第十九話 ていうか、いろいろと後始末。
アタシーに戻った私達は、まずギルドに顔を出した。
「そういえばギルドは船と思われ……」
リディアじゃなくて名無しが呟いた。
「この辺りのことは記憶ある?」
「あったり無かったり」
「…………『だった』て言いそうになる?」
「前ほど呪い強くない。たまに影響でるくらいだ…………っ」
こらえたわね。
「あんたの今後も考えなきゃいけないしね……行くわよ」
「…………お、おう」
……なんか最近ルーデルの視線がおかしいのよね……ていうかさ、胸見てるよね。
「ちょっとルーデル! どこ見てんのよ!?」
「んあ!? な、何でもねえ……」
……まったく。
首から下の辺りをガン見してるのすぐに気づくわよ。私は≪早足≫でルーデルの側に立ち。
「……スケベ」
……と耳元で呟いてやった。ルーデルは湯が沸いたヤカンかよっとつっこみたくなる勢いで、頭から湯気を吹き出した。
ちょうどギルドの入口で他のパーティとすれ違った。全員顔に「?」を浮かべて歩いている。その気持ち……良くわかるわ……。入ってすぐ別世界だもんね……。すれ違ってからしばらくして。
「すげ、ビキニアーマーだぜ……」
「ビキニアーマーだ……」
そっちかよ!
「お前も着ろよ……いてっ」
「ふざけないで! あんな恥ずかしいのムリ!」
「……あんな恥ずかしいので悪かったわね……」
……私の呟きが聞こえたのか、脱兎の勢いで逃げていった。するとリルが私の肩を叩く。
「……あれが世間一般の女性の見解だ」
うるさいわっ!
「こーんにちはー……」
『サーチですね……この波動……確かに“賢者の杖”のもの……ありがとう。これで再び動けます……』
魔法の袋に入ってたんだけどわかるんだ……ニーナさんにしてみたら私達がいる場所は体内と同じだもんね。微妙な変化にも気づくか。
『サーチは随分と大物に好まれるようですね』
そっちもバレてるか。
『さあ、約束を果たしましょう。“賢者の杖”をここへ』
私は杖を取り出すと、指定された机の上に置いた。すると“賢者の杖”は一瞬で消えた。
『確かに受け取りました……最低でも一週間は修理にかかりますので、しばらくは移動できませんが……』
「いいわよ、直ってからで。どうやって呼び出せばいいかしら?」
『念話水晶を持っていますね? それで呼び掛けてくれれば応えましょう』
「わかったわ」
さて……あとは♪
「さあ! 温泉よー!」
「「おー!!」」
「……おー」
「く……俺は今度から男湯か……」
『……少しお待ち下さい』
え?
「どうかした?」
『そちらの二人は……同一人物……ですね?』
え、わかるの?
「同一人物……かな?」
私は名無しとルーデルを交互に見る。
「こっちが元の俺」
「こっちが元の私」
ややこしいな。
「元々この姿だったんだけど、呪いでこうなってた」
「その呪いが集まって私になった……気づいたらこの身体だっ…………っ」
そこは「だった」をつけたほうがいいよ!
『あなた達にかかっていた≪識別≫が解けています。贖罪が済んでいない以上、またかけ直したいのですが……どちらにかけますか?』
「「「あ……」」」
これは……困ったわね……。
「私でいい」
すると名無しが手をあげた。
「それ呪いみたいなもの?」
呪い……に近い気はするけど……。
『束縛の属性が強いですから、呪いと大差ありません』
「なら私が貰う」
貰うって……明らかにバッドステータスなんだけど……。
『わかりました。ではかけます……≪識別≫』
ニーナさんが唱えると名無しの周りを淡い光が包んで……収束した。
「……ん……また呪いを吸収しました。少し形態が変化します」
形態が変化ぁ!?
「ん……ん……んうっ!」
ぶわっ
わっっ! めちゃくちゃ髪の毛が増えた!?
「形態変化終了……ふう」
「こ、こいつ人間なのかよ!?」
『純粋な意味での人間では無さそうです。亜人とモンスターの中間辺りが最適かと』
モンスター寄りなの……。
「モンスターに近い私は……仲間にはなれない?」
な、仲間に?
「すいません、てっきり嫌がるかと思ってましたので誘いませんでした」
「……正直パンドラーネの時はそうでした。でも……私は呪いから生まれたにも関わらず、意思を持ちました。私は私が生きる意味を知りたい。ならば世界を見るのが一番いいかと思ったんだっ…………っ」
「……ムリに我慢しなくていいわよ……」
「あ、ありがとうサーチ……皆さんどうでしょうか? 私を仲間と認めてもらえませんか?」
「……私は賛成。リディアが抜ける分、名無しに参加してもらったほうがいいし……何よりおもしろそうだし」
……後半が本音ねリル。
「わ、私も賛成です!」
エイミアは基本拒まないからね……。
………………。
……なんで私を注目するかな。
「……私も反対する理由はないわ。名無しって言い方を考えなきゃね……」
「そうだな……そのままリディアでいいんじゃねえか?」
「嫌。何故か抵抗を感じる……」
「そうですね……名無しを言い換えてナナで」
「安直」
「……ぐすん」
容赦ねえな名無し。
「じゃあ安直だけど、リディアをモジってリジー!」
「リジー……ですか……」
……不満そうね。
「まあいいです。今日からリジーでお願いします」
いいんかよ! なら不満そうに言うなよ!
「じゃあよろしくリジー!」
「よろしくお願いしますデカパイ」
「デ、デカパイ……」
「じゃあ私もよろしくなリジー」
「よろしくお願いしますペチャんぐ」
「それ言っちゃダメ!」
何この子!? キャラクター変わりすぎでしょ!?
『……どうやら呪いの影響で性格も変化するようですね』
……とんでもない子を仲間にしちゃったのかもしれない……。
ギルドを出た後、まずは新琴館へ向かう。そこでリディアじゃなくて名無しじゃなくてリジーの歓迎会と、リディアじゃなくてルーデルの送別会をするのだ。
ガラガラ……
きんこんかんこん♪
……やっぱり鉄琴だ……。
……ぱたぱた
……きーんこん……
ぱたぱたぱた
……かんこーん……
ぱたぱた「いらっしゃー……」
きんこんかん♪
「……ーいませ!」
「…………相変わらずで…………」
リジー以外はげんなりしていた。
きんこん♪
「ああ! またお出でくださって!」
かんこん♪
「ありがとう」
こんかん♪
「ございますー♪」
「……………………どうも」
ああ……これだけが憂鬱だ……。
「五月蝿いね、これ」
「ああっ!!」
わ! リジーが女将さんから鉄琴じゃなく火鉢風鈴奪った!?
「ちょっとリジー! それ取ると……」
「返して〜返して〜返して〜」
……さらにウザくなるのよ〜!!
「嫌と思われ」
ポキィッ!
「「「あ」」」
「あっ! あっ! ああああああああああああ!!」
お、折っちゃった……。
「捨てます」
ポイッ
ヒューン……
「わ、わ、私の宝物がああああ!!」
……きんこんかんと音を鳴らさず走る女将さんは初めてかも……。
「……リジー……後で謝りなさい」
「何故です? 五月蝿くてウザくって」
「確かにそうだけど! 謝りなさい! わかった?」
「でもウザ」
「わ・か・り・ま・し・た・か?」
「……命の危険を感じましたので承諾します」
……後で修理して返しました。よく許してくれたものです……。
「あ、そうだ……ルーデル!」
「なんだ?」
私は≪早足≫で近より。
「……夜に話がある」
……そう告げた。
初の二十話目にいっちゃいます…。