第二十三話 ていうか、いよいよエントリー。
「ふああ〜……おはよ〜」
昨日は遅くまで訓練してたから、身体がガッタガタ……まだ疲れがとれてない感じだわ……。
「おう」
「おはよサーチ姉」
「………………」
……?
リルとリジーの頭文字リのコンビはいつも通りだけど……エイミアがなぜか耳まで真っ赤にしてテーブルに突っ伏していた。
「……エイミアどしたの?」
聞かれたリルは苦笑いしていた。
「エイミアのヤツ、お前との訓練が終わってからも一人で練習してたらしいんだ」
「……感心じゃない」
「でな、この旅館全体に静電気を広げていたら……」
………………。
「……あちこちの部屋の様子がエイミアに筒抜け状態になっちゃって……」
あ〜……この旅館には確か新婚さんも止まってたわね……。
「………………」
私は無言でエイミアの隣に座り。
耳元で。
「……昨日の夜、私が何してたか言ったら外すわよ」
……と呟いた。
「ひぇっ!! わ、わかりましたー!!」
これだけ慌てるってことは知ってるわけね。
……夜は禁止にしておこう。プライバシーもクソもあったモンじゃない。
「じゃあまずは参加申込みだけど……行政支所でいいのかしら?」
行政支所っていうのは、こっちの世界でいう市役所みたいなもの。
「たぶんな。でも帝都で直接申し込めばいいんじゃねえか?」
「……帝都行くまでに締め切られたら、どうすんのよ……」
「あ……確かにそうだな……」
正直わからないことだらけなのだ。一度詳しく聞いてみる必要はあるだろうし……。
「じゃ、行きましょうか」
「お、おいサーチ! お前ビキニアーマーでいくのか!?」
……何を今さら……。
「いつもそうじゃない」
「じゃなくてさ。指名手配されてるからって……」
……ああ、そうだった。
ビキニアーマーだと目立つからって普段着着るんだったっけ。でもめんどくさいな……。
「……まあいいわ。変装するのはリルだけね」
「本当ですか!? やったー、巻かなくていいんだ!」
「どっちでもいい」
「な、何で私だけ……」
「暴れたのは誰だったかしら?」
「……私だけでいいです……」
よろしい。
じゃあ、大会の参加申込みをしてきますか。
「……あの〜……サーチ……」
……。
「私達……目立ってますよね……」
わかってるわよ。
「何ででしょうね……」
……。
「やっぱり……その……」
「実に不愉快だわ!」
そう叫んでから、エイミアの胸ぐらを掴んだ。
「ひ、ひえええっ! わ、私、何かしちゃいましたか!?」
「何でビキニアーマーの私より、普通の格好したあんたの方が注目されてるのよ!!」
さっきから視線が私から逸れてると思ったら、全員エイミアを見てたわよ! 別に見られたくてビキニアーマー着てるわけじゃないけど……なんかめちゃくちゃ複雑な気分なんだよ!
「あーもー腹が立つ! あんたが悪意がないのが、余計に腹が立つのよ!」
「えええ!? そんな、理不尽ですよー……」
「理不尽なのはあんたの胸よ! 何で歩くだけでゆっさゆっさ揺れるのよ!」
「そ、そんな〜……リル、助けてください!」
そう言われたリルは。
「……私も思いはサーチと同じ」
黙殺した。
「そんなあああああ! リジー、あなたなら助けてくれますよね!?」
リジーは少し考えてから。
「エイミア姉。諦めが肝心」
……見捨てられた。
「な、何でえええ!」
「サーチ姉に喧嘩売るより、エイミア姉を売った方が安全」
「リジーーーーーー!!!!」
あらら。リジーにも見捨てられたか。
「……ぐす……びえええ」
……さすがに可哀想になってきたな……周りからみれば私が悪者だし……。
「エイミアごめん……私が意識しすぎてたわ」
そう言ってエイミアを離した。
「おい……今ので更に目立ってたぞ」
え?
言われて周りを見てみれば……。
「げっ! 注目の的じゃない!」
「何て言ってる間に警備隊もきた」
「……リ、リル! 猫耳が見えてるわよ!」
「あ、帽子が! や、やべえ!!」
『あの獣人……指名手配されてるヤツに似てないか?』
『確かビキニアーマー着てるのと一緒にいるとか……』
『間違いないな! 捕まえろ!』
うわあああ! 何か大変なことにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
……こうなったら!
「すぅー……ぶふうっ!」
『うぐっ! な、なんだ……身体が……』
『痺れて動けない……』
「お前、何をしたんだよ……」
「ん? 昨日あんたの顔に吹きかけたヤツ」
「毒霧かよ! でも私にかけたヤツとは違ってなかったか!?」
「私は三冠の魔狼に勝手に番認定されてるのよ。これぐらいできるわ」
「……そういう問題か?」
「まあいいじゃない。逃げ切れそうだし」
完全に撒けたみたいで、追ってくる気配はない。しかし困った……ここまで騒ぎになっちゃうと移動しづらいなあ……。
「サーチ。袋光ってる」
リジーに言われて魔法の袋を見ると……確かに光っていた。
これは念話水晶の光。誰かから電話……じゃなくて念話がはいってるんだ。
「えーと……ないないない……」
急いでポケットを探るネコ型ロボットの気持ちがわかるわ。
「…………あった!」
早速念を送ってみると……ニーナさん?
「どうしたんですか、ニーナさん」
『サーチ出ましたね。今いる場所を右側に進んでください』
え? え?
「あ、あの……?」
『説明は後で。今は急いで』
「は、はい!」
言われてたとおり右側に入っていった。
『…………そうです。その建物です』
……その後ニーナさんのナビゲートに導かれて来た建物……って……。
「……剣台館の裏口じゃん!」
そう、そこは。
昨日まで泊まっていたリジー大好き旅館の剣台館だった。
『まさかこちらに泊まっていたのですか?』
「……そのまさかです」
『……つくづく何かを持ってますね……』
何かって何よ。
『とにかく中に入ってください』
結局何なのよ……。
がらっ
「いらっしゃいませ〜! ブラックリバー闇ギルドへ……って、あら? リジーちゃん?」
やっぱり女将さんだ……。
「……ここが闇ギルドなんすか」
「そうですよ〜。ニーナさんから連絡あったんだけど……あなた達だったんですね……」
……どんな話がいってるかは想像がつくけど……聞きたくない。
「ここは闇ギルドです。あなた達がどれだけ後ろ暗い過去があろうと一切感知しません」
……後ろ暗いと言っても……リルが怒って警備隊の詰所を半壊させたくらいかな…………十分大事か。
「その上であなた達がご希望なさることは何ですか?」
私はみんなの顔を見て……同時に頷く。
「私達は……」
「「「「闘技大会への出場を希望します」」」」