第二十話 ていうか、ルーデルと激しいプロレスごっこ。
「ふう……」
全員が寝静まった真夜中、私は一人で露天風呂に浸かっていた。
「…………」
いろいろ考えなきゃいけないことがある。一つ一つ整理していくしかないか。
まずは魔王ソレイユが言っていたモンスターのこと。
ソレイユが言っていた理屈はわかる。モンスターの立位置が微妙な状態なのもわかる。だけどダンジョンが増えていき、関係ない人間が巻き添えになるのは見過ごせない。
私は人間だ。だから同じ種族である人間を助けたい。それにダンジョン産のモンスターの素材は、今の人間社会にはなくてはならないものだ。ダンジョンコアなんて極上の魔術素材だそうだし。
だから……これからの冒険には、ダンジョンの討伐も視野に入れていく。ソレイユも「いいよ。それ自体がバランスの調整にもなるから」と言っていたし。
友達だけど立位置は違う。だから私はソレイユに遠慮することなく、ダンジョン討伐をしていこうと思う。
まあ、できれば“八つの絶望”みたいなのは遠慮したいけど。
「で、リジーかぁ……」
これが一番頭が痛い。やはり「生まれたばかり」という面が問題なのか……常識を無視しすぎる!
いきなりエイミアやリルを見た目で呼びつけたり……女将さんの大事な火箸風鈴をぶち折って捨てたり……あれで知識はちゃんと備わってるんだから、余計に始末に悪い……。
まあ戦闘では貴重は前衛だから……時間をかけて教え込んでいくしかないか。
「あとは…………ルーデルよね……」
………………。
想いに……応えてあげることはできないけど……。
「………………」
ダメだなあ……私。どうも前世から「真っ直ぐな想い」ってのには弱いのよね……。
重い足取りで部屋に戻る私。今回はエイミアとペアで泊まってるんだけど……。
ガラッ
「ち……やっぱりいないか」
「ちょっとリル達と出掛けますね」なんて言ってたけど……変に気を回すなっつーの。
「は〜あ」
タオルをカゴに放り投げて布団に寝っ転がった。風呂から出たばかりで身体が暖まっているせいか、猛烈な眠気に襲われる。
「ふぁ〜……眠い……」
さて……ホントに来るつもりなのかしらね……ルーデルは。
…………。
……静かだわ。
……がたっ
「っ!」
……隣の部屋から誰か出てきた。
ザ……ザ……
うう……! この部屋の前に来てるぅ〜!
………………。
……あれ?
戸の前で……止まってる?
………………。
気配から察するに……ウロウロしてるわね……。
………………。
………………。
……イライラ。
………………。
………………。
……イライライラ。
…………。
ぶちぃ
ダダダダ! ばぁんっ!
「入るのか入らないのか、さっさと決めろアホゥ!!」
「うわびっくりした! いきなりなんだよ!」
「だ・か・ら! 入るならとっとと入れえええ!!」
「えっ!? ちょっ……」
ガラガラッピシャッ!!
「………………で?」
「……いや……あの……」
私は≪偽物≫でハンマーを作って、ルーデルに振り下ろす。当たる数㎝出前で寸止めしてから。
「で? 何が言いたいの?」
……と問い質す。
……ルーデルが腰を抜かしているみたいだけど……そこは割合する。
「あああの……とりあえずハンマーをしままっていただだけますか??」
……私は無言でハンマーを霧散させる。
「で?」
「ああ、はい。実はですね……俺、いや私は今非常に厳しい状態でありますて」
ありますてって何よ!
