第六話 ていうか、情報収集する前に確認すべき。
三十分ほど経ってからゴルドンさんが戻ってきた。
「待たせたな……お前らが欲しがってた情報だが……」
私は魔王と三冠の魔狼を追って新大陸にきた。まず必要な情報として、これは外せない。
「目立った目撃情報は無かったが……帝国の北側で低クラスのモンスターの大規模な移動が確認されている」
モンスターの大移動……ね。
「それは統率されたものなの? それとも……」
「残念ながら、お前が今言おうとした方だな……モンスター達は半狂乱になってまるで怯えているようだった……という事だ」
そっちが三冠の魔狼ね。あいつは基本的に単独行動だし……。
「それ以外は特に無い。他には情報はいるか?」
「……なら……帝国の情報が欲しい。特に帝都付近の現状を詳しく。あとは大雑把な情報でいいから新大陸に関わるものを」
「わかった……おい!」
「はい! 新しい情報オーダー入りましたー!」
「「「ありがとうございます〜」」」
……まだやってたのね……。
しばらく待ってくれ、とのことだったので。
「町を見てまわりましょうよ」
……というエイミアの提案を採用することになった。私も確かめたいことがあったから、ちょうどいいし。
「ちょっと待って。出かけるんだから少しいじるわよ」
「……え?」
エイミアの髪をポニーテールにして服装を少々変える。リルは自分で帽子をかぶり、猫耳と癖のある茶髪を隠す。リジーの銀髪の先を軽く染めてアクセントをつける。
私はビキニアーマーを普通の服装にして黒髪を背後で縛り、メガネをかけた。
「まあこんなもんでしょ」
「おいサーチ。エイミアはちょっと目立つぞ」
「そーよね……だけど……」
エイミアを角度を変えてチェックする。
「うーん……やっぱりダメか……ちゃんと対処しないとダメね」
リルも頷く。
「あの……対処って何の話ですか?」
私はエイミアを無視して魔法の袋を探る。
「……あったあった」
だいぶ前にドロップアイテムとして手に入れたサラシを取り出す。
「な、何をするんですか!?」
「リジー。エイミアを捕まえてー」
「わかった」
「え……はう!」
リジーはエイミアを羽交い締めにする。
「さ・あ・て♪ リル……」
「わかったわかった……それじゃあ剥くぞ」
「え゛……い、いやああああああ!!!」
「うう〜……苦しいです……」
「静かにしてなさい」
「でも……締め付けがキツくて……」
あんたデカすぎなのよ! かなりキツく締めないといけなかったし……。
羨ましい……。
「我慢しろ。私達の中じゃお前のソレが一番目立つんだからな」
実際に私達をチラチラ見ていた警備隊が、エイミアを見た途端に視線を外して去っていくパターンが何回かあった。たぶん「胸がデカい女の子」という特徴が出回っているんだろう。
「でも何で私達がコソコソとしなくちゃならないんですか?」
「「……は?」」
「エイミア姉、気付いてなかった?」
リジーが近くに貼ってある手配書を指刺す。
「え? …………こ、これ私ですか!?」
そこには、いかにも「私達はワルなんだぜ、フフフ」という感じに描かれたエイミアの顔があった。目つきが悪いのとニヤリと笑った口の端以外は、割と上手に描かれている。注意書きで「巨乳」としてあった。やっぱり。
「わ、私、何にもしてないのに〜」
泣くなエイミア。全ては警備隊詰所を破壊した猫娘が悪い。
「わ、悪かったよ……でもいいじゃねえかエイミア! サーチの手配書よりはマシだからうぼおっ!」
「余計なこと言わなくてもいいのよ!」
「……? ……何て書かれてたんですか?」
「エイミア、そこは聞かずにおいてやれよへぶぃっ!」
「あんたが言い出したことでしょうが!!」
「あ、あのー……」
リジーに問いかけるエイミア。
「特徴に『露出狂』と書いてある」
「なるほど……うぶっ?」
「……何を納得してるのかな〜……エイミアー!!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「……出かけるのが遅くなっていく」
……指名手配されようが平常運転の私達だった。
「とりあえず拠点がいるわね」
腫れた頬っぺたをさするエイミアを宥めながら、通りを歩く。
「拠点って……しばらくここに滞在するのか?」
「まーね。ギルドみたいに私達の常識が通用しないことがあるみたいだし……慣れることも必要かな……って思って」
「でも……それなら旅しながらでも……」
「あんまり目立たない方がいいわ。新大陸って何かキナ臭いのよね……」
「サーチが一番目立ってますよねうきゅっ!」
「……何か言った?」
「痛いですサーチ!」
「ふぅん……で?」
「……………………何でもないです……ぐすっ」
わかればいいのよ。
「サーチ姉、極悪」
うるさい!
「と・に・か・く! 帝国には特に注意しないといけないから! わかった?」
リルが眉間にシワを寄せる。
「……そういやそうだったな……私もサーチに賛成だ」
「リル知ってたの?」
「当たり前だ。獣人の裏切り者を知らねえヤツはいねえよ」
「な、何ですか? その裏切り者って?」
「……その話を聞くのならうってつけのヤツがいるわ」
そう言ってからルーデルを見る。
見る……あれ?
……?
「……ルーデルは?」
「「「はあああああっ!?」」」
「お前! ずっと気づいてなかったのか!?」
「サーチ……流石にそれは無いですよ……」
「やっぱり極悪」
「な……そこまで言わなくても!」
「「「そこまで言う事だよ!」です!」だ!」
「なら私が説明してやる。サーチが覚えてる限りで、最後にルーデルを見たのは?」
えーと……。
「……船の中」
「…………まあいいだろう。今朝ニーナさんと別れた時のことはわかるな?」
「……あのね……さすがに朝のことはわかるわよ……」
「そうだ、お前が『バイバーイ』って叫んだ時だ」
……うん、やったわね。
「その時、手を振ってただろ?」
うん、振った。
「振り返したヤツがいただろ?」
「振り返す!? ニーナさんがそんなことできるわけ」
「ちげえよ! ニーナさんを前に進めろ!」
はあ?
前に進める?
…………進む……進む。
船首が見えなくなって……船尾が中央へ……。
一番後ろで手を振る人が……人!? ニーナさんの船は無人……て!?
「ああーーーーー!!!」
そうだった! 忘れてた!
私とリジーの騒ぎで、ルーデルの故郷から遠ざかったもんだから……。
「……ニーナさんがルーデルを、故郷の近くまで送ってくれるんだった……」
……すっかり忘れてた……マジで……。
「不憫だ……ルーデルが不憫すぎる……」
うう……何も言えない。
「サーチ! 今度ルーデルと会うときは、ちゃんと向き合ってください!」
「一日デートに付き合うぐらいはしてやれよ」
「……元私を大事にして」
「……わかったわよ……デートでも何でも付き合うわよ……」
……マジで自己嫌悪だわ……。
「ふんふんふふーん♪」
ゴシゴシゴシ
『…………ルーデル』
「……ん? 何だよ、ニーナさん」
『今日は掃除はもういいですよ。お休みにしましょう』
「え? 何でだ?」
『何か食べたいものはありますか? 欲しいものはありますか?』
「??? ……何だ何だ? どうしたんだニーナさん?」
『……ルーデル。しっかりと気を強く持ちなさい。どんなに世間が冷たくても、胸を張って生きなさい』
「……はあ……?」
ルーデルよかった。
再登場のフラグ立つ。
作者が忘れていたわけではありません!
…たぶん。