第十四話 ていうか、エイミアのおかげで形勢逆転?
初っぱなから残酷シーンあります。
「うぐぅぅぅぅぅ……!」
ミシミシ……メキ
ボキッボキボキッ
「きゃあああああぁぁぁ!」
痛い!
痛い痛い痛い!
もうダメ! 止めてえ!
ミシミシミシ!
うあああ! 千切れる! 千切れるぅぅっ!!
メキメキ……
ぐぶ! げほ……。
ミシミシ……ブチ……
こ……こんなところで……終……わ……る……の……。
スルッ
……今度は……何?
私……死んだ……のかな……。
落ちてる……気がす……る……。
がしっ
「サーチ! 大丈夫!? サーチ!」
あれ……何で……?
「う……エイ……ミア……?」
霞む視線の先に、いっぱいの涙を浮かべたエイミアの顔があった。
「ちょっと待ってて……≪修復≫」
何か……魔術……を?
「ぐ! ……う……あ、あれ? 痛みが……?」
う、ウソでしょ!?
痛みがほとんど消えた!
「これで命の危機は去ったわ。だけど完全には回復してないから……サーチはリルをお願い」
「エイ……ミア?」
いつもと違う。一体何が……?
じゃない! リルを頼むって……。
「サーチ姉! サーチ姉!」
リジー?
「向こうの壁にニャンコ先生が!」
向こうの壁って……あ!
「リル!」
痛みが激しい身体に鞭打って、リルに駆け寄る。
「……命に関わるケガではないわね」
たぶんとっさに防御したのだろう。左腕が折れているけどそれ以外は軽傷だ。
「リル! しっかりしてリル!」
「う……お……」
「……お?」
「お魚食べたい……」
……。
ぱこんっ
「イタッ! あ、あれ?」
「目ぇ覚めたわね?」
私の声を聞いてリルは、ゾンビでも見たかのような反応しやがった!
「なんで生きてるんだ、とか。まさかアンデッドか、とか考えてなかった?」
「いや……お腹すいたな〜……って……」
私にはエイミアやリルみたいな読心術はムリだ。
「つーかよ、何でケガがないんだよ!」
……話逸らしたわね。
「………………めっちゃケガしたわよ。触手でぶん殴られて肋骨折れたし、内臓にもダメージあったみたいで吐血したし、触手に捕まって、これでもか! これでもか! ってくらい絞めあげられて、あちこちの骨がバッキバキのバッラバラに……」
「いやちょっと待て生きてるのおかしいだろ」
私はエイミアの後ろ姿を見て。
「……エイミアが回復魔術をかけてくれなかったら死んでたわね……」
「待て。エイミアが回復魔術!?」
「ええ……どうやら勇者として一皮剥けたみたいよ……」
「勇者を怒らせた罪は重いよ!」
そう言ってエイミアは“知識の聖剣”を手放す。すると聖剣は、己の意志があるかのように飛翔した。
て、飛翔って……。
「ええ!? 剣が飛んでるの!?」
エイミアが指をかざす通りに聖剣が動く。そして聖剣の閃光が通り抜けると。
キィン!
空間が割れた。
「……蜘蛛……なの?」
迷宮食らいを包んでいた光学迷彩の結界が消滅し、正体を現した。巨大な蜘蛛だったのだ。
「リル、下がるわよ」
「あ、ああ……」
今の私達は足手まといにしかならない……。
「エイミアに……頑張ってもらうしかない」
迷宮食らいはお尻から糸を出して振り回す。さっきの触手みたいなのはこれか!
「……無駄です」
だけどエイミアが手を動かす。と同時に“知識の聖剣”が高速で旋回し、糸を斬り裂く。
それどころか聖剣は更にスピードを増して、蜘蛛の足を切断した。
ギイイイイッ!
迷宮食らいは苦痛の叫びをあげて体勢を崩した。
スゴい……このままなら簡単に勝てる……!
と思い始めたんだけど……。
「止めです」
そう言って前へ進むエイミア。そして……手を振り下ろす。
……ガランガラン
そして聖剣が落ちてきた……って、んん?
「あ……MP無くなりました……」
……そう呟いてエイミアは倒れた………………やっぱエイミアはエイミアだわ!
「……リジー! 全力ダッシュでエイミア抱えて逃げて!」
「……わかった!」
ハッとしたリジーは、すぐにエイミアを抱きあげて逃げだした。
私は魔法の袋からリジーの装備品を無造作に投げて転がす。
「くっつかないわね……リジー! すぐに装備して!」
「え? 何で?」
「聖剣が壁にくっつかないでしょ? 理由はわからないけど、今なら磁力は発生してないわ!」
「わ、わかった!」
「リル、矢を射ることはできる?」
「あ? あ、ああ。威力は出ねえが……」
「構わない! リジーが装備し終わるまで引き付けて!」
「ムチャ言うな……とは言えないな。やれるだけやってやる!」
地面を手で触れる。
……やっぱり……。
「リジー! まだか!」
「もう少し」
足を斬られてスピードが格段に下がったとはいえ、蜘蛛の速さは人間を軽く超えている。リルが必死に矢を放つが当たらない。
……やがて迷宮食らいはリジーに狙いを定め、お尻を突き出して糸を発射した。
「リジー! 避けろ!」
リジーに糸が迫る!
