第九話 ていうか、初めての普通のダンジョン。
「……真っ暗です……」
「ちょっと待ってなさい! 今明かりを……」
も〜……ライターが欲しいってこういうときは特に感じるわ……。
カチッ! カチカチ!
シュボッ
「ふうー、ふうー」
……よし、点いた。
「……だれも魔法の灯火を持ってないとはな」
魔法の灯火!? 何かめっちゃ便利そうな道具ね……!
「……持ってる」
「「「早く言えよ!!」」」
私の着火の苦労は何だったのよ!
「これ」
私達のつっこみを完全にスルーして、リジーは明かりを取り出した。
「これが魔法の灯火? 初めて見たわ」
「……たまにサーチって常識的なこと知りませんよね」
ごめんよう。
エイミアに聞くと、かなーり一般的なモノらしい。
「これ、どうやって火を点けるの?」
「魔力」
「維持は?」
「魔力」
………………。
「……つまりMPを消費しながら、ダンジョン攻略をするってこと?」
「ぴんぽーん」
「……デメリットあり過ぎじゃない?」
「そうですか?」
エイミアはコテンと顔を傾げる。
「普通ダンジョンみたいに何が起きるかわからない場所なら、MPの節約しない?」
「……そうなんですか」
「そう……なんだな」
「そうなんだと思われ」
……エイミアとリルとリジーに聞いた私がバカだったわ……。
「例えば! マーシャンとダンジョン攻略したとします! マーシャンに魔法の灯火をずっっっと点けてもらってたとしたら?」
「まあ……ダンジョンの規模にもよるだろうけど……MPが保つとは思えねえな……」
「地上へどうやって戻るの?」
「どうやってって……歩いてに決まって……」
「MP切れになってるから魔法の灯火は使えないわよ。いくら夜目がきいてもダンジョンの中じゃ無意味よね?」
「あの〜……なら脱出魔術で」
「だ・か・ら! MP切れだって言ってるでしょ!?」
「あ、そうでしたね………………て事は、真っ暗なダンジョンを手探りで脱出するんですか?」
「そうなっちゃうでしょ。MPを節約しなくちゃいけないってわかってくれた?」
「……そうだな。MPとは縁がないって思ってたが……こういうこともあり得るんだな」
エイミアとリジーも頷いている。
「やっぱり普通のランプは必需品か……簡単に着火できるヤツを探してみるわ」
ちょうど話が途切れたので「じゃあ行こうか」と促して先へ進んだ。
……なぜ私達がダンジョンにいるか……というと。事の起こりは一時間ほど前になる。
闇ギルドを飛び出してすぐに慌ただしく港町を出発した私達は、一先ず近くにある宿場町を目指した。
「まっすぐに帝都に向かうんだろ?」
「そうね〜……とりあえずお金の心配はないから、ギルドで依頼を受ける必要もないし……」
「じゃあ宿場町には小まめに寄ってくか。情報が集まりやすいしな」
ソレイユの情報が乏しい以上は、点々とある宿場町をしらみ潰しにあたっていくしかないか。
……で、最初の宿場町近くで。
「あ、ゴールドラビちゃんが!」
え! ゴールドラビット!? 要はめっちゃ高く売れるウサギです!
「待ってー! 待ってー! 待て待て待て待て待てー!!」
エイミアが釘棍棒をブン回しながら追いかけ始めた。
「エイミアー! 釘棍棒仕舞わないと余計に逃げられるだけよー」
実際にゴールドラビットは、振り回される釘こん棒を目にしたとたんに、二倍は早くなった。私達の中では一番足が遅いエイミアでは追いつけないよね……。
「はい、ゴールドラビちゃんストップ」
私なら余裕で前に回れるけど。
ビクゥ!
