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第三話 ていうか、新たなるAクラスの登場!

「帝国の貴族は予選免除!? そんな不公平じゃないですか!」


「バカ! 声が大きい!」


「あ……ごめんなさい」


 夜。

 エイミアと一緒に闇ギルド付属の酒場で、夕ご飯兼情報収集に来たときだ。

 エイミアが会話の中で「そういえば貴族がトーナメントにはいませんでしたね?」と言い出したので私が答えたら……冒頭の反応だったのだ。

 私はエイミアを近くの椅子に座らせて、自分も着席した。


「いい? 帝国内では貴族達が絶大な権力を持っているのよ。普通に考えて、わざわざ予選から出場してくるような暇な貴族(・・・・)がいるわけないわ」


「えー……」


「もっと言うとね、歴代の優勝者には帝国貴族以外はいないと思う」


「そ、それは無いんじゃ……」


「開会式で言ってたじゃない……『帝国貴族が冒険者達を蹴散らすのを楽しんで下さい』って。たぶん貴族と対戦することになった冒険者は、大概が辞退してるんじゃないかしら。金か脅迫か、あるいは闇討ち。ろくなもんじゃないでしょうね」


 私は周りを見渡してから声のトーンを下げた。


「……それにここはギルドといっても闇の組織。どこに何がいたって不思議じゃない。貴族の配下が聞いてたりしたら厄介なのよ」


「それは……確かに……そうですね」


 そう言いながらも私は背もたれにもたれかかって緊張を解いた。


「まあ、まだ予選も始まってないのよ。今からガチガチに緊張したって仕方ないし……今は食べて飲んで楽しもう!」


「……はい、そうですね! すいませーん、オーダーお願いしまーす♪」



「あー……食べたし飲んだし大満足……」


 闇ギルド付属の酒場にしとくには、もったいないくらい美味しかったわ……♪


「ホントに……! 味もボリュームも文句無しですね」


 すると私達の話が隣のテーブルに聞こえたらしい、酔っぱらった冒険者らしき男達が反応した。


「おう! お嬢さん達はいい舌をしてるらしいな!」


闇ギルド(こんなとこ)だから見た目は汚いがな、この酒場のシェフだけは一流なんだよ!」


 相当酔ってるみたいでかなりのハイテンションだ。


「そうですよね〜! 見た目だけじゃ何もわからないんですよ! ちゃんと中身を吟味しないとダメなんです!」


 こら、エイミア! 話に交ざらないの!


「「「お〜〜〜!!!」」」


 ほらもー! 変に盛り上がっちゃったじゃない!


「お嬢ちゃん話がわかるじゃねえか!」

「よし、おじさんの奢りだ! 飲め飲め!」

「え? え?」


 あ〜あ〜……エイミアが絡まれた……。


「おおい、そこの露出狂の姉ちゃん。今夜ワシとハアハアおぐぽおっ!?」


 ……大事な場所を押さえて泡を吹く変態男を踏みつけながら。


「この()殿方もあなた達のお仲間?」


 と聞くと全員キレイに揃って否定した。そのまま外まで引き摺っていって、ごみ捨て場に放りこむと、また私は店内に戻って男達にニッコリと微笑んで。


「一緒に飲むのは構いませんけど……節度はちゃんと守ってくださいね?」


 ……男達はまたキレイに揃ってカクカク頷いた。その余韻が浸透したのか、酒場を静寂が支配する。

 ……そんなに私のことが怖かったのかな……?


 ゴトッ


 不意に私の前にジョッキが置かれた。


「あいつらもそんなに悪い連中じゃないんだ。これは俺からの奢りだからさ、これで勘弁してやってくれ」


 私の前に立っている男は、見た目からしてこの酒場のコックみたいだ。無精ヒゲがなかなか似合うワイルド系だ。私の好みかな……。

 じゃなくて! もっと肝心なことがあったんだ!

 私に気づかれることなく私の背後に立ったのよ、こいつ。何者?


