第十六話 ていうか、エイミアを助ける相談。
「ちょっと待ってください」
エイミアはいつになく神妙な顔だった。
「私は……勇者なんですか?」
「もう隠す必要はない。そのとおりよ」
こうなってしまった以上、エイミア本人の自覚がないとマズい。
「……サーチも……リルも……知ってたんですね……」
「私も知ってる」
「リジーも!? 何で!?」
「私の目の前でサーチ姉とニャンコ先生が、勇者勇者と話していた」
エイミアの非難の視線を感じて私は目を逸らした。リルもあさっての方向を向いている。
「何で私だけ教えてもらえなかったんですか?」
……うーん……仕方ない。
エイミアが傷つくから黙ってようと思ってたんだけど……。
「まず誤解を解くわ。リジー以外は各々で気づいたのよ。誰かに教えてもらったわけじゃない」
「そうだ。サーチも私も闇深き森の辺りで気づいたんだ。マーシャンを交えて話し合ってさ、エイミアにはしばらく黙っておいて様子を見よう……てことになったんだ」
「え……えええ!? マーシャンまで知ってるんですか〜」
リルが私の肘をつつく。
「おい、マーシャンのことも話しておくか?」
「ここまできたら言った方がいいでしょ」
前に一回教えたんだけど……酔っ払ってたせいか、何も覚えてなかったのよね……。
「なら私から言うか。エイミア、マーシャンは私達と出会う前から知ってたんだ」
「出会う前から……ですか?」
「マーシャンはハイエルフの最後の女王。そして先代勇者の元パーティメンバーだよ」
「!? ……?? ……!! ……ー! ー!」
あ。エイミアのアゴが外れたらしい。相当びっくりしたみたいね……前の時よりリアクションがスゴいし。
リルが外れたアゴを戻してくれてる間に、私が説明を引き継いだ。
「で、その話し合いの場で『エイミアに伝えた方がいいか』という話になってね……」
……聞いてるかな。
エイミアが「あう」とか「むー! むー!」とか言いながら泣いてるけど、リルは苦戦してるみたいね。
「……マーシャンが『エイミアに勇者である事を受け止める器ができるまで、秘密にしておこう』って……私とリルはそれに同意したのよ」
がくんっ!
「いっひゃーい! ……あ? ああ! あーあー……入った! 入りました!」
「やれやれ……まさかここまで手こずるとはな」
「リルありがとうございました……サーチ、もう一度最初からからお願いします」
やっぱ聞いてないよね! もういいや、省略バージョンで!
「マーシャンが『リルには言うな』って言うから私は従った! はいお仕舞い!」
「え? 何でマーシャンは口止めを?」
「知らないからマーシャンに聞きなさい!」
めんどくさいからマーシャンにムチャ振り。ごめんなさい!
「わかりました……その辺りの成り行きは、マーシャンをたっっぷりと問い詰めます」
エイミアはそう言うと俯いた。
「……ん? ……エイミア、どうかしたの?」
俯きながら肩を震わすエイミア。泣いてる……?