「二度と同じ手は食わない!」
が、間一髪。
大きめの盾を作って受ける。
「ぐ……らああっ! 蜘蛛なんて大っ嫌いよおおおっ!」
くそ! 身体がガタガタで踏ん張りがきかない! 仕方ないので盾の形に丸みを持たせて、糸の軌道をそらした。
「サーチ姉、ありがと。もう大丈夫」
そう言ってフル装備のリジーが私の横を走り抜ける。
ザシュッ!
〝首狩りマチェット〟の一閃で糸が両断される。そのまま迷宮食らいに向かっていく。
「リジー! 私が倒れていた辺りまで引っ張ってこれる?」
「大丈夫! 任せて!」
糸を斬り裂きながら答えた。さっきより攻撃力も防御力も格段にあがってるリジーなら、大丈夫だろう。
「リル。お願いがあるんだけど……」
約十分。
リジーは善戦してくれてはいるけど……そろそろスタミナ切れね。
「リル、リジーの援護を」
「……ああ……サーチ、頼んだぞ」
そう言ってリルは矢をつがえた。
さて……と。たっぷりと私を弄んでくれた礼をしなきゃね。
「……迷宮食らい! さっきはよくもやってくれたわね! たっぷり仕返ししてやるから覚悟しなさい!」
……お願いよ〜……挑発にのってよ〜……。
ギイッ!
私の声に反応して迷宮食らいが身体の向きを変える。
そしてそのまま突っ込んできた。やった!
「リジー、援護お願い!」
「わかった」
リジーが蜘蛛の攻撃を受け流しながら、私の居場所へ誘導する。糸を放とうとするたびに、リルの矢が発射口を射貫いて邪魔をする。
で、私は地面に寝転がって待機する。
そのまま……そのまま……。
「ぐはあ!」
ついにリジーが吹っ飛ばされた。迷宮食らいの複眼が私を見つける。そのまま地面を蹴って襲いかかってきた。
3m……2m……1m……今!
「≪偽物≫!!」
持てる限りの魔力を込めて地面の磁力を復活させる!
そして。
……ビュン!
リルの≪身体弓術≫によって、天井に突き刺してあった“知識の聖剣”が、磁力に引き寄せられ。
ドスッ!
ギイイイイアアアアア!
……迷宮食らいの腹部を貫いた。
足を引き摺りながら、リジーが迷宮食らいに近寄る。
「……痙攣してる。まだ息があるみたい」
……なんてヤツなの。
蜘蛛の急所である腹部に穴空けられても、まだ生きてるなんて……。
「リジー……止めを……」
リジーは大鉈を渾身の力で振り下ろす!
ザンッ!
ギ…………ィ………………
「……動かなくなった」
……ふう……。
「何とか……なったわね……」
私は地面に寝転がった。
「おい、サーチ」
左腕を剣の鞘で固定したリルが私に近づいてきた。
「なあに?」
「どういうことだ? 何で天井に突き刺してあった聖剣が、地面に降ってきたんだ?」
「ああ、そのことか。このダンジョンの表面って何だと思う?」
「は? 岩だろ?」
「ただの岩じゃないわ。このダンジョンの表面は磁鉄鉱で覆われてるのよ」
磁鉄鉱。またの名をマグネタイト。鉄鉱石が何か巨大な電気エネルギーによって磁力を帯びたもの。簡単に言えば天然の磁石ね。
「さっきエイミアが勇者の力を発現させたとき、かなりの静電気が放出されたんじゃないかな、て思うんだけど……」
「うん。けっこうビリビリきた」
リジーの証言で推測が確信になった。
「そのおかげでこの辺りの磁力が弱まったのよ」
「それでリジーがフル装備できたわけか」
「……あとは簡単ね。私の上に迷宮食らいが重なった瞬間に、私の周りだけ≪偽物≫で強力な磁鉄鉱に戻したのよ」
「その磁力に聖剣が引き寄せられて、迷宮食らいの腹にブスリってか? とんでもなく分が悪い賭けだな」
「この状態の私達で、聖剣を使いこなせるヤツなんている?」
呪い専門のリジー、左腕が折れてるリル、全身ガタガタの私……。
「ま、終わり良ければ全て良し……かな」
「……ぷっ……ふふふ」
「あははは……」
「「ハハハハハハハ!」」
「……ああ……疲れた……」
腹を抱えて笑う私とリル。
疲れ切って横になったリジー。
まだ目が覚めないエイミア。
この四人で。
Sクラスモンスター迷宮食らいを討ち取った。
何とか勝利。