第四話 ていうか、何だか尾行されてるみたい。
いや〜、個人的にだけど憧れてた冒険者に出会えたから、めっちゃハイテンションだわ。
「じゃなきゃエイミアをどっかに捨ててたかもね……あー重い!」
ムリヤリにでもテンション上げないとやってられないのよ! 酔いつぶれて寝ちゃってる人って、何でこんなに重たいのかしら……ていうか、おんぶしてるせいで背中の感触がモロだし。
男の人なら嬉しいんだろうけど、私的には苛立ちしか感じないわ!
「はあー、はあー……『体力』の数値が低い私には地獄だわ…」
“刃先”に手伝ってくれって頼むべきだった……。
「ひぃ〜、ひぃ〜、ふぅ、はぁ、はぁ、つ、着いたあ…」
あれから一時間くらい、休み休み這うようなスピードで、何とかたどり着いた……。
「はあ……はあ……とにかく、部屋に放り込まないと……」
半分引き摺るような状態で部屋の前までいき、蹴破るつもりでドアにクリティカル。
ばぁぁん!
「ん〜にゃあ…もう飲めないのら…」
「たく…いい気なものよね…」
今度絶対に何か奢らせる! そう決めながらエイミアをベッドに投げ込んだ。
外れたドアを直し、厳重にロックして外へ。そのまま私は裏へまわり気配を消す。しばらく周囲に溶け込んで、下手な尾行をしてきた連中を待ち受ける。
タッタッタッ……
「おい、どこ行きやがった!!」
「クソ! 完全に見失ったぞ!」
冒険者じゃないわね……貴族の衛兵かな?
「この辺りに潜んでいるかもしれん! 手分けして探せ!」
そう言って散開する衛兵達。バカねぇ……これじゃあ私の独壇場じゃない……ウフフ。
ガンガラガンッ!
「クソ……何でこのオレがこんな下っぱがやるようなことを……」
何かブツブツ言いながらゴミ箱を蹴飛ばしている。あーあー、注意力が散漫になってるわよ。
スタッ
「やってらんねえ」
ブスッ
「がっ! ぐぶぅ」
……ドサッ
「口から鮮血~♪ 一丁あがり〜」
うーん、簡単すぎて準備運動にもならないわね。
「あと五人。さっさと片付けて、お風呂入ろうっと♪」
私は再び闇に紛れ込んだ。
「アルフー!! ガイー!! ちくしょう! 一体何が起きてるんだ!?」
あらあら、いつの間にかひとりぼっちなのね。
「うう……一旦引き上げるしかないか」
ちょうどいいわ。あんたを逆に尾行すれば、黒幕もわかるし。
「しかし部下の行方がわからん以上は戻るわけにもいかないし……どうしよう……」
これって絶対に優柔不断なヤツね。時間かかりそうだなあ……さっさと片づけちゃおかな。
「ううむ……見捨てることはできん……だが……」
よし、殺ろ。
スタッ
「むっ、何奴……がはっ!?」
≪偽物≫で作ったトンファーで肩を殴りつける。怯んでいる間に首筋に針を突きつけた。
「動かないでね?」
私の声と針の感触で事態を悟ったのか、言われたとおりに固まった。
「はい、いい子ですね」
「ぐ、馬鹿にするな! 私にこんなマネをして、タダですむと思うなよ!」
「それはあんた次第よ。ま、あんたの仲間みたいになりたくなければ、おとなしくするのね」
「私の仲間? まさか……部下達は無事なんだろうな!?」
「……あんたね、か弱い乙女を尾行するような変態、無事で帰すと思う?」
「な……まさか!」
部下が死ぬ可能性を考えてなかったわけ?
「今頃は仲良くあの世へ向かってるわよ……あなたも後を追いたければ、喜んで協力してあげるけど?」
そう言って針を少ーしだけ突き刺す。
「ひっ!?」
男は崩れ落ちて。
「た、頼む! 命だけは、命だけは助けてくれえええ!」
命乞いを始めた。
「それはあんた次第だって、さっき言ったでしょ。私の質問にちゃんと答えなさい」
「わ、わかった……」
「じゃあ単刀直入に聞くわ。あんたのご主人様は誰?」
「………」
「あーあ。針ってどうしてこんなに重いのかしら。手が疲れてきちゃったー。手元が狂っちゃうかもねー……こんなふうに」
少しだけ針を深く刺す。
「う……うあああああああああ!! アプロースだ! アプロース公爵家だあああ!!」
あっさり吐いたわー、楽でよし。
「ありがとう。最初からこれくらい協力的なら死なずに済んだのにね」
ブズズッ
「え……ぁ……」
男はあっさりと事切れた。ていうか、最初から生かして帰すつもりはなかったんだけどね。
「それにしてもアプロース公爵家か……公爵なんだから当然大物よね」
私自身が帝国のことを知らなさすぎるわ。
「……明日は一日かけて情報収集ね」
まずは闇ギルドから当たるか。明日の予定を考えながら後片付けを始めた。
次の日になっても配下の兵士達が帰らなかったアプロース公爵家では、怪しい雰囲気を漂わせる人間の出入りが多くなっていた。
「現皇帝の義理の父親か……そりゃ大物どころじゃないわね」
朝一番に闇ギルドで聞いた情報で、アプロース公爵家の権勢の規模が確認できた。いきなりのラスボス登場とは思わなかったけどね……。
「当主のハイリッヒ・ヴァン・アプロースは典型的な権力の亡者。皇帝へのゴマ擂りと下の者へ威張り散らすことしかできない」
闇ギルドでの情報では今の当主はただの俗物っぽい。家の権力だけが取り柄みたいね。
「子供達はとことん甘やかされて育ったため、父親と似たり寄ったりか」
よく潰れないわね、この公爵家。
「となると……大会に出場する長男のための露払いってわけか」
本拠地に忍び込んで天井裏で盗み聞き……なんて時代劇でよくあるヤツをやってみようと思ったんだけど……必要ないわね。わざわざ危ない橋を渡ることもないし、退散退散。
『……ーチ……サーチ……』
ん? 念話水晶?
『サーチ! サーチってば!』
エイミアか。
「はいはい、どうしたの? 何か掴めた?」
エイミアには元貴族の伝を辿ってもらって、帝国貴族から情報を集めてもらってたのだ。
『すいません、今回は私の伝は使えません。かなりマズい状況です』
「……何があったのよ」
まさか、エイミアに危険なことが!?
『実は……父が帝国に来ているらしいんです』
……はい?
「何で?」
『わかりません! でも間違い無く父が来ています! 見つかったら絶っ対に面倒なことになります!』
ホントにめんどくさいことになりそうね。
「仕方ないわ、とりあえず引き上げて。まだ見つかったわけじゃないわね?」
『はい……今は仲が良い公爵家にお世話になってるみたいですから、私には気付いていないかと』
……はい?
「……公爵家?」
『はい』
ちょっと……勘弁してよ。
「どこの公爵家?」
『どこのって……帝国で公爵家なんて一つしかないですよ?』
ああ……アプロースなのね……つまり。
「ここにいるわけね」
『ここって……まさかアプロース公爵家に居るんですか!?』
「そのまさかよ。おまけに今回の黒幕確定」
『……めんどくさ……』
激しく同意するわ。
このタイミングでエイミアの父親が帝国に来てるって……偶然なわけないよね。
ホンットにめんどくさい……。