第十九話 ていうか、闘技大会出場決定。
帝国格闘技演武大会。
結構あちこちで開かれていそうな武術の大会ではあるが……意外とこの世界では少ない。
理由はいくつかあるけど、最大の理由は「ギルドが協力を拒む」ことかな。
ギルドにしてみたら、貴重なA、Bクラスの冒険者を同士討ちで失うなんてもってのほか。それぐらいなら「ウチは参加しねえんだよ」という姿勢を明確にしておけばいい……ということだ。
それ以外にも「こういう大会って勝つヤツは、だいたい同じなんだよね……」とか「戦争中にそんな余裕あるわけねーだろ!」とか、様々な理由があげられる。「開催しても優勝するメンツ、だいたい一緒だから賭けも成立しにくいしな……」とも言われるそうで。そりゃあ誰も開催したくなくなるわけよね…………そんな中でも律儀に毎年毎年飽きもせずゲホゴホ……開催しているのが帝国なのだ。
初代皇帝が遺言で「必ず続けろ!」とか言ったとか……迷惑な話よね……。
ていうか、その遺言が原因で段々と帝国は傾いてきてんだから……。
「…………これは……私達に出ろって言いたいのかしら……」
はっきり言って興味は皆無なんだけどね……。
「別に絶対ってわけじゃねえんだろ? 無視してもいいんじゃねえか?」
「………………」
「な、なんだよサーチ……」
「あ、ごめん……何かスゴく勇気がある発言したからさ……魔王様の仰ったことを無視しろだって……」
「ニ゛ャ!? い、いや違うんだ! 違うんだ! お願いだから黙っててー!」
「……最近さー……疲れがヒドくって……甘〜いスイーツを食べたいのよね〜……」
「わかった! 今度帝都で奢ってやるから!」
やたっ!
「ええ!? サーチばっかりズルいです! 私も、私も!」
「なら私も便乗」
「エイミアとリジーまで!? お前らは関係ないだろ!」
「「魔王様〜!!」」
「ぐぁ……! わかったよチクショウ!」
『私も私も!』
「わかったっつってんだろ!! 何度も言わなくても……」
……あれ?
「……最後のは誰だった?」
「私は違いますよ?」
「違う」
………………。
たぶん、ソレイユね……。
「暇な魔王様……いた!」
……なぜか頭叩かれた気がする……?
「さて、次は……リジーお待ちかねブラックリバー」
「連れてけ連れてけ連れてけ連れてけ連れてって」
「行くから! ていうか、帝都へ行くには通らないとダメなのよ!」
「ならいい」
「ブラックリバーにはギルドがありますけど……私は大丈夫でしょうか?」
……そういえば私達はウォンテッドだったわね。
「まあ私達は、簡単に変装できるから問題ないわよ」
私はビキニアーマーを普段着に変える。
リルは帽子を被る。
リジーは……。
「前に染めた髪色覚えた。自分で変える」
なんと自分で髪色を変化させられるそうで。
「……どうやって?」
「≪化かし騙し≫の応用」
……そういえば身体は狐獣人がベースだったわね。
「ならさ、いっそそのまま別人に化けちゃえば?」
「そこまですると疲れる。髪色くらいがちょうどいい」
なるほど。リジーはリジーなりに考えてのことか。
「あの〜……私は……ひっ!」
エイミアは、私が取り出したサラシをみて半歩後ずさった。
「やっぱりそうなるんですね……」
「痛いだろうけど我慢しなさいよ。あんたはやっぱりソレが一番目立つんだからさ」
「……そうですね……ご面倒をおかけしちゃいます……」
シュンとするエイミア。仕方ない、今度はあまり締め付けないように巻いてあげようかな。
「私の胸がおっきいせいで、サーチとリルに迷惑かけちゃいます……こんなに大きくなければなあ……。リルほどじゃなくても、せめてサーチくらいならいいのに」
……前言撤回。泣くまで締め付ける。何か青黒い炎を立ち上らせるリルも同じ気持ちだと思う。
宿場町から乗合馬車に乗って、二日ほどでブラックリバーに到着した。乗合馬車に揺られている間に、帝国闘技大会への出場について話し合った。
「ソレイユはあまり意味のないことはしないでしょ。何かあるのよ、この大会……」
「でも……大会出て大ケガでもしたらシャレになんねーぞ? 旅にも影響は出るからな……」
……実際に治りきってない私とリルは、戦闘には参加してないしね。
そのぶんリジーとエイミアに負担がかかってるのは間違いないから、リルの言うことは否定しようがない。
「それなんだけど……問題ないみたい」
私はチラシの下の説明書きを指差す。
「ん? ……『なお怪我人が出た場合は、帝国軍所属の回復魔術隊が、責任をもって治療いたします』……へえ、破格の対応だな」
帝国軍の回復魔術隊は、世界屈指の魔力量を誇る。条件さえ整えば死者の復活もできるらしい。
最近になって財政難に陥っている、と噂されている帝国にしては金かけてるわね……(魔術隊の維持費はバカにならないのだ)
「…………ならいいか。私も参加してみるかな」
……とりあえず現段階で私とリルの出場が決まった。
「サーチも出るんですか?」
「うん。前回の戦いは不甲斐なかったし……それに」
≪絶対領域≫についても何かヒントが掴めれば……いったいどんなモノなのかもわからないしね。
「……サーチ?」
「……あ、ああごめん。それに最近ちょっと慢心気味だったみたいだからさ……一から鍛え直そうと思って」
「それは私もそうだな。大会に出るというより修行の一環だな」
……実際に私もリルも、優勝なんてことは一切考えてなかった。
「……!! ……ちょっと見せて!」
リジーが優勝賞品に心奪われるまでは。
「……私も出る。優勝する。賞品は私のもの」
……珍しく感情を表に出すリジーを不思議に思った私は、チラシをもう一回見てみた。
「なになに……『優勝賞品は、伝説の武器としても知られる、“死神の大鎌”を進呈!』ねえ……………………はああああああ!!?」
「嘘だろ? 帝国の連中はバカか!?」
「……下手したら帝国が滅びますよ!」
エイミアが言ってることは誇張ではないのだ。帝国によって厳重に封印された最凶最悪の呪われた大鎌、“死神の大鎌”。この鎌は実際に当時の人口を半数以下にまで追い込んでいるのだ。
……なぜそんな武器を帝国は優勝賞品に……?
「まあ悩むのは今度今度! 今日から傷が癒えるまで湯治よ湯治♪」
「「おー!」」
「私は呪いの……」
「わかったから! その旅館に泊まるから!」
「……うふ♪」