「……そんなに警戒しなくても、毒や媚薬は入ってないよ」


「そんなこと心配してるんじゃないわ」


 私には効かないし。


「いくら飲んでいたから……とはいえ私が背後(バック)をとられたのがショックだっただけよ」


「ああ、それは失礼したね……俺は元冒険者だからね」


 元……ねえ。


「元の割りには足の運びが現役っぽいわね……」


 アサシンさん、と口パクだけで伝える。


「……まあ、裏が無ければ闇ギルドに所属なんてしてないからね」


 この男……。


「……私はサーチ。竜の牙折り(ドラゴンブレイカー)のリーダーよ」


 何故か、ね。


「ほう……それはそれは……」


 コックは表情を消した。


「なら俺も名乗らないと失礼だね。俺はレヴィン」


 レヴィン……?


「……こっちのほうが有名かな……“刃先”(エッジ)


 ブウウウウッ!


「うわ! 汚い!」


「ゲホ! ゴホゴホゴホ……エホ……」


 ええ……えーーーーーっ!!!


「大丈夫……かい?」


「あんたがエッ…………!」


 あ、危ない。でかい声出しちゃうとこだった。


「……ふうーー……。あなたがAクラス冒険者の“刃先”(エッジ)なの?」


 “刃先”(エッジ)

 有名か? と言われると微妙だ。

 “飛剣”や“竹竿”に比べるとネームバリューはずいぶん下がるし、どちらかと言うと「知る人ぞ知る」的な存在だ。


「……まあ、俺の異名を知ってるくらいだから、君も脛に傷があるみたいだね」


 “刃先”(エッジ)の名前が知られているのは……裏の世界。

 そう。“刃先”(エッジ)はおそらくこの世界で一番のアサシンなのだ。そりゃあ、私程度では敵う相手じゃあないわ。


「私もアサシンよ……元だけど」


「あ、成る程……でもなんで今は重装戦士に?」


 私はビキニアーマーを指差す。


「……まさか……ビキニアーマー(それ)を装備したいから!?」


「そうだけど……なんで腹抱えてうずくまるのかな……?」


 ぜっったい笑い転げてるよね、こいつ。


「……嘘だろ……ヒヒヒヒ……まさかアハハハ……ぶっくくくく」


 ……今ならキルできそうな気がする……ていうか、キルしたい。


「くくくく……それにしても……どうやって転職触媒を手に入れたんだい?」


 ……………………………………へ?

 転職触媒? ナニソレ?


「……?」


 ……何だかわかんないけど……誤魔化さないとヤバそうだし。

 ……よし。


「……い、言うと思った?」


「……そう……だろうね。転職触媒なんてあれば国が傾くくらいだしね……」


 ……どんだけヤバい触媒なのよ……。


「しかし……そんな貴重な触媒を使ってまでビキニアーマーを装備したかったのか……」


 ……国が傾くくらいの価値があるアイテムを使ってまで転職した理由がビキニアーマー。

 うん。バカ扱いされるわね。


「…………夢だったのよ。別に笑われたって構わないわ」


「ふうん……今のは(・・・)嘘じゃないね」


 今のはって……お見通しってこと?


「まあ君にも事情があるんだろうしね……これでお開きにしよう」


「? 何で急に……」


「君の連れ……」


 “刃先”(エッジ)が指差す方向を見ると。


「ハラヒラホレ〜♪」


 ……数十本の酒樽と、同数の冒険者が転がる中央で……すっかり出来上がったエイミアが目を回していた。



「……お金はこいつらから徴収しておく」


 エイミアに飲み比べで負けた冒険者()を見やった“刃先”(エッジ)が言った。


「……助かります……」


 ……これ全部払ったらカンペキに破産だわ……。


「じゃあ……サーチだっけ……また会おう」


「……ええ……またね」


 ……できれば平和的な再会であってほしいわ。

 ………………。

 それより……エイミア(これ)どうしよう……。



「……久々に面白い相手が見つかったよ……例の件、引き受けよう……え? そうだよ。出てあげるよ……」


 闘技大会に、ね。

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