「うっとおしい! 普通にしゃべれ!」
「は、はいい! ……あの、過去のやり直しをしないと俺は女に戻ってしまう……」
「知っってるわよ! だから要点を話せっつってんの!」
「わ、わかったよチクショウ! 十四歳の時に俺は当時好きだった女性に告白して……その……そういう感じになったんだ」
「そういう感じって……漠然とし過ぎでしょ……」
「だから……! その……! 好きな人と……! も、もう一度……!」
それで私か。
「ごめん。当時好きだった女性ってのは……今は?」
「…………………………結婚して子供もいる」
「フラれたのね」
「うぐ……! そ、そうだよ! 見事にフラれたんだよ! 女にしか見えない男とは、真剣に付き合えないとさコンチクショウ!」
うわあ……トラウマ確定ね。
「……つまり現状で……条件が合致するのは私だけ……と」
そりゃあ必死になるわね。明日には私達は旅立っちゃうわけだし。
「べ、別に条件云々は関係ない! 俺はサーチだから抱……!」
私はルーデルの口を強引に口で塞ぎ。
「…………ふぅ……たあ!」
「う? うわあああ!」
ルーデルの片手を捻りあげて引き倒す。そのままマウントポジションを奪う。
「さあて……どうする?」
「……どうしようか……」
ここまでお膳立てしてやってまだ迷うか!?
「あーーもうっ! じれっったいぃぃぃ!」
私はもう一度ルーデルに詰め寄る。
「覚悟はできてるの!? 私でいいの!?」
「……サーチじゃなきゃ……」
「ぁあ!? 聞こえないわよ!」
「くっ……! サーチじゃなきゃ嫌なんだよ!」
「よぉし! よく言ったあ!」
そう言って私は浴衣の紐をほどいた。
チュンチュン……
…………。
朝ね……。
「……ぐおー……」
意外とイビキがうるさいルーデルのせいであんまり寝れなかったわ……。
「……もう少し男らしかったら、文句なしなんだけどね……」
……後悔はしてないけど……今回は野良犬に噛まれた程度に思っておきますか。
「……もし……もう一度チャンスが来たなら……」
私はルーデルの前髪をくしゃっと撫でる。
「……もう少し私にマシな印象を抱かせてね……」
次回も野良犬程度だったらホントにフッちゃうからね。
「おう、サーチおはよ」
「サーチ!? どうでしたか!?」
私とリルがガクッとなる。
「エイミア〜……そんなこと面と向かって問い質すのは……はしたなくってよ?」
「え? え!? いたたたたた!! 痛い痛い痛い痛い潰れるうう!」
久々にアイアンクローを極められて泣き叫ぶエイミア。そこへかじった食パンを持ったままのリジーが来て。
「クンクン……サーチから異性の匂いがします。たぶん体えフガフガ」
……そのままリルに引き摺られていった。
紐で縛られて天井から吊るされるリジーを横目に、次の目的地について話し合う。
「この大陸にある“八つの絶望”は……」
「一つね〜……あとは別の大陸と海」
……海ってのが一番厄介なんだけどね……そんなふうに呑気に話し合っていると、女将さんが血相を変えて駆け込んでかた。
きんこんかんこんきん♪
「大変です! すぐにギルドに集まってください! 緊急出頭命令が発令されたそうです!」
私達と同じ旅館に泊まっていた冒険者達が慌てて荷物をまとめだした。
「エイミア! リル! 急いで準備して!」
「いたた……は、はい!」
「わかった!」
同時にリジーのヒモを斬る。
「リジー! あなたは部屋にある荷物を全部持ってきて!」
「わかりますた」
しばらくしてルーデルとも合流し、私達はギルドへ向かった。
ギルドで事の次第を聞いた私は。
「……あのバカ……何してんのよ……」
……ガックリと項垂れた。
ニーナさんが語った異常事態。
それは。
『Sクラスモンスターの反応が、突然新大陸に向かって進みだしました。片方は魔王の可能性が高いと推察されます』
……もう片方のSクラスモンスターって……三冠の魔狼しかいないじゃない!
『つきましては……どちらのSクラスモンスターとも面識がある竜の牙折りの皆さんに斥候として新大陸に渡っていただきます』
…………あいつらああああ!!
……こうして。
ルーデルを故郷に送りがてら。
……行くつもりも無かった新大陸へ向かうこととなった……。
「新大陸にも温泉地はたくさんありますよ!」
さあ! はりきって行きましょう!
そうなんです。激しいプロレスごっこなんですよ♪
明日はいつものビキニアーマー紀行じゃなく、小話をまとめたモノをアップして新章へと移ります。