閑話 三人娘の普通な日常
一、リルの場合
今日一日は完全な自由行動だ。久々だな〜。
サーチは私が起きたときにはもう出掛けていたし、リジーは「呪いの匂いがする」とか言ってフラフラと出ていった。
このまま惰眠を貪るにはもったいない天気だったので、出掛けることにした。
ん、エイミアか?
幸せそうに「あまーい」とか言いながら寝てるよ……。
「っっかぁ〜!! よく晴れたな〜!!」
護身用にフィンガーリングを懐に突っ込んでるくらいで、いつもの装備は宿に置いてきたから身体が軽い!
「ぃよーし!」
軽く柔軟体操をして、身体をほぐしてから……。
「よっと!」
だん! すたっ
近くの民家の屋根へジャンプする。そのまま≪猫足≫をフル活用して屋根から屋根へ飛び移る。もちろん住人に気付かれるようなヘマはしない。
しばらく走っていると、一際高い建物が見えた。
「教会かあ……やっぱこれぐらいデカい町だと規模も違うな……」
気まぐれで目的地を教会に定めて加速する。あっという間に教会の尖塔が目の前に迫り……壁を駆け上がって、頂上近くの空洞に降り立った。
そこは鐘がぶら下がっている場所だ。確か何時間かごとに鳴らすんだっけ?
……まあいいか。
「わ〜……すげえ眺めだな〜……」
私の故郷は森しかないから、こんだけカラフルな景色は見たことねえ……。
さてと……。
………………。
どうしよう……。
「しまったな〜……どうも高い所に登っちまうな」
昔からの悪い癖だ……。
「……弱ったな……」
……実は私……高い所が苦手なんだよな……。
………………。
降りれない……。
「…………誰かいないかー……」
………………。
「……助けてニャー……」
……その頃、サーチ。
「ふん、ふふーん♪」
ソレイユからもらったビキニアーマーのフィット感、ホントにいいわ〜♪ 揺れ具合もサイコー♪ ……て、あれ?
「屋根の上を飛び回ってるのって……リルよね?」
妙にはしゃいでるような……やっぱ猫だから天気がいいとテンション上がるのかしら?
「……お……おお……あ、教会に登り始めた!」
あいつ、怒られるわよ……あの尖塔は教会の人しか登っちゃダメなんだから。
「ま、猫だから日向ぼっこでもするのかな……」
そう呟いて道具屋へ入った。
二時間ほど道具屋と会話……というか交渉……というか恫喝ゲフンゲフンをして、三割ほど引いてもらえた。
「ふふーん♪ 薬草がかなりお手頃で仕入れられたわ〜♪」
店の中で御主人が咽び泣いてたけど気にしない。
「あとは武器を見に行って……あれ?」
尖塔にまだリルがいる。
「あいつホントに叱られるわよ……」
……寝てるわけでもないし……何やってんだろ?
「……うん? ……何か叫んでるような……」
微妙にニャーニャー聞こえるのは気のせいか……。
うーん……。
「……ちょっと見に行ってみますか」
教会の人に見つからないように忍び込んで……。
「げっ!? この梯子を登んなきゃいけないの!?」
うーん……『体力』が低い私にはキツいわ……。
「…………助けてニャ〜……うえ〜ん」
!?
リルが助けを呼んでる!?
まさかモンスターが……!
「待ってなさいよリル! 今助けてあげるから……!」
三十分後。
「……びええええ……ありがとうサーチ〜……びええええ」
「はあ、はあ、はあ……何? 降りれなくなっただけ?」
「怖かったニャー……びえええ」
………………。
「……自分で何とかしなさい」
「え!? ま、待つニャ! 待ってニャ! 置いていかニャいで!! ニャ! ニャニャー!!」
……たく! ムダな体力と時間使わせやがって……!
