第十七話 ていうか、魔王ソレイユの降臨理由は?
エイミア達をうちわで扇いでいる間に。
「久しぶりにゆっくりイジメてやりますか〜♪ ……サーチ、聖剣を出してもらえる?」
私は魔法の袋から“知識の聖剣”を、箸で摘まんで取り出した。
「……サーチの聖剣の扱いはゴキブリの扱いと同じね」
「当たり前よ……命を助けてもらったかもしれないけど、エイミアにしようとしてることは許す気はサラサラないわ」
ぺし! ぺしぺし!
しまった。扇いでたうちわがリルの顔に当たってたわ……。
「ニャ? ニャアアア……」
あ、寝ぼけてうちわを猫パンチしてる。面白いのでうちわにじゃれるリルと遊んでいると。
バサッ
何かを広げるような音がしたので振り返ると。
「わっ! よくこの狭い室内で羽根を広げられるわね」
ソレイユは大きく広げた漆黒の翼で、聖剣を包むと。
「>¥@∀√_〆∞≧%……」
何か呟き始めた。
うわ、怪しい宗教団体……。
びゅんっ
だんっっ!
「ぎゃあ! あ、あぶないわ……ね……」
金属製の羽が、私の顔があった場所を通り過ぎる。思わず文句を言いかけると、ソレイユが「ちゃんと聞こえてるよ!」と鋭い視線で訴えていた。
……ごめんなさい……。
「何だか呪詛の匂い……」
ちょうどリジーが目を覚ます。それにしても呪詛?
「リジー。ソレイユがやってるアレって?」
「え〜と……聖剣に対して、呪詛を絶え間なくかけ続けて……聖剣の中にいる何かの命を削ってる」
うっわ……えげつない。
「……けど……殺すことはできない」
……はい?
「えっと? 命は削れるけど、殺せない? 文字通りだとすると……止めは刺せないってことよね?」
「そう」
「……じゃあ殺しちゃう心配なくエンドレスで殴れるのね……」
ストレスは発散できそうね……。
「サーチ姉、考えることがエグい」
うるさい。
「つまりソレイユは“知識の創成”に対して、ヒールで踏みまくって高笑いするような行為を延々とやり続けてるわけか」
リアルに「女王様とお呼び!」なわけね。ちなみにソレイユは、ホントに高いヒールを履いていたりする。そんなことを考えてたので、何となく靴箱にあるソレイユのハイヒールを見ていた。
するとリジーが。
「あのハイヒール欲しい」
と言い出した。
え? リジーって女王様趣味があったの!? 何となく少しずつ距離を空ける。
「サーチ姉、考えてることはわかってるから。違うから」
あ、そうなんだ。ていうか、私ってそんなに顔にでるのかしら……。
「あの靴は高レベルの呪いがかかっている。呪い味わってみたい……じゅるり」
…………やっぱり距離をとろう。
「ソレイユに聞いてみればいいじゃない」
そう言われたリジーは、汗をダラダラ流しながら後ずさった。
……リジーにしては珍しい反応ね……。
「いいわ。私から聞いてあげる」
仕方ない。仲間のために骨を折りますか。
「%≧∞〆_√∀@¥〇……」
「ソレイユ、リジーがあなたの靴を試し履きしてみたいそうなんだけど……いい?」
ソレイユはニコリと笑って頷いた。
「リジー、OKだそうよ」
「わかった。ありがとうサーチ姉」
そう言ってからリジーは立ち上がってソレイユの方を向く。
そして。
「ありがとうございます、魔王様」
と言って、深々々と頭を下げた。
私は唖然とした。
「リジーは礼儀を知ってたのね……あいた!」
「サーチ姉、失礼」
ごめんなさい、つい。
リジーは早速ハイヒールを履いてみるが……。
「……小さい」
うん。呪いどうこう言う前の問題だった。
「でもこういう靴って、履く人に合わせてサイズが変わる機能が……」
あるわけないか。
「……忘れてた。やってみる」
あるんかい!
「≪調整≫」
リジーが魔術名を言うと、靴は突然リジーの足にジャストフィットした。
「立てる? ハイヒールは慣れないと難しいわよ?」
手を貸そうかと思ったが、リジーはそれを遮って立ち上がる。そのまま二三歩歩いてピョンピョンしてみたりして……結局脱いだ。
「どうしたの? もういいの?」
「……私には無理だった」
そう言って足をさする。見てみると踵の上あたりの皮が剥けて……って!
「靴擦れかよ! しかも二三歩試しに歩いてみただけだろ!」
「この靴、やっぱり魔王様専用みたい。呪いの中和ができなかった」
「え? 呪いの中和ができなかった場合って……やっぱり呪われるの?」
リジーは半泣きで頷く。
「……てことは……その靴の呪いって靴擦れ!?」
セコい呪いだな……ぶっ!
「アタシの靴が、そんなにちんけな呪いなわけないでしょ!」
……いつの間にか怪しい儀式を終わらせたソレイユが、私の後ろに立っていた。
「怪しい儀式ぃ〜? サーチ、魔王相手にフレンドリー過ぎなあい?」
「いちいち心を読まないでよ!」
まったく……。
「あ、そうそう。エイミアには安心してって伝えておいて」
「え? 何を?」
「“知識の創成”に直接聞いたんだけどさ。エイミア乗っ取られたんだって?」
「直接聞いた!?」
「そーよ。私の言うことには逆らわないから」
逆らわないって……。
「あの〜……この剣の中にいるのって“知識の創成”なんですよね……?」
この世界の最高神だったはず……。
「そうよ。でもアタシに負ける程度だから大したことないない♪」
はは……最高神が大したことないっすか……。
「すこーし絞めつけておいたからさ。今度からエイミアを、勝手に乗っ取ることはないよ。エイミアの意思次第ね」
マジか。
エイミア軽くチートじゃん……。
「あともう一つ伝えて。聖剣はね……エイミアを恐れてるのよ」
エイミアを……?
「勇者は“知識の創成”の依り代になり得る唯一の存在。いい? この唯一ってとこが鍵なのよ」
………………。
「ま、エイミアにはこんなとこかな……次はサーチね」
……はい?
「感謝してよ〜。サーシャ・マーシャの依頼とはいえ、ここまでサービスしてあげるのは、サーチ達だけだからね」
「マーシャンが!?」
「多分相当悩んでるから『喝!』入れてやってってさ」
マーシャン……。
「エイミアよりサーチが重症よね……」
「私が!? 重症?」
何を言って……。
「ほれっ」
「何これ…………きぃあああああああああ!」
「ちゃんと見なさいよー。これ蜘蛛のオモチャよ」
ええ!? オモチャなの!
「わわわ私、蜘蛛なんて平気ですわよ」
「思いっきり動揺してるねー。と言うより、これは……」
なぜかソレイユは私に近づいて。
「それぃ」
「っ!? ぅわあ!」
突然投げ飛ばされる……けど落ち着いて着地した。
「い、いきなり何すんのよ!」
ソレイユはしばらく考えてから。
「≪絶対領域≫」
……と呟いた。