリズドオオオン!
『『『ぴぎゃああああああああ!!!』』』
バタバタゴトン!!
(……流石は鉄剣に鉄の鎧。電気をよく通すわ〜……)
(あとはどうします?)
倒れていたドアを持ち上げて枠にはめ込み。
(エイミア。ちょっと……)
……また楽しい悪巧みを話した。
「ふわあ……疲れました」
会場の外を歩きながらエイミアは肩を叩いていた。
「驚きました……せいでんきの使い方次第で金属も溶けちゃんですね」
ドアと枠が金属製だったので出来た荒業。
エイミアの≪蓄電池≫を応用して、アーク溶接してもらったのだ。ただ相当な静電気を消費するらしく、エイミアへろへろである。
「リジー、印象はどういう風に変えたの?」
「ん……顔はそれなりに。あとエイミア姉とリル姉の胸を交換した」
………………一番……効果的だけど……。
「リル姉への説明はサーチ姉にまかせた」
「うぇっ!?」
マ、マジで!?
何て無理難題をふっかけてくんのよ、あんたは!!
「……はあ……わかったわよ……」
まあ、これで追撃を避けることはできるわね……。
しばらくは。
念のために泊まっていた旅館をチェックアウトする。
「ここから離れた場所にします?」
「ううん。そこでいいわ」
私が指差したのは隣の旅館だった。
「……こんな近くだと移動する意味が無いんじゃ……」
「何言ってんのよ。相当時間稼ぎできるわよ」
個人の建物に捜索が入る手続きが結構めんどくさいのは、前世でもこの世界でも変わらない。一応その辺りは調べてあるのだ。
「どうせ顔が知られるのは時間の問題だから……あんまり場所は変えない方がいいでしょ」
「そうですね……私みたいな方向オンチにはありがたいです……」
エイミアには100%マッパーはムリね……芸術的だったわよ、あのオンチぶりは。
結局リジーも同意したので、そのまま隣の旅館にチェックインした。
次の日。
昨日のムリが祟ったのか、エイミアとリジーはまだ夢の中だ。
「……何で実際に戦った私よりも、脇役が疲れきってるのやら……」
そんな事を言いながらも手早く準備し。
「……あつ……はあ〜」
朝から風呂へ浸かった。何とこの旅館、部屋ごとに専用露天風呂があるのだ。
「……最初からここにしとけば良かった〜」
ゆっくり浸かって眠気を覚ましたあと、二人を叩き起こした。
「ふあ〜……眠い……ってちょっとリジー!」
「zzz」
「歩きながら寝ないでください! 起きて起きて!」
なかなかに器用なことをするリジーに感心しつつ。
「……ごめん、間に合わないから先に行くね」
「あ、はい! 始まるまでには着きますから! リジー起きて! 起きてってばー!」
「zzz」
……≪早足≫をフル活用して会場に向かった。
「サーチさんですか! 急いで急いで!」
「は、はいいっ!」
ごめんなさい! マジごめんなさい! 風呂に浸かりすぎて遅れましたー!
「大丈夫です、間に合いましたから」
よ、良かった〜……。
「それではサーチとレージュは前へ!」
おお、選手入場に間に合った!
「正直な話……観客にしてみたらどうでもいい試合よね……」
初戦だし。
と思ってたら。
わあああああっ!!!
あれ!? 大歓声!?
「いいぞーねーちゃーん!」
「ガンバレー!」
あれ? 何で私が人気!?
不思議に思いつつも……。
「えい」
「ぐっはあ!?」
「勝者サーチ!」
……サクッと勝って。
後から調べてみた。
『今時珍しい! ビキニアーマーで頑張る女の子!』
『竜の牙折りの若きリーダー・サーチ特集』
……いつの間にか私の特集が組まれていた。