第二十話 ていうか、湯治とマッサージ。
〝死神の大鎌〟が出てきたとなると、私達が勝手に判断しないほうが良いだろう、ということで。
『サーチ達は何かしら荒事を引き寄せますね……』
とりあえずニーナさんに報告をして、ギルドで対策を検討してもらうことにした。
「そうよね〜……仲間にハイエルフの女王はいるわ、〝三冠の魔狼〟に番認定されるわ、果てには魔王ソレイユと友達になるわ……」
ついでにエイミアの聖剣には元最高神もいる。死にかけだけど。
『……強運と言うべきか凶運と言うべきか迷いますが…………あ、すいません。対策会議が始まるようですので一度席を外します』
「わかったわ。結果は教えてね」
『わかりました。では』
……ホントは教えちゃマズいんだろうけど、その辺りは以外と融通が利くのよね……全くありがたい。
「リジー、欲しいのは普段のあんたの態度や、物欲しそうな視線で充々分にわかったからさ。おとなしくしてなさいよ?」
「良い子にしてる」
良い子って……幼稚園児かっつーの!
「…………あんた何歳よ…………」
「正式にはまだ0歳」
……そう言えばそうだったわね。
「おいサーチ……露天風呂に浸かってやることかよ……」
え?
前世でも風呂にスマホ持ち込んでたから、全然違和感なくやってたけど……。
「……変?」
全員頷いた。
「……つーかよ。風呂に水晶玉持ち込んで、ブツブツ独り言を言ってるヤツ……関わりたいか?」
……イヤです。
そう言えばニーナさんも「湯気で視界が悪いですね」とか言ってたわね。
「ん……やめる……」
……今さらだけど周りの痛い視線に気付いた。
風呂の後に、私とリルはマッサージをしてもらうことにした。小まめに治療をしてるけど、完治まではあと少しらしい。まあこれはリフレッシュも兼ねてるので時間をかけている。
エイミアとリジーは遊びに行った。二人してピンポンにハマっているらしい。
「しかし〝死神の大鎌〟を賞品に出してきた意図がわからねえな」
まったくだ。
装備することなんて当然ムリだし、売ろうとしても値段はつかないだろうし、持ってても重いだけだし……。
「……そうよね……正直、優勝賞品というより厄介モノを押し付けられる、て感じだし」
なんせ曰く付きを越えた、悲惨な伝説付きだからねえ……。
「でもマーシャンの話だと、呪剣士は問題なく装備できるんだろ? もしそうならリジーの大幅な戦力アップになるぜ」
……ハアアアア……。
ホントにそうならありがたい限りなんだけどね……。
「私も最初はそう思ってたのよ……ただ大きさがねえ……」
「……そんなにデカいのか?」
私はリジーが置いていった〝首狩りマチェット〟を指差していった。
「あれの三倍」
「はああああっ!? 三倍だあ!?」
あの大鉈で約2m。その三倍です。
「はっきり言って持ち運ぶだけでも……邪魔なのよねえ……」
「……そうだな……サーチとエイミアだけでも、目立ってしょうがないのに……これ以上は御免だぜ……」
悪かったわね。
「それに〝死神の大鎌〟は有名過ぎるからねー。持ってるだけで町に入れないでしょうね」
「まっったく良いとこがないな」
「そうなのよ……」
ていうか、よく考えてみれば、それ以前の問題だった。
「……私達さ、優勝したつもりで話してたわね」
「……そうだな。まだ優勝もしてない段階で話すことじゃなかったな」
さすがにムリだしねえ……。
「そう考えたらなんか気が楽になってきたな……ふああ……気持ち良くて眠い……」
「……そうね、眠たくなっちゃうわね」
「……」
「……リル?」
「…………zzz」
ホントに寝てるし。
「すいません、リルのマッサージを激痛コースでお願いします」
「いいんですか?」
マッサージ師の人は苦笑いしながら聞き返してきた。
「構いません」
「わかりました……えい」
「zzz……いっっってえええええええっ!!!」
「まだ背中の筋肉が悪いみたいですね……やあ」
「いっっぎゃあああああああ! 死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ゆっくり治してもよかったんですが……お元気そうですので一気に治します……よいしょ」
「にゃあああ! にゃあにゃあにゃあ! に゛ぃやあああああああああああああ!!」
うわ……痛そ。
「サーチ様はどうされます?」
そうね……そろそろ戦闘に参加できないのもイヤになってきたとこだし。
「私もリルと同じので。完全に治っちゃうんなら、もっと痛くても構いません」
「……いいんですか?」
「ええ。おもいっきりやっちゃってください」
「……わかりました……ふぬ!」
おっ! なかなかね。
「え? 痛くないんですか?」
「まーだまだ大丈夫よー」
「うぬ!? な、ならこれなら!」
「おー」
「くぅ!? これでどうだ!」
「……うー」
「ぐぬぬぬぬ! ならば禁じ手を!」
「……あーうー……てどこ触ってんのよ!」
「おぼおっ!」
「……痛いニャア……」
あらら。リルは完全にノックアウトね。
「でもかなり回復したでしょ?」
「回復したかなんてわかんねえよ……」
「そう? 私は完全復活って感じだけど?」
「ていうか痛くないのかよ!?」
「そりゃあ痛いけど……」
んっふっふ。
私はこれぐらいの痛みなら耐えられるのよ〜。一応元アサシンの私は前世で「何でこんなクソ痛い訓練なんかやらなきゃなんないのよ!」と言いたくなるような訓練を受けてきたのだ。
そしてこの世界で培った新たな重装戦士としての経験とスキルが、前世のアサシンの経験と組み合わさっていく。
その結果、痛みに対する耐性はさらに強くなったのだ。重装戦士は元々打たれ強い職業だからね。
「こういうのは慣れっていうか……まあ気の持ち様ね……」
「気の持ち様で何とかなるのかよ!」
「なるわよ」
私があっさり答えると、リルは口をパクパクさせた。
「だから私は迷宮食らいの攻撃で死ななかったのよ」
……普通ならショック死するレベルだったからね。
「…………呆れて物が言えないって言うけど……こういうことか」
そしてリルは呟いた。
「極めるってこういう事なんだな」
極……める。
その言葉が。
私の中で響き渡った。
「極める……極めたのかな?」
もしかしたら。
≪絶対領域≫の習得条件って。
……「極める」だけじゃなくて……。
……「混ぜる」ことなんじゃ……?