ゴールドラビットは相当驚いたらしく。
……コテン
ぶくぶくぶく……
……泡吹いて気絶した。
「あらら……意外と呆気なかったわね」
私はゴールドラビットの耳を掴んで持ち上げる。
「はあ、はあ、はあ……サーチ、ありがとうございます〜……」
「何で重装戦士のサーチが一番速い?」
「リジー。サーチに常識は通用しねえよ」
「……何サラッと失礼なこと言ってくれてんのよ……」
「あのな、ビキニアーマーを着たいから、重装戦士になりました……なんてヤツが、常識説いたって相手にされねえよ」
うっさいわね!
「それより。ゴールドラビットはどうするの? このまま売っても充分に高値がつくわよ……あれ? エイミア?」
「おい、エイミア? あれ、どこ行った!?」
何故か急にいなくなったエイミアを探すこと一時間。
「……ここ?」
「ああ……確かにダンジョンだ」
リルが非常にわかりづらいダンジョンの入口を発見し。
「……びえ〜〜……」
……その中で道に迷って泣いていたエイミアを発見したのだった……。
「何でダンジョンに入ったのよ……」
「入りたくて入ったんじゃありません!」
「……落ちたのね」
このダンジョンの入口、縦穴だから……。
「それに出ようとしても出れないんです」
「マジで?」
試しに登ってみると……。
ばぢっ!
いたっ!
ホントだ。入口が封印されてる。
「これ……ダンジョンコアを破壊しないと出れないタイプだな」
……通称アリ地獄式ダンジョン。捕まえたら生気を吸い尽くすまで、外に出さないダンジョンだ。
「エイミア……あんたは何で次から次へと厄介事を……!」
「ご、ごめんなさい〜」
「仕方ねえ……さっさと攻略して、さっさと宿場町で温泉に入るぞ」
「……そうね」
……で、現在。
「ねえサーチ」
レッドキャップの斬撃を避けながら、釘こん棒を振り下ろすエイミア。
「何よ……戦ってる最中なんだから私語はやめなさい」
「そうなんですけど……弱くないですか?」
リザードマンの後頭部に針を突き刺して、止めを刺す。
「そりゃ弱いわよ……“八つの絶望”を基準にしちゃダメよ」
よくよく考えたら私達って、“八つの絶望”以外のダンジョンって初めてなのよね。
「コボルトリーダー三匹あがりだ。証明部位も持ってきたぜ」
「ロックタートル倒した。潰しちゃったから証明部位無い」
リルとリジーも個々でモンスターを狩って戻ってきた。
「あんまり広いダンジョンじゃないわね。迷うこともなさそうだから好都合……しばらくレベル上げしよっか」
ダンジョン内は獲得経験値が普通より高いのだ。
「よし。夕飯まで粘ってみるか」
「≪滅殺≫を試してみたかったんです」
「……〝首狩りマチェット〟が血を望む」
「リジーの動機が怖いけど……まあいいか。道に迷いそうなエイミアは私が何とかするから、二時間後に守護神の部屋の前で集合!」
「「「りょーかい!」」」
……何かショッピングセンターで解散するみたいなノリだったけど……ま、いいか……。
「行くわよエイミア」
「はーい」
でも。
「ごめんなさい! 間違えて守護神ブッ飛ばしちゃいました」
たく……ちょっと目を離した隙に……! エイミアがザコと間違えて守護神のトロルを倒してしまい、予定より早くレベル上げ終了となった。
「……よっと! ……やっと出られた……」
「エイミア姉が余計な事するから……」
「本当にごめんなさい〜」
「まあまあ。けっこう良い稼ぎになったわよ」
「……とりあえず宿場町で一泊してから、次の町で換金するか」
後からギルドで教えてもらったんだけど、私達が攻略したダンジョンは、この辺りではかなり有名なダンジョンだったらしい。
犠牲になる冒険者も多かったらしく、ギルドも注意するように警告を出していたそうだ。
「え……でも割と簡単に攻略しちゃいましたよね?」
……だから“八つの絶望”を基準にしちゃダメだって……。
そういえば。
ゴールドラビちゃんどうしよう……。