第八話 ていうか、新大陸に来ても温泉巡り。
まずは……帝都か。
「帝国の北部となると、気候がガラリと変わるみたいだから……帝都で情報収集と準備ね」
「え!? 帝都へ行くんですか!?」
「そうよ。北へ行くんなら帝都を通らないと難しいし、北には大きい都市がないし……ちょっとエイミア?」
帝都へ行く! と聞いた途端に、エイミアは闇ギルドまで走っていった。
「何かあったの?」
「さあ……」
リルと首を捻った。
「すいませ〜ん! お待たせしました〜!」
十分ほどしてからエイミアが走って戻ってきた。何かいっぱい書類みたいなものを抱えてきてるけど……?
「これを見てください!」
エイミアは私達の前に書類を広げた。何々……帝国観光マップ!?
「エイミア! あんた何考えてるのよ!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい! ひゃっひぇ! ひゃっひぇ!」
……何か言ってる……?
「おい、サーチ! ちょっと待て!」
「何よ」
「これ……スパシールにタンプにブラックリバーって……帝国の温泉地じゃねえか!」
「エイミア〜! 私あんたを誤解してたわ〜! ほんっとにごめんなさい!」
「痛いです〜……」
「今度好きなモノ奢ってあげるから! ありがとうエイミア! 私達竜の牙折りの旅の目的を見失うとこだったわ……」
「そうだぜエイミア。新大陸に来てから、温泉地を考える余裕なんてなかったからな……でかした!」
「え? え? エヘヘ、なんかこそばゆいです……」
そうね。エイミアって誉められるより、怒られるほうが圧倒的に多いもんね……。
「……なぜ温泉にこだわる?」
リジーが不思議そうに聞いてきた。
「リジーが呪いのアイテムにこだわるのと同じ!」
「……?」
ますます首を傾げるリジー。うーん、説明しづらい……。
「大丈夫です! リジーも興味持てますよ!」
をを! エイミアが張り切ってる!
「ブラックリバーに『剣台館』ていう有名な旅館があるんです」
どっかに似たような名前付けてる旅館があったな! しかも一族で!
「その旅館の女将が呪いのアイテムを大量に展示してるとか」
リジーはエイミアの肩をガシッと掴んだ。
「ブラックリバーはどこにあるの? いつ行くの? いつ行けるの? 何日後? 何時間後? 何分後?」
「え!? え!? ちょっとリジー!?」
「連れてけ連れてけ連れてけ連れてけ連れてって」
「いや、あの、ちょっと……サーチぃ……」
わかったわかった……。
「落ち着きなさいリジー……帝都に行くのから、どちらにしてもブラックリバーは通るから大丈夫よ」
「今すぐ行きたい行きたい行きたい行きたい逝け」
「ちょっとリジー……最後だけ漢字が違う気がしたんだけど」
「ごめんなさい……それとカンジって何?」
ぐぁ! しまった!
「何だ何だ古代語か!?」
うぁぁ! 最近めんどくさくなってきたリルが食いついてきた……!
「そうよ、古代語よ! あとで教えてあげるから!」
「う〜……仕方ない……けど絶対だぞ! 絶対だからな!」
「はいはい……」
……ウゼェ……。
「話が毎度逸れるのは何でだろう……」
その後、何回も何回も脱線しながらも帝都までのルートを決めた。
「まあ結局は全部の温泉を巡るってことで!」
「「さんせーい!」」
「ブラックリバー!」
リジー! わかったから!
「じゃあこっちの“八つの絶望”は無視するのか?」
…………へ?
「……あるの?」
「そりゃあ、あるさ……新大陸には二つあるな」
「……まさか……また温泉の近く?」
リルは地図をしばらく眺めて……首を振った。
「いや……汚泥内海は南の海岸沿いだから、帝都へ向かうなら関係ないな」
「もう一つは?」
「ズバリ、帝都そのものがダンジョンの一部だ。“八つの絶望”の一つで規模としては最大の迷宮……旋風の荒野だ」
うあ……ついに旋風の荒野なのか……。
「サーチ? 何か凄く嫌そうな顔してません?」
「イヤに決まってるじゃない……あんた知らないの?」
エイミアは頭を左右に振った。
……仕方ない。説明してあげるか……。
旋風の荒野。
“八つの絶望”の中では、最大規模のダンジョン。暴風回廊があるから、勘違いされがちだけど……このダンジョンは風の迷宮なのだ。とことん広い荒野が広がってるので、一見ダンジョンとは思えない。だけど風の迷宮なんだよね……。
旋風の荒野を歩くには風を避けなければならない。そう、風は見えないのだ。迷路のように入り組んだ風の隙間を通り抜けなければならないのだ。どうやって攻略しろっつーのよ……。
ちなみに。
隙間を外れて、風の壁に触れてしまった場合、吹き飛ばされて遥か彼方へ逝くか、上空に巻き上げられて地面にズドンか、カマイタチによってバッラバラになるか。バラエティ豊かである。
「……まさか……旋風の荒野を通り抜けないと……帝都に行けないとか?」
「……んなわけねえだろ。誰がそんな生死を賭けないと行けないような場所に帝都造るんだよ……」
……ですよねー。
「ここを帝都に選んだのは……防衛のためだろうな」
まあね。
旋風の荒野なんてあれば天然の防壁としては一級品だし。
「げっ」
「どうしたの、リル」
リルは持っていた地図を広げて見せてきた。
ある部分を指差す。
「へ? 帝都よね?」
その帝都からずーっと指をずらしていって……。
「ん〜〜……げっ!」
うわあ……すごいわ。
帝都をここに決めた人、えげつない天才だわ。
「サーチ? リル? なんで『げっ』なの?」
そう言われた私とリルは地図のある場所に同時に指を置く。
「……?」
エイミアが覗き込み。
リジーもチラ見する。
「……嘘」
「……なるほど」
指のすぐ隣には……こう書かれていた。
“嘆きの山”と。
「これ……戦争では守備カンペキよね」
「最悪、嘆きの竜を叩き起こせば道連れにできるな」
「リル、それ世界も道連れになりません?」
「エイミア姉に賛成」
とりあえず方向性は決まったので闇ギルドに顔を出す。
「帝都に行くのか?」
「ええ。北側の異変はやっぱり三冠の魔狼が絡んでるとしか思えないし……魔王の動向がわからない以上は、北側を調べるしかないな……と思って」
「……まさかとは思うが……スパシールとかタンプに行くのが目的じゃないだろうな?」
ギクギクッ!
「さ、さあ。何のことやら……」
「……そこの金髪の……エイミアだったか? さっきそこで熱心に温泉について聞いてまわっていたな」
エイミア〜!
「さ、さあ……他人のそら似じゃないですか?」
「……儂にも聞きに来たが」
「すいませんでした!」
……あとでエイミアにはSTFの刑にしてやる。
「くくく……あっはっは! そう畏まらなくてもいい! ……面白いパーティだ。義理の兄に聞いた通りだな」
…………!?
「「「義理の……兄?」」」
「知っているだろう? スーモサカのギルドマスターをしている……」
「……はう」
ばったーん
「ちょっ! エイミア! エイミアしっかりして!」
「お、おい! どうしたん」
「近づくんじゃねえ!!」
どごっ!
「ぐっはあ!」
「リル! リジー! すぐに出発よ!」
「おう!」
「……? ……おー」
こうして。
新大陸に最初についた港町を後にした。
……急ぎすぎて町の名前忘れた……。
何で変態ギルマスの魔の手は新大陸にまで及んでいるわけ!?
ウィルデネスというのは荒野の英語の読み方ウィルダーネスをちょっと変えました。