第三話 ていうか、いよいよ新大陸に到着!
『陸地が見えてきましたよ』
昼ご飯を食べてから一時間くらい経って、腹ごなしにエイミアとリジー相手に軽く運動していた時に、ニーナさんからの朗報が届いた。
私は真っ先に甲板に走り出る。
「……やったーー!! 一ヶ月ぶりの陸地だーー!!」
私は歓声をあげた。
「ぐニャ!」
すると後ろで猫が潰れたような声がした。
「いてて……変な例えをするんじゃねえ!」
「そりゃ失敬……それより何かあったの?」
「お前の声にびっくりして屋根から落ちたんだよ!」
……つまり寝てたわけね。
「はあー……ひー……はあー……ひー……」
「……今度は……エイミアか」
「何でそこまで息切れてんだよ……」
ドアから出てきたリジーに引き摺られてエイミア登場。
「さ、サーチが……ひー……ひー……剣の練習でも……ひー……ひー……しよっかって……ひー……軽くやるからって……ひー……」
「ああ、軽く練習しようと言われたけど、目一杯搾られたわけか」
エイミアはガクガクと頷いた。
「エイミア姉、体力無さ過ぎる」
「ま、心配しなくても一分もあれば回復するから大丈夫よ……あんたは大丈夫なの?」
「……平気、まだいける」
リジーは多少汗で濡れている程度。搾ったら樽一杯汗が溜まりそうなエイミアとは大違いだ。
「それよりサーチ姉化け物。汗一つかいてない」
「それは違うぞリジー。サーチはほとんど裸に近い格好だから暑くなぐぼぉ!」
「……裸じゃないわよ、さすがに……」
脇腹をド突かれてのたうち回るリルを隅に退かす。
「『体力』なら、たぶんリルやリジーには負けるわよ」
リジーが首を傾げる。
「なら、何故サーチ姉は息切れしない?」
「うー……簡単に言うと……あんた達はムダな動きが多すぎるのよね」
「「ムダな動き?」」
いつの間にか復活していたエイミアも首を傾げる。リジーが真似するから止めなさい。
「これは難しいからね〜……もう少しステップアップしてからね」
私だって口で説明しようがないわよ。
「どれくらいで教えてくれる?」
……エイミアには一生かかっても無理だと思う……その前に静電気で周りを吹っ飛ばしたほうが早いか……。
ん? 待てよ?
「エイミアって≪蓄電池≫の静電気で周りを探知したりできない?」
「え? ええ!? せいでんきで周りを!?」
……うーん……エイミアが悩み始めた。すると意外にもリジーが助言をし始めた。
「エイミア姉。身体中から手が生えてあちこちを触るイメージで」
なんか千手観音が落としたコンタクト探す姿を想像しちゃったよ……。
「手を……身体中から……ん〜〜〜……」
パリ……パリパリ……
お?
エイミアから静電気がアチコチに伸びてるみたいね……私の周りもパチパチいってる……。
「……リジーの言ってる事が何となくわかりました」
エイミアはそのまま目を閉じる。
「私の斜め後ろにサーチ……あ、いま右側に動きましたね」
おお!
ちょっとだけ動いてみたけど、ちゃんとわかってるみたいね。
「……さらに後ろにリジーがいます……いま右手を上げてますね……右手を下げました……左手を上げました……左手を下げ……あ、下げません! 代わりに右手を上げました……左手を下げて上げて下げて右手も下げて左手右手上げて下げて上げて下げて」
ぽかっ! ぽかっ!
「うっとおしいわ! 止めなさい2人とも!」
「「……はい」」
「おい、沿岸警備隊が来たぞ……今回は気を付けろよな」
わかってるわよ!
「大丈夫。今度こそ私だけで全滅うきゅ」
「だからダメだって言ってんだろ!」
『私が対応しましょうか?』
ニーナさんが? 確かにこの中では一番の常識人だろうけど……。
「……どうやって?」
……船がしゃべったらマジでパニックだよ?
『任せて下さい。サーチ達はゆっくりお茶でも飲んでいてください』
そう? なら任せますか。
「……何となく厄介払いされた気もするな……」
いや、実際に厄介払いだと思うよ。
「そうそう、リジーに聞きたかったんだけど」
「ごきゅごきゅごきゅごきゅ」
「……一応高いお茶なんだから味わって飲みなさいよ……」
「水分補給だからいいと思われ」
……まあいいけどさ……。
「で、サーチ姉、何?」
あ、そうだった。
「さっきエイミアに解説してたじゃない。リジーにもエイミアの静電気に似た力があるの?」
「ある」
知らなかったわよ!
「何で言わなかったの!?」
「言わなきゃダメ?」
「……あのね、戦闘のときに、味方がどういう能力があるかを把握してるかしてないかで全然違うのよ!」
「……ソーナノ?」
「そうなのよ! 期待されても『そーなんす!』なんて言わないからね!」
「残念」
……って話を逸らすな!
「で! どういう能力なの?」
リジーは装備していた盾を見せた。
「この盾の呪い。魔力で構成された手を伸ばして、相手の魂を奪って貪り食らう」
「怖いわよ! そんな不気味な手を伸ばさないでよ!」
「大丈夫」
パチンッ
ゴト!
「え? ええ!? 何でビキニアーマーのホックが外れたの!?」
「こんな感じで完全に制御できる。スキル名は≪驚愕の手≫」
……いろいろと応用がきくスキルみたいね。
だけど。
「何でわざわざ私のビキニアーマーを外したのかしら……?」
「エイミア姉のリアクションに飽きたから、今度はサーチ姉をからかうことにイタタタタタタ」
「いい度胸ね……? そういうことは私相手に一本とれるようになってからしなさい……」
「イタタタタタタタタタタタなんだか洒落にならないのでやめてイタタタタタタ……がくっ」
がくっまで棒読みかよ!
「ねえ、エイミア。あんたさっきのヤツさ、もっと訓練してみない?」
「さっきの……ってせいでんきアンテナですか?」
「何よ、その緊張感の無いネーミングは……そう、それよ。ちゃんとコントロールできるようになれば、私と一対一でもいい勝負できるわよ」
「本当に!?」
「ホントに。ただ容赦は一切しないけど……」
「うぐっ」
いきなり躓いたわね……。
「で、でも! 私も≪蓄電池≫ばかりに頼ってるわけにはいきません! サーチ、お願いします!」
……でもさ……あんたが言うところの「せいでんきアンテナ」も……≪蓄電池≫の一部なんだけどね……。
なんとなく始めたこの訓練だったんだけど、根気よく続けた結果。
エイミアにとっても。
私にとっても。
とんでもない結果をもたらすことになりました……。
回収してないのに伏線ばかり増えていく…。