第五話 ていうか、正規ギルドの代わりは闇?
リルが凶暴化して警備隊を詰所ごと殲滅してから一時間後、私達は小汚ない酒場の一角にいた。
「あの子、奥に入ったまま出てこないわね……」
……いつもだったら返答してくれるリルは、シュンとして耳が垂れていた。
「ああ……やっちまった……サーチみたいなことやっちまった……」
何をボソボソと失礼なこと言ってるのよ!
「リル、大丈夫です。サーチはまだまだ遥か彼方を突き進んでますから」
「そうそう、サーチ姉に比べたら恐竜と普通の蟻くらいの差」
あんたらね……。
「あの……あのあの……」
「ん? あ、さっきの……」
私達を詰所跡地から連れ出してくれた……。
「闇ギルドの一番偉い人が、お姉さん達に会いたいって」
「闇ギルド!?」
闇ギルドってのは……まあ裏社会のハローワークみたいなとこ。当然、違法な方々が勢揃い。盗賊にアサシンに裏の仕事の関係者エトセトラエトセトラ。
……そんな犯罪の巣窟のギルドマスターだから……ろくなもんじゃないだろうな……。
けど……裏のギルドだからこそ情報も集まりやすいか……よし。
「わかった。行くわ」
……誰も何も言わない。異論はないようだ。私達は女の子の先導で酒場の奥に入った。
「あれっ?」
「「いらっしゃいませ! ようこそエイトハタ闇ギルドへ!」」
えっ? えっ?
何、この妙に明るい闇ギルド?
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「あ? え?」
「あのあの……一番偉い人に呼ばれてまして」
「闇ギルドマスターに招集されたのですね?」
「は、はい」
「わかりました〜……闇ギルドマスターへの御用件一件入りました〜」
「「「ありがとうございます〜」」」
飲み屋のチェーン店じゃないんだから……。
「闇ギルドマスターの執務室へご案内〜」
「はい、喜んで!」
……闇ギルドって一体……。
コンコン
「闇ギルドマスター、お客様の御指名で〜す」
指名じゃねえよ!
私達は呼ばれたんだよ!
「い〜らっしゃいませ〜〜! 私、闇ギルドマスターの秘書でございま〜す! 少々お待ちくださいませ!」
軽いな!
「ここはホストクラブか!」
「はっ?」
あ、しまった。
「何でもない何でもないです! ていうかここ闇ギルドでしょ! 闇ギルドらしくしなさいよ!」
自分でもわかるくらい変な言い方だわ……。
「お客様からのクレーム入りました!」
「「「ありがとうございます〜」」」
もうやだ! 早くここから出たい!
「お前ら、何騒いでやがる!」
ピタッ
シーーン……
「さっさと持ち場に戻りやがれ!」
「「「はい! わかりました!」」」
バタバタバタ……
「……すまんかったな。儂がこの闇ギルドの元締をしているゴルドンだ……ぅわ!?」
私はゴルドンさんの手をとった。
「そうよ! あなたみたいな人が闇ギルドに相応しいのよ!」
「……は?」
「その厳つい顔! ちょいワルっぽい髪型! いかにも悪の組織の親玉っぽい粗野な話し方! 全てが小悪党系の出で立ちを際立たせているわ! 最高よ!」
「………………」
「それが何!? このやたらと雰囲気が明るい闇ギルドは? こんなの闇ギルドじゃなくて安っぽい酒場ごっこと同じ! そんな中にゴルドンさんが登場したことで安っぽさがちょっとだけ……」
「おい、サーチ!」
「紛れて……何よリル」
「……周りを見てみろ……」
え……?
「…………こ、小悪党系……ひ、ヒドイ……」
「俺らだって一生懸命やってるのに……」
「安っぽい酒場ごっこって……ヒドイ……」
あ、あれ?
「……何でみんな打ち拉がれてるの?」
「…………お前のせいだよ…………」
……そ……そうなの?
「大変申し訳ありませんでしたー」
私は正直な感想言っただけなんだけどな……。
ま、一応謝っとこう。
「……全然誠意が感じられねえな」
「完全に棒読みだったしな」
誠意なんて欠片もないし、意識して棒読みだったんだから仕方ないじゃない。
「それよりも……私達に何か用?」
私が用件を切り出すと同時に、秘書だと言っていた男が進み出た。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「あ? え……んーと……冷たいお茶で」
「冷たいお茶、オーダー入りましたー!」
「「「ありがとうございます〜」」」
……また始まった……。
「他の皆様はどうなさいますか?」
あーもー! 勝手にやってて!
「で?」
「あ、ああ……お前ら竜の牙折りだろ?」
「そうだけど……」
「新大陸のギルドは、正直使えねえ連中ばかりでな……ほとんどの冒険者は闇ギルドを使うんだ」
そ、そうなんだ……。
「で、だ。ちょうど闇ギルドの連中がお前らを見かけてな……声をかけようとしたら……」
「ああ……詰所の崩壊に立ち会った?」
「そうだ」
私達を引き入れようって算段ね……。
ただ「ほとんどの冒険者が闇ギルドを使ってる」てのがどうも信用できないのよね。
……なら……。
「それじゃあ私達のもう一人のメンバーを呼んでもいい?」
するとゴルドンさんの顔色が変わった。
「まさかサーシャ・マーシャか!? 止めてくれマジで止めてくれ頼む勘弁して許してくれえええ!」
「よし大丈夫ね。冗談よ、呼ぶわけないじゃない」
「……本当か? 本当にだな? 闇ギルドの信用に関わる問題なんだ! 頼むぞマジで!」
マーシャン……勝手に名前使ったのは悪かったけど……信用皆無なのね……。
「な、なんじゃ? 急に悲しみに全身が包まれたのじゃが……」
「………………」
「オシャチ……何も言うてくれぬのか……」
「……言うと叱られやすので」
「……悲しいのう……」
「……とりあえず信用できるのはわかったわ……で、情報が欲しいんだけど」
「わかった。どう」
「情報オーダー、入りましたー!」
「「「ありがとうございます〜」」」
………………。
「……あれ何とかならないの……?」
「儂が一言いえば止まるには止まるんだが……」
ゴルドンさんの悩みの種ってわけね……。
「ねえサーチ」
「ん?」
「ここって食べ物は無いんですか?」
あんたまで染まってどうすんのよ……。
「飲み物冷たいお茶しかない……」
リジーもか!
「サーチ。いいから見てろよ」
ええ〜と……?
「食べ物ですか? ちょっとお待ちください……何か食べ物オーダー入りましたー!」
ムチャ振りしてるし。
「えっ? な、何かって……えーと……氷オーダー入りましたー!」
氷かよ!
「冷たいお茶以外ですか!? 少々お待ちください…………えーと……水オーダー入りましたー!」
水かよ!
「ちょっとゴルドンさん! あれはいくらなんでも……」
「何も言わないでくれ。営業許可証が取れなくてな……調理師もいないから何も作れないし……」
営業許可証に……調理師……って……。
「あんた達……闇ギルドなんでしょ……すでに違法なのに、そんな事だけ律儀に法律守る必要性あるの……?」
「…………あ!」
気づいてなかったの!?
……こうして。
このエイトハタから始まった異世界式(?)ファミレスモドキは……全世界に広がっていった。
ただ単に……ウザいだけなような気がするのは私だけだろうか……。
「あの……情報……」
「情報オーダー入りましたー!」
「それはもういいから!」