第十三話 ていうか、明らかに無謀だった。
かなり残虐な表現があります。苦手な方はご注意ください。
戦闘態勢とは言っても……こっちには装備品が欠けているのがつらい。
特に力ではパーティで一番の、リジーの装備品がほとんどないのがツラい。
前衛にとってこれは致命的だ。
「今回は役割を変えるわよ。前衛は私とリル、エイミアはバックアップに専念して。リジーは遊撃」
こんなもんだろうな。
「……遊撃?」
「隙を突いて斬り込むの。そして離脱……これの繰り返しで」
……本来なら私みたいなタイプが担当するんだけど、今回は仕方ない。
「ん……わかった」
「リル、エイミア! 迷宮喰らいを捕捉したら、強力なヤツお見舞いしてやって!」
「おーけーだ!」
「わかりました!」
よし! 準備万端!
「みんな! 生きて脱出するわよ! 温泉が私達を待ってるわ!」
「「おー!」」
「……おー」
「……この辺りです」
エイミアが止まる。
「ここから約50mほど進んだ先の天井に、強い静電気を感じます。丸い玉みたいなのがぶら下がってる感じです」
目を凝らして見てみると……なぜか景色が歪んで見える。たぶん光学迷彩ね。
「リル。エイミアが言ってる付近が妙に歪んでるのわかる?」
「ああ……違和感ありありだな」
「狙える?」
「……うーん……当てられるが……ダメージを与えられるかは微妙だな」
「やっぱりそうよね……ある程度大きいモノを射ち出せれば……」
バズーカとかがあればなあ……。
「私のせいでんきは通じないでしょうか?」
「……何とも言えないわね……何も効果がないばかりか、相手に気づかれちゃ目も当てられないし」
せめて矢に電気を纏わせて射つ……とかできればなあ……。試してみてもいいけど、高確率でリルが焦げて終わるわね。
「……なんだよサーチ……」
……リルも意外と鋭いわね……まあ、一応聞いてみよ。
「ムリだとは思うけどさ、リルの矢にエイミアの静電気を纏わせられないかなー……と思って」
「どう考えても、私が焦げて終わるだろ!」
同意見だったー!
「私もそんな細かいコントロールできる自信ありません」
自覚もあったー!
つまり、手詰まりか。
「サーチ姉、エイミア姉が何か武器にせいでんき? を纏わせて投げればよくない?」
リジーの提案も不可能。
「言っとくけどね、エイミアは投げたモノが後ろへ飛んでいくような子よ?」
「……エイミア姉すごい。真似できない」
私も理解不能だったわよ。スプーンを投げてって頼んだら、後ろにいたリルのスープにホールインワンしたんだから。
「じゃあエイミア姉が直接飛んでいけば?」
あんたムチャクチャ言うわね!
……ん?
「リジーなら……いけるかな?」
「……え?」
エイミアがすごくイヤそうな顔をした。
「イヤです! 離して! 助けて! きゃーきゃーきゃー!」
「エイミアうるさい! リジーは大丈夫?」
「無問題」
「エイミアは」
「問題ありまくりです!」
よし、サクッと無視。
「リジー! 教えた通りにね」
「おけ」
「おーけーだよ!」
何もやることがないリルのつっこみが冴え渡る。
「じゃあ行きます」
リジーがエイミアの足を掴む。
「やめてえええ!」
ロープでぐるぐる巻きにされたエイミアには為す術がない。
ぶんっ
「いやーーー!!」
リジーが回転を始めた。
ぶんぶんぶんっ
「きいああああああああ!!」
「おい、今さらだけど大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。エイミアがちゃんと言ったことをしてくれれば……ね」
一応私がフォローするし。
ぶーーーーんっ!
「いやああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁ……」
そろそろかな。
「やっちゃえリジー!」
「そーれぃ!」
ぎゅんっ!
「ああああああああぁぁぁぁぁぁ…………」
「エイミア! ≪雷壁の鎧≫よ!!」
……バチ! バチバチ!
間に合った!
静電気を纏ったエイミアが迷宮喰らいの結界に直撃する!
ずどおおおおんっ!
クリーーンヒッット!
