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第二十四話 ていうか、パーティ一時的解散!

 何と何と、剣台館の女将であるクリアさんは凄腕だった。

 私達が依頼した件を整然とこなし、さらに。


ついでに(・・・・)指名手配の件も何とかしておきましたよ」


「「「「ありがたや〜」」」」


 クリアさんは、私達が帝国を脱出するために港町に潜伏している……という偽情報をガンガン流してくれたらしい。

 おかげで帝都に近い方が比較的安全、という願ってもない状態になったのだ。


「ありがとうございました……これ、つまらないモノですが、ご自由になさってください」

「ニャッ!?」

「よろしいのですか? では遠慮なく食べますね(・・・・・)


「ニャーーーーーッ!? いやニャッ! いやニャッ!」


「「……冗談ですよ」」


 ……リルは崩れ落ちた。


「……クリアさんはノリがいいですね」

「いえいえ。半分本気ですから(・・・・・・・・)


 え゛っ?

 …………マーシャンと同じ世界の方のようです。


「二三歩後ずさってる時点で、何を考えていたのかわかったけど……大丈夫よ。私が好きなのは小さい(・・・)子だから」


 ……何が小さい子……かはお察ししください……。

 リルに言ったらぶっ殺されるレベルです……。



 あと半年。

 腕試し程度で考えていた闘技大会だったけど、そうはいかなくなった。


ブラックリバー(ここ)から帝都までは半月もあれば行ける。余裕をもって行くとしても一ヶ月。だから実質五ヶ月しかないわ」


「五ヶ月か。短いな……」


 今回は当然ではあるが対人戦ばかりだ。私やリルみたいに、慣れている人は問題ないけど……やっぱりエイミアが一番問題ね。


「エイミア。対人戦って経験ある?」


「対人戦ですか? うーん…………盗賊……くらいですね」


 盗賊かー。盗賊だけかー。


「あとは私達と訓練で戦ったくらい?」


「………………うーん………………」


 忘れるくらいだから、ほとんどないわけね……。


「あ、思い出しました! 小さい頃に格闘術は習いました」


「「格闘術!?」」


 ウソでしょ!? 全然気づかなかったわよ!


「……エイミアにその素振りがなかったから、全然わかんなかった……本当に習ってたのか?」


「はい! 間違いなく習ってましたよ」


 ……正直私も疑問視してるのよね。格闘術を習っていた人は、何かしら動きに特徴が出るものなのだ。


「……わかった。エイミアがそう言うのから、確かめてみましょう」



 裏庭を借りて対峙する。


「さあ、どこからでも来なさい! 遠慮は無しよ!」


「……わかりました。じゃあ行きます!」


 たったったったっ


 …………。


 たったったったっ


 ……真正面から突っ込んでくるわね。


 たったったったっ


 ……えい。

「はみゅっ」

 ごろごろばたーん!


 ……勝負あり。


「痛い、痛いですー!」


「ちょっと! どこが格闘術習っ」


「えい!」


「てたうわぁっ!」


 なんと! 私を地面に転がして、マウントポジションを取った! 油断してたわ……エイミアも見事に爪を隠してたわね。鳶じゃなくて能ある鷹だったわけか!


「くっ! ぐっ!」


 ……ウソでしょ……私が寝技で遅れをとるなんて……! くぅ……このままだとやられる……!

 ………………。

 ……って、あれ?


「……エイミア……?」


「はい?」


「……なんで攻撃してこないの?」


「……あの……サーチに聞きたいんですけど……」


「? ……何よ」


「ここから……どうすればいいんですか?」


 ……はい?



 結論からして。

 エイミアが習っていたモノは格闘術ではなかった。


「つまり……今のマウントポジションは……上の体位(・・)なわけね」


「はい……ここから何をするのかは、一切教えてくれなかったんです」


 ……何と言ったらいいのか……エイミアが習っていたソレは……あの……寝技オンリー(・・・・・・)でして……。

 話を聞く限りだと「嫌がってやろうとしないエイミアを『格闘術の練習だ』とウソついて習わせていた」というとこみたい。貴族くらいになると、女の子にはそっち系の寝技(・・・・・・・)は必修なのだそうで。