「私は……私は……私じゃ無くなっちゃうんですか……?」
エイミアは顔をあげて……大声で泣き始めた。そんなエイミアを私は抱きしめることしかできなくて……。
私の胸に顔を埋めてエイミアは泣き続けた。
ただ、ひたすら。
「サーチ達ともっと旅をしたい!」
と叫び続けた……。
泣くだけ泣いてスッキリしたのか、エイミアは恥ずかしそうに「ごめんなさい」と謝った。
「気にしないで。ちょっと胸の谷間を、涙と鼻水とヨダレで、ベタベタにされただけだから」
「は、はう〜! めっちゃキレてる〜!!」
キレてはないけど一応。
ずびしっ
「んぎゃあ!」
……軽くデコピンだけで許す。
「さて……まずはエイミア」
「は、はい!」
「エイミアがエイミアじゃなくなるようなことは、絶対に起こさせない。それが私達の共通した意志だから……それだけは覚えておいて」
「……はい……ありがとう……ありがとう……びえ〜」
あーあ、また泣いちゃった。
「まずは〝知識の聖剣〟に関する情報ね。やっぱり同じパーティメンバーだったマーシャンに聞くのが一番早いか」
そう言って私は念話水晶を取り出した。
『ふむ……ついに起きたか』
珍しくすぐに応答したマーシャンに、今回起きたことを説明した。
『サーチがエイミアに話したと言うことは……真実を伝えてよいのじゃな?』
私はエイミアを見る。
……エイミアが頷くのを見て私はマーシャンに頷いた。
『わかった……まずは……勇者とは何たるか……という事じゃが』
「それって……“知識の創成”の依り代ってことでいいの?」
『サーチはやはり敏いの……じゃが少し違うのう』
「……てことは……依り代よりもっと悪い……?」
『うむ……勇者とは“知識の創成”がこの世界に現界するための依り代……それには違いない。じゃがそれが一時的か恒久なのかはわからんのじゃ』
一時的か恒久!?
「じゃあ何? エイミアが身体を乗っ取られるかどうかは、“知識の創成”の気まぐれってこと!?」
『…………歴代の勇者を見る限り……生涯で数回だけ依り代となるだけで済んだ者もいれば……最初から死ぬまで身体を使われ続けた者もいる』
「何だよそれ……! どうしようもないのかよ!」
『落ち着けい! 先代の勇者によって解決法は見つかっておる』
……なんだ……なら安心ね……。
『じゃから先代勇者は魔王に聖剣を渡したのじゃよ』
……?
「えっと……つまり……?」
『サーチの推察どおり、依り代になる鍵となるものは、聖剣なのは間違いない。じゃから聖剣さえ破壊できれば良い訳じゃ』
聖剣の破壊? そんな……。
「んなことできるのかよ!」
『リル! お主は少し頭を冷やすがよい! 良いか? “知識の創成”は一度魔王に敗れておるのじゃぞ?』
「っ! そうか、ソレイユなら……」
『まっかせなさーい! と言っておったからの……何か方法があるのじゃろう』
「ちょ〜っと待ってよ……」
すっごく気になることがあるんですけど……!
「まだ破壊できてない……ある意味エイミアにとって、危険なモノとなり得る聖剣を……なんでソレイユはエイミアに渡したわけ……?」
「……そういや、そうだな……」
『……ここからはワシの推測になるのじゃが……その聖剣……随分弱っておるな』
え?
弱ってるぅ!?
「あれで!?」
『本来の威力なら一撃で木っ端微塵じゃよ』
それがホントなら……相当弱ってるのは確かね。
『魔王は軽くみえる性格とは異なって、無意味な事はせんよ。多分、今の状態の聖剣をエイミアが持つことに意味があるのじゃろう』
「……ソレイユがそこまで考えてるとは思えないんだけど……」
『お主は怖いもの知らずじゃのう……ワシでも言うのを躊躇うぞ……』
失敬な。
今の私は蜘蛛が何より怖い。
「そーよ。あんまり失礼なこと、言うもんじゃないわよ〜!」
「はいはいわかったわかった……はい?」
「よ! お久〜!」
「え!! ええ!? ソレイユ!?」
「アタシの悪口言う悪い口はこれか〜?」
「あ、あいたたたたたた!!」
「あれ! ニャンコ先生に勇者に呪いフェチ! みんなどうしたの?」
え?
「あ、あれ? エイミア! リル! リジー! どうしたの? しっかりしてよ!」
……私がマーシャンと話している間にのぼせたらしく……三人仲良く浮かんでいた……。
三人を部屋で寝かせているときにソレイユが教えてくれた。
「もうすぐよ、もうすぐ。最後の仕上げには勇者であるエイミアの力が必要なのよ」
そう言ってソレイユはニヤリと笑った。
「いよいよなのよ〜…………〝知識の創成〟の最後がね……クフフフフフ……」
……怖。
最初から最後まで全裸回でした。