第十二話 ていうか、とりあえず脱出よ!
出てきたモンスターを片付けてから、一先ず武器防具を装備した。いくら何でも素っ裸のまんまで攻略するのは御免被る。
……が。
「な……! なにこれ、お、重!」
「んぎぎぎぎぎ……! な、何だよこれ! 壁に金具がくっついて取れねえ……!」
「え? え? 釘こん棒から釘だけ抜けていく!?」
「う〜ご〜け〜な〜い〜……」
私はビキニアーマーの金具がくっついてしまうい、仕方ないので魔法の袋に収納する。
「……どうもこの洞窟全体が、強い磁力を帯びてるみたいね……」
「てことは金属は厳禁だな……」
「仕方ないわ、金属じゃないもので乗り切るしかないわね」
……結果。
あんまり素っ裸と変わらない状態となった。
まずは私。
武器は≪偽物≫で磁力に反応しない金属で武器を作ればOKなので、無問題。ただ前述の通り、今のビキニアーマーがダメだったので他に装備できるものがない。
「あ、あれなら……」
前に装備してた大蝙蝠の羽根製のビキニアーマーが残ってたのを思い出したので、それを取り出して金属部分を外して装備した。ソレイユとの戦いでボロボロになってたヤツだから……いつ千切れるやら。
え? 普通の服を着ろって? 貴重品以外は流石に置いてきたわよ……リジーに泣きつかれて収納した呪いグッズが、かなり容量を食ってるし……。
リルはあまり問題なかった。元々装備していた革の鎧が金属部品がなかったのだ。武器は素材がドラゴンの骨だから大丈夫だし。今回一番戦力になりそうだ。
エイミアは≪蓄電池≫があるからとりあえず心配はない。本人は不満みたいだけど。
「なんでブラの金具まで……!」
「そう言わないの。みんな一緒なんだから」
「サーチとリルは目立たないからいいんです!」
そりゃそうよね。
私はビキニアーマーだから、ブラは基本的にしない。リルは必要ない「ぎろりっ」ごめんなさいごめんなさいすいません!
革の鎧だからノーブラでも目立たないのだ。
ただエイミアは……いつも着てるドラゴンローブには、金属がかなり使われていたためアウト。
仕方なく普段着になっているのだが……当然ブラをしてないと……というわけだ。元々大きいから余計に目立つのよね……。武器は釘こん棒の釘が抜けちゃったし“知識の聖剣”は金属だから問題外だし……。
けどすっかり忘れられていた“未完の棍棒”が登場することになって、事なきを得た。ホントに影の薄い武器だわ……。あとはエイミアがブラをしてない状態に慣れることができれば……かな。
最大の問題がリジー。装備できるものがない! リジーの呪われアイテムは見事に金属製品ばかりだった。
「とりあえず普段着でも着なさい」
「持ってきてない」
……リジーだけ素っ裸で、なんてわけにはいかないし、どうしたものか……と私とリルが悩んでいると。
「私の予備でよければ着てみます?」
エイミアが救いの手を差しのべてくれたのだ。ナイスエイミア! 少し胸の辺りがガバガバだけど……ま、裸よりはいいか。あとは武器ね……。
「素手は無理」
そりゃそうよね。
「呪いの武器で非金属ってないの?」
「無い……と思う」
念のためにリジーのコレクションを全て出してみたけど……。
「……呪われてても磁力には逆らえないのね……」
……あちこちに武器がくっついただけだった。
が。
「……あれ? 何で黒剣だけ反応しないの?」
私が以前リジーに貸してあげた“不殺の黒剣”だけが、何故か壁にくっついていないのだ。
「あ、これ鉄じゃない」
「金属じゃないの!? じゃあ何でできてるの」
リジーはジーッ……と見つめて。
「たぶん……黒血竹」
……?
「リル〜」
「お前、植物とかのことは私に振るな……」
そうは言いつつもリルは説明してくれた。リルって基本的にお人好しだからね。
「黒血竹は稀少な黒竹でさ、私も一二回しか見たことないな。割るとなぜか真っ赤な樹液が出てくるんだと」
気味悪い竹ね……。
「乾燥させて加工すると金属並みに硬くなる特徴があってさ、鉄なんかが乏しい地方だとよく使われているらしい」
なるほど。
「さすがニャンコ先生」
「ニャンコ先生言うなっつーの!」
まあ、リジーの武器が見つかったことはありがたい。
「まずはダンジョンから脱出することを第一に考えよ。これだけ準備不足の状態じゃあ危険なだけだし」
「そうだな。磁力対策をしないと……今のままじゃ一発くらえば終わりだぜ」
エイミアもリジーも特に反対することもなかったので、まずは脱出……となりました。
「落ちた穴の高さを考えると……せいぜい二階層くらいの規模だな」
「まだダンジョン化して間もないんですね……だとすると私達が初侵入者ですね」
確かに……まだ若いダンジョンっぽい。ダンジョンも年月が経つと、冒険者を誘い込むための宝箱を作り出したりするようになる。
まだこのダンジョンには宝箱も何もない。ホントに生まれたてなんだろう。
「……おかしいな。最初に襲撃してきたモンスター以外何もいないなんて……」
そう言えば……やたらと静かね。
「エイミア、変なもの感じない?」
「変なものって……漠然としたことを聞いてきますね」
そう言いつつもエイミアは静電気の探査を始める。
パリ……パチパチ……
「……こっちの道に……変な結界みたいな……いえ、結界じゃない? 何これ……」
「落ち着いて。もうちょいわかりやすくお願い」
「あ、はい。ん〜……なんて言うか……糸かな? 糸をいっぱい巻きつけてできた結界っていうのか……」
「糸を巻きつけて?」
「はい。結界にしては、あちこちに綻びが感じられるんです。例えると……一生懸命糸で巻いて塞ごうとしてるけど、結局は穴だらけ、みたいな……」
穴だらけって時点で結界じゃないような……。
「もしかしたら守護神かも」
リジーも何かしているっぽい。≪驚愕の手≫ってヤツかな?
「いま確認してみた。形容しにくいデカいのがいる」
守護神で間違いないか。
「でも何で浅い階層にいるんですか? 普通はダンジョンの最奥にいるはずですよね?」
そうね。
ダンジョンコアを守るのが役目なんだし。
……ん?
「ダンジョン……コアが……ない?」
……まさか。
「エイミア。ダンジョンコアってかなりの静電気を帯びるはずなんだけど……反応は?」
「ちょっと待ってください……………………いえ、ありません」
やっぱり!
「みんな! 戦闘態勢!」
「は? さっきは脱出を優先するって言ってたのに?」
「そうよ。脱出するための戦闘」
エイミアとリジーは「?」をいっぱい浮かべていた。
「このダンジョン……たぶんもう死んでる」
「死んでるって……ダンジョンコアが破壊されてるんですか?」
いや、違う。
「食われたのよ」
「食われた……!!」
リルが気づいたのか、顔色が変わる。
「マジかよ! 相手が悪すぎるぞ!」
「でもアイツなら全部説明がつくでしょ!」
モンスターの現れないダンジョン。
糸を巻いたかのような結界。
そして……出口に向かう通路に陣取る手口。
こいつは。
「エイミア、リジー。ここはダンジョンじゃない! ここはSクラスモンスターの巣なのよ」
「Sクラスモンスター……まさか……」
ダンジョンを食い荒らすダンジョンの天敵。
……そしてダンジョンに侵入した冒険者を食料とする冒険者の天敵。
Sクラスモンスター。
迷宮喰らい。
また遅くなりました。すいません。




