第十ニ話 ていうか、真のラスボス登場。
バンッバンッバンッバンッ
「魔王様。こちらの書類も決済をお願いします」
バンッ…………バンッバンッ
「あの……魔王様?」
『そこの書類の束が見えるだろう。そこへ積んでおけ』
バンッバンッバンッバンッ
「しかし急ぎの書類でして」
『そちらの山も至急! というものだ。四の五の言わず置いてさっさと戻れ』
「は、はい……お願いします」
キィ……バタン
バンッバンッバンッバンッ…………ババババババババババババンン!!!
『よし、終わり……この声は喉痛めるわね……あーあー「あーあー』あーあー……ふう」
着ていらっしゃった、いかにも暑苦しそうな魔王の衣装を投げ捨てて、椅子にもたれ掛かられます。
「あーつーいー……」
胸元のボタンを幾つか外されて、バタバタされます。それでも風が足りないらしく、自分の羽根で更にバタバタされています。
「明日から久々のオフねー……温泉でも行ってまったりしたいわ……」
終いには足をテーブルの上へ投げ出す始末です。スカートがずり落ちて素足が覗いても、気にも止められません。
ガチャ! バタン!
「魔王様大変です……!」
突然開けられたドアには魔王配下のデュラハーンが……つまり私です。
「バ、バカ者! ノックをしろと何回言えば……」
「申し訳ありません! ……て魔王様! 何故その格好になっているのですか!?」
こっそり見ていたのですが、素知らぬ顔で驚いてみせます。それより魔王様は、自分がさっき衣装を脱ぎ捨てたことにやっと気づいたようです。
「あー、これは新しい幻影魔法を試していてだな……」
「声まで戻っています。もう少しまともな誤魔化し方をしてください」
魔王様は口をパクパクさせると、机へ突っ伏されました。
「だーってさー……肩凝るんだもーん」
もはや開き直った魔王様は、言葉遣いすら崩されました。足を組み直したことがきっかけで、さらにスカートがずり落ち、あまりのあられもない姿になり……私は左腕に抱えている顔を背けました。
「……はやく身繕いなさってください。お客様です」
「お客様?」
魔王様は水筒から葡萄水をらっぱ飲みされます。ああ、はしたない……。
「はい、勇者一行です」
ぶーーーっ!
魔王様は葡萄水を吹き出されました。ああ、汚い……。
「これこそダンジョンよね」
「まったくだ。私の≪マッピング≫をスキルとして使ったの初めてだぜ」
「私……ダンジョンというところを誤解してました。ずーっと落ちたり森だったり火攻め水攻めをされたりするものだと」
「……お前ら闇深き森以外でどんなダンジョン行ったんだよ……」
「堕つる滝と獄炎谷ですけど何か?」
「“八つの絶望”ばっかりじゃねえか!」
私はリディアを見てニッコリ笑う。
「これからも“八つの絶望”ばっかりよ」
「げえ……やっぱお前らといると退屈しねえよ……」
げんなりした顔で呟いた。
「……リディアは私と行きたくないの?」
ちょっとからかい半分でリディアに言ってみた。
「なっ……!」
「ボンッ」と音がしそうな勢いでリディアは真っ赤になった。
「バ、バカヤロー!」
リディアはそっぽを向いてしまった。ちょっとからかいすぎたか……。
「サーチぃ〜……」
「何よ?」
「その気がないのなら、ハッキリしたほうがいいんじゃないですか?」
「……妬いてるのぉ?」
ばしんっ
エイミアも顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。私の背中に紅葉を残して。
「さ、三角関係!? うふ、うふふ……」
……最近壊れているリルの背中を押しながら、最上階の扉を開いた。
扉を開けてすぐ。
「お待ちしておりました」
大剣を携えた首無し人間が立っていた。
「!? ぎゃああああ! オバケオバケオバケあっちいけええええええ!!」
どっかんどっかんどっかんどっかんどっかんっ!!
首無し人間を見たショックで、エイミアが≪滅殺≫を発動させて暴れだした。しっかりとばっちりを受けた首無し人間は、ズタボロになって転がってた。
「む、無念……」
「ちょっとエイミア! この……びっくり人間さん、何か言いたかったみたいだから止め刺しちゃダメよ!」
「は、はあい」
あのまんまだと塔も崩しちゃいそうな勢いだったしね……≪滅殺≫怖いわ。
「大丈夫ですか、びっくり人間さん?」
「……私はデュラハーンなんですが……」
へ!?
「モ、モンスター!?」
「はあ……デュラハーンで人間はいないかと」
「何よこのびっくりモンスター!?」
「あの……いい加減『びっくり』の冠詞を外していただけませんか?」
「十分びっくりモンスターよ! 自分の意思があるのよね?」
びっくり……じゃなくデュラハーンは少し考えこんだ後。
「あなた達勇者うごっ」
勇者という言葉を聞くと同時に、デュラハーンの頭を蹴っ飛ばした。
「ききき貴様! 何をする!」
「エイミアはまだ自分が勇者だって知らないのよ! お願いだから黙ってて!」
デュラハーンは訝しげな表情をした。
「貴様ら……魔王様と対決するために来たのでは無いのか?」
「……………………はい……………………?」
「違うのか!?」
「何で暴風回廊に魔王がいるのよ!?」
「何でって、ここは魔王様の別荘的な……そ、それよりも! じゃあ貴様らはなぜここに来たのだ!!」
……えーっと……何だっけ…………あ。
「つ、杖よ! “賢者の杖”が欲しかったのよ!」
「マスターロッド? ああ、長老樹から作る杖のことか?」
「そうよ」
「ならば魔王様に頼むがよい。長老樹の杖は魔王様が管理しておられる」
管理……?
あ、それと。
「あともう一つ。身代わりの像はあるかしら?」
「身代わりの像だと? あんな物に使い道があるのか?」
まあ……実際には役立たずなんだけど……今回は例