第十八話 ていうか、モンスターの秘密。
「は、迫害……? 何を言ってるんですか?」
「まあ、そうね……そうなるよねー……」
ソレイユはため息を吐く。
「一つずつ説明するね……まずはダンジョンを作る理由から……」
なんか「趣味!」とか言われそうで怖い……。
「趣味!」
っ!?
「冗談よ〜……サーチは心の声が漏れすぎなのよ」
は、嵌められた……!
「ほらー駄々漏れ……面白いからいいけどね」
「面白くないっ!」
「ふふ……で、ダンジョンを作る理由だけど……カモフラージュかな」
カモフラージュ?
「そう。本物のモンスターと、偽物のモンスターをごちゃ混ぜにするため」
「それがカモフラージュ? 意味わかんないんだけど」
「だ・か・ら……一から説明するって言ってるでしょ? 最後まで聞いてから反論しなさーい」
「わかったわよ」
「よーし良い子! まず説明しなきゃいけないのは……モンスターはダンジョンから発生する……ていう常識。これ違います」
「へ……?」
「正確に言うと偽物はダンジョンから、本物は自然繁殖っていうのが正解」
はいぃっ!?
「自然繁殖するモンスター!? いるのそんなのが?」
「そうねー……わかりやすく言えば……アタシやここにいるデュラハーンみたいに、意思があるモンスターって見たことある?」
「……………………ないわね」
「でしょ? これも違いの一つ。ダンジョン産のモンスターは意思も何もない。ただ本能のために暴れるだけ。反面アタシ達みたいなモンスターは意思があるから、むやみに暴れたりしないし人を襲ったりもしない」
「ちょっと待ってよ! なら何で人を襲うような、危険なモンスターを生み出すダンジョンを増やしてるわけ!?」
「……それはね……モンスターが絶滅しかかってるからよ」
……もう……ワケわかんない……。
「元々ね……モンスターは見た目とは違って、非常におとなしい種族ばかりでね……」
おとなしい……種族ねえ……そうは見えないけど……。
「そう、そこなのよ。とても安全には見えない。むしろ危険……そう思い込んだ人間や亜人達が、モンスターを虐殺し始めた」
……そういうことか。
「アタシ達は何も傍観してたわけじゃないわ。話し合いもしたし、交流もした。サーシャ・マーシャはアタシ達に理解を示してくれた数少ない協力者だわ」
……ちょこっとマーシャンの株上がった。
「だけど数少ないの。サーシャ・マーシャのおかげで亜人は停戦を受け入れてくれたんだけど……人間が……」
「何となく想像つく。モンスターと対話するどころか……逆に攻め始めた……」
「そういう事。おとなしいモンスター達もついに抗戦を始めたけど……絶対数に勝る人間には敵うはずもなくて……」
ソレイユは黄色い水晶を取り出した。
「その頃に魔王になったアタシは……禁術を使う事を決めた」
その黄色い水晶は……ダンジョンコア?
「それがダンジョンを作る禁術≪迷宮作成≫で……サーチの想像通り、これがダンジョンコアね」
「禁術ねえ……でもダンジョンを作るだけの魔術が何で禁術なの?」
「だってダンジョンは擬似的なものとはいえ、生命を生み出すものなのよ。それこそ神の所業よ」
てことは……禁術って神様が使う魔術ってことね……。
「ぴんぽーん……ついでに言うと魔王も使えるのよ〜♪」
「で……ダンジョンから出てくる偽物モンスターが増えて……人間と勢力が拮抗して……」
「本物がカモフラージュできるようになったのよ♪」
ようやく話が繋がったわけね。
「で、今はどこにいるの? 本物のモンスターは」
ソレイユは顔を横に振った。
「言わないし言えない……それが皆との約束だから。もう人間と関わる事はあり得ないでしょうね」
そりゃそうか。
「……じゃあこの塔にいるのも……」
「アタシとデュラハーン……あとは数人が偽物モンスターの管理の為に詰めてるだけ」
「管理? じゃあ偽物モンスターは、ソレイユ達の言うことは聞くの?」
「まあね。“迷宮作成”を発動するときに調整できるから……あまりにも暴走して人間を刺激したくないし」
「……わかったけど……ソレイユが作るダンジョンによって、どれだけの被害が……」
「サーチ、そういう話はする気はないわ。アタシは人間に良い感情なんか全然抱いてない。関わりたくないし、関わってほしくない。だから人間に被害が出ようが知った事じゃない」
……そりゃそうよね。
ここで議論しても水掛け論になるだけだし……モンスターばっかりが悪いわけじゃないし。
「うん、そうね。この話はやめましょ……ソレイユとは争いたくないし」
私は人間だからソレイユは良い感情持てないだろうし……。
「なーに言ってんのよ! サーチ達は特別!」
さいですか。
「それにサーチ達は純粋な……」
……?