二、サーチの場合
「ったくもー! 枝に登って降りられなくなった子猫と同じじゃないの!」
「うう……面目ない……」
「ま、いいわ。黙っててほしければ、今日は私の荷物持ちね」
「げっ!? な、なんでだよ! 魔法の袋があるだろ!」
「皆さーん、ここにいる猫獣人は高」
「わかった! わかった! 何でもするからやめてくれ!」
ふふふ……一日コキ使ってやるわ。
「で? どこに行くんだよ?」
「あとは……武器屋と市場ね」
「市場は食料の買い付けだからわかるけど……武器屋? お前≪偽物≫あるから必要ないだろ?」
「何言ってんのよ。私の知らない金属があるかもしれないじゃない……触るだけならタダだし」
「……ケチんぼ」
「皆さーーん! リルは」
「やめろ悪かったごめんなさいすいませんでしたー!!」
……なんてことをしてるうちに武器屋に到着した。
ガチャッ カランカラン
「こんな弱い呪いでは話にならない。もっと強いものは無いの」
「強い呪いって……そんなの置いてるわけないじゃないですか! 勘弁してくださいよお客さーん!」
「嫌。まだ強い呪いの武器あるはず。出して出しなさい、て言うより出せ」
「何だよ、この棒読み女! もうやだよーーー!!」
……バタン
「……何でリジーがいるのよ!」
「……呪いの武器探すって言って出ていってたな……」
……タイミング悪いわね……仕方ない、先に市場にいくか。
「ここが……市場よね?」
途中で道を聞いてついた市場は……。
ヒュウウウ……
……誰もいなかった。
「何で市場が休みなのよ!?」
「知らねえよ! 今日が休みかどうか確かめなかったのかよ!」
「まさか休日の昼間から、市場が休むなんて考えられないでしょ!?」
「うーん……確かに……」
すると、向こうから警備隊の隊員が歩いてきた。
「ちょっとそこのお巡りさん!」
「お、おまわり?」
「何でもいいから教えてプリーズ! 市場が営業してないでどーいうこと!?」
「え? あ、ああ君もか……さっきから同様の問い合わせが殺到していてね……」
そりゃそうでしょうよ! 食べ物が手に入らないってホントに死活問題だし!
「何かあったの?」
「……巨大なモンスターが現れてね……」
「「モ、モンスター!?」」
こんな町中に? 一大事じゃないの!
「ど、どんなモンスターが?」
「オレは見てないんだが……とてつもなく巨大なケルベロスだそうだが……どうかしたか?」
「ちょ、ちょっと用事を思い出したので……おほほほ」
「し、失礼しました!!」
ばひゅんっ
「……なんだありゃ?……」
「何であんたが市場にいるのよ!?」
『我が番が食するものに多大な興味を抱いてな』
興味抱かなくていいから!
「頼むから勝手に出てこないで……」
『うむ、善処しよう』
善処じゃなくて決定して!
「何なのよ今日は……全然予定がうまくいかないじゃない……」
「ま、そういう日もあるさ」
「あんたも原因の一つじゃないの!」
「そんなに怒るなよいでっ! いででででででで!!」
「怒るに決まってるでしょ!! このチンマリと生えたヒゲ全部抜いてやる!!」
「だ、ダメダメ! それ抜くと方向感覚が狂う……」
「え」
ぶちぶちぶちぃ
「ニャーーーーーーーーー!!!」
三、エイミアの場合
「んふ……んふふふ……このお菓子甘くて美味しいです……んふふふ」
ガチャガチャ! バン!
「どうしてくれるニャ! 森の中で方角がわからないニャ!」
「ごめんごめん……回復魔術は毛にも有効だそうだから誰かに頼んで……エイミア?」
「んふ……んふふ」
カアー、カアー
「……この子、夕方まで寝てたのね……現在進行形だけど」
「……さすがエイミアだな……」
んふふ……甘くて美味しいです……。
「ただいま」
「あ、リジー……ってあんた……その大鉈は何?」
「これは“首狩りマシェット”という呪われた大鉈。銅貨三枚で買った」
「はあああ!? 銅貨三枚?」
「何でそんなに安く……」
「粘り強く交渉したら金貨三枚からまけてくれた」
「「き・ん・か・さ・ん・ま・い???」」
「店の人泣いてた」
「…………おい…………お前の影響じゃないのか……?」
「…………否定できない…………」
「んふふふふ」
アタシーでの、とある平和な日のことでした…………。
明日から新章!
新大陸編です!