「…………私、貴族に生まれなくてホントに良かったって、今さらだけど思うよ……」


 しみじみと呟くリルの隣で。


「う〜〜……おかしいとは思ってたんです。思ってたんですよ!」


 ……エイミアがあり得ないくらい顔を真っ赤にして、釈明にならない釈明をしていた。


「……でも……」


 私からマウントポジションをとれるくらいの技術は……使えるわね。


「エイミア。その寝技(・・)の技術、戦闘用に使えるようにしない?」


「戦闘用ですか?」


「……確かにその方がいいな。用途に問題があるだけだし、技術的にはサーチの上をとれるほどの腕前なんだし……」


 というわけで。

 エイミアには戦闘的な寝技の数々を教えることになった。

 最悪はエイミアが相手を地面に倒してしまえば何とかなる……と言えるくらいにまで鍛え上げれば……大きな武器になる。


「……わかりました。勝つためです。徹底的にお願いします」


「わかった……だけど」


「何ですか?」


「相手が男だったら止めときなさいね」


 ……たぶん相手が喜ぶだけだから。


「? ……わかりました」


 ……結局この寝技がエイミアを助けることになるのかは……正直わかんない。ま、やらないよりはマシってことで。



 それから一週間後。

 私達は一時的にパーティを解散した。

 何てことはない、修行の方法が私とリルとで違うので別々になることにしただけだ。

 で、各自の修行方法とは。


「……里帰り? リルが?」


「里帰りって言うより修行だよ。婆様に鍛え直してもらおうと思ってな」


「婆様……あ、思い出した。リーリアドふぐっ」


「……お前それ以上言ったら……」


 ごめんなさいごめんなさい! 殺気がハンパなかった……。


「婆様ならいろいろな武器に精通してるからな」


 するとリジーが反応した。


「いろいろな武器に精通……ということは呪いの武器にも?」


 ……流石にそれは……。


「ああ。間違いなく大丈夫だ」


 ええ!?

 そんなあっさりと肯定しちゃうんすか!!


「婆様は元ウェポンマスターだったからな」


「ウェポンマスター!?」


 すごい超稀少職業だったのね……。

 え? ウェポンマスターって何か教えろって?

 読んで字の如くだよ!


「私も行きたい連れてって連れてけ」


「お前がか? まあ大丈夫だと思うけど……婆様はキビしいぞ?」


「大丈夫」


「……わかった。なら来いよ」


 ……そうか。リジーはリルと行くか。


「リル。私はエイミアと訓練するわ」


「そうか……どこかへ行くのか?」


「ん〜……マーシャンに相手してもらおうかと」


 私もエイミアも魔術師相手には分が悪い。だからマーシャンに仮想敵になってもらって、対処法を考えようと思っているのだ。


「マーシャンか……じゃあ送り迎えを頼んだか?」

「まあね」


  マーシャンは転移魔術も使える、ということだったので、念話でお願いしてあるのだ。

 …………ただ見返りが…………ねえ。

 ごめんなさい、エイミア。またあんたが被害に遭うわ……。


「!! ?? あれ、寒気が……?」


 ……鋭いわね。


「サーチ、転移魔術で送り迎えしてもらえるなら、私もマーシャンと模擬戦してみたいんだが」


 ……誰か言うと思った。


「……私も同じこと考えたんだけどね……一回転移すると半年は使えない制限があるんだって……」


 ついでに一週間くらいはヘロヘロになるそうだ。


「……ならいい。リジーと修行するさ」


 さて……話もまとまったことだし……。


「リル……半年後ね」

「ああ……半年後だ」


 そう言ってリルは手を出した。その手を私は握り返す。

 そのまま引き寄せてハグした。


「……元気でね」


「ああ……お前もな。ただでさえお腹出しっぱなしなんだからよ……腹こわすなよ」


「余計なお世話よ……」


 そう言って離れた。

 私がリジーの方へ向かうと、エイミアがリルに飛び込んでいくのが見えた。

 たぶん大泣きするわね……。


「リジーもしっかりね。リルのお婆さんに迷惑かけちゃダメよ」


「むう……ニャンコ先生もエイミア姉も子供扱いする……」


「子供よ。だからいっぱい学んで早く大人になりなさい」


 外見はもう十分だけど。


「むうう……わかった」


 そしてリジーもハグする。


「……サーチ姉」


「……何?」


「私そういう趣味は無いへぶっ」


「そういう意味じゃないわよ!!」


 気分が台なしよ!



 そして。


「…………ふう……待たせたのう」


 マーシャンが到着して。

 出発のときが来た。


「ごめんね、ムリ言って」


「何の何の。久々にエイミアのを堪能できふがふが」


「余計なこと言わないの!」


 危ない危ない……。


「……サーーチーいぃぃ……」


 びくっ


「……な……何?」


「どういうことですか……」


「あ、いや、その……」


「また……私を……売りましたね?」


 あ、あははは……。


「毎度毎度……」


 や、ヤバい……。


「毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎ーーーーー!!!」


「……エイミア、『度』が抜けておるぞ」


「あんたは火に油を注ぐなー!!」


 ばりばりばりばりばりばり!

 どっっっっかああああああああんんん!!!


「「んぎゃああああああああああああ!!!!」」



 こうして。

 私達は半年の間、大会に備えての特訓期間に入った。

 あとでマーシャンの関節全部外してやる……けほ……。

一度閑話をはさんで新章です。

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