「……やっぱ止めた。これはアタシが言うことじゃないし」
??
「何のこと?」
「いーのいーの気にしない! それよりさ」
ソレイユは右手を差し出した。
「これからアタシとサーチは友達ね!」
私は半歩下がる。
「ちゃんと力加減するわよ……たぶん」
たぶんが怖すぎるけど……私はソレイユの手を握った。
「何かあったらいつでも頼って」
「じゃあ胸が大きくなる聖術を」
「それはムリ!」
何となく笑いだして……二人で笑う。
デュラハーンやエイミア達が不思議そうな顔をして部屋を覗きこんでくるまで笑い続けた。
いつまでもいつまでも。
「じゃねサーチ。また来てね」
「うん、ソレイユ元気でね」
魔王様だから大丈夫だろうけど。
「魔王だって風邪くらいひきますーー!」
だから心を読まないで!
ソレイユにダンジョンの外まで転移してもらい、帰途についた。
「……何かダンジョンに来たっていうより、ソレイユと女子会したような気分ですね」
「………………」
「な、何ですかサーチ? すごく恨めしそうな目をして?」
「……別に」
……私なんか戦うハメになったり、身体中の関節外されたり、徹夜で話聞いたり……散々だったんだから。
「まあ、いいじゃねえか。目的も達成したんだしよ……あ、問題あったんだ」
リルの視線の先には。
「ルーデル、背低い」
「ムカつく……! 見てやがれ、すぐに追い抜いてやる……!」
「すぐに……? どれくらい?」
「ぐ……! 二年……いや三年だ!」
「……ぷぷ……三年も?」
「うがあああ! ムカつくムカつくムカつくー!」
……問題の二人がいた。
あーあ。
ルーデルに頼まれたこと……どうしよう……。
……アタシーまでの帰り道はずっと頭痛かった。
「行かれましたね、魔王様」
「うん……久々に楽しかったよ〜」
「……そんなに気に入ったのですか、あのサーチとかいう娘……」
「うん♪ 頼まれ事は無条件で引き受けてあげるくらいに」
「……さいですか」
「あんたもよね、三冠の魔狼」
「な……!?」
『何時から気付いておった魔王』
「アタシ女なんですけど?」
『魔王には魔王で充分』
「相変わらずムカつく駄犬ねー……で用は何?」
『別に大した事でも無い。我が番に手出しせぬよう釘を刺しにな』
「あんたが勝手に番に選ぼうと知った事じゃないわ。サーチはアタシの友達よ。変な茶々入れないでよ」
『ふっふっふ……血の気が多いのも尻が青い証拠よな』
「あんですって!?」
『……チッ……糞どもがまた来おったか……魔王、邪魔が入ったので失礼するぞ……ではな』
「べー! もう来なくていいわよ!」
「……魔王様! 北から……」
「わかってるわ。雑魚どもが粋がって……『………………」……私に刃向かう愚か者が。全員処刑してやろう……行くぞ』
「はっ!」