「ナイスコントロールよ、リジー!」
私はすぐに砂煙の中に突入する。半分目を回したエイミアを見つけてかっさらう。
バリバリ!
「あだだだだ!!」
まだ静電気が残ってるのね〜! 痛い痛い!
そのまま引き摺って戦線離脱!
「はあはあ……エイミア大丈夫?」
「はみゃ〜……回る回るぐるぐるぐる……」
……大丈夫みたいね。
「リル! 姿が見えたら迷宮喰らいに一発ぶち込んで!」
「もう準備してる……!」
リルは弦を右足で踏んで、右手で引っ張りあげる。限界まで張った弦に矢をつがえる。やがて砂煙が霧散していき……黒い影が現れる!
「≪身体弓術≫の強化版……≪全身弓術≫をくらいやがれ!」
ずぎゅんっ!
まるで銃で撃ったかのような音を響かせて、矢が放たれた。真っ直ぐに矢は影に吸い込まれ……。
ギュイイイイイッッ!!
何かが苦痛の悲鳴をあげた! 命中!
「リルもナイス!」
「ないす……か。後で教えろよ!」
わかったわかった。
「さあ! 一気に畳みかけるわよ!」
「よし! いくぜ!」
磁石にはくっつかない銅でリングブレードを作りだす。リルはいつものフィンガーリングを握る。
そのまま迷宮喰らいに攻撃を……。
ぶうんっ!
めこっ!
バキバキッ!
「かはあっ!」
ロープをほどきながら起き上がると。
「かはあっ!」
……触手みたいなものに脇腹を叩かれて、吹き飛ぶサーチが目に入った。
そのままサーチは地面に叩きつけられる。
「うぐ……ごほっ!」
脇腹を抑えながらサーチは血を吐いた。
「い、いやあああああ!」
「サーチ!! ク、クソ!」
リルはすぐにサーチのカバーにまわる……。
「リル! 前!」
「え……きゃああ!」
今度はリルを襲った。
ガードはしてたみたいだけど、リルはそのまま壁に激しく衝突し。
……動かなくなった。
「……リルゥゥゥゥゥ!」
私の叫び声だけが虚しく響く。黒剣を握ったリジーが斬りかかろうとするけど……もう一本の触手に邪魔されて、サーチやリルのところへたどり着けない。
「く……ぐふ……」
その間にサーチが立ち上がり、歩きだすが。
「…………うぐっ」
大怪我をしたサーチは、逃げる事もできずに触手に捕まる。
そして。
「ぐああ! ああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
めきめき……バキバキ……
サーチを触手が絞めあげる。私のところまで、サーチの骨が折れる音が聞こえてきた。
「やめて! やめてええええええ!!!」
私の叫び声など全く無視して、サーチを更に絞める。
「うぐぅぅぅっ!! ぐああああああ!!!」
やめて! やめて!
サーチが……サーチが死んじゃう……!
「うぐあ! ぅあああああああああ!」
サーチが……! サーチが……!
「やめて……」
私が……!
「止めなさい……」
私……が……!
「止めなさいって言ってるでしょう!!」
勇者がサーチを助ける!
その時。
サーチの魔法の袋から何かが飛び出して。
キィン! キンキンキィィン!
ザシュ! ザン! ザザザン!
サーチを捕えていた触手を細切れにする。
「サーチ!」
普段の私では考えられないスピードで走りだし。
がしっ
落下してきたサーチを抱き止め、素早く離れた。
「サーチ! 大丈夫!? サーチ!」
「う…………エイ……ミア?」
良かった、生きてる。
「ちょっと待ってて……≪修復≫」
私の回復魔術がサーチの傷を癒す。
「ぐ! ……う……あ、あれ? 痛みが……?」
「これで命の危機は去ったわ。だけど完全には回復してないから……サーチはリルをお願い」
「え……エイ……ミア?」
私は飛んできた“知識の聖剣”を手にする。
「……あとは任せて」
私は。
許さない。
仲間を傷つけたコイツを。
「さあ……私が相手よ」
……聖剣が再び空を駆ける。
「勇者を怒らせた罪は重いわ!」
ついにエイミアが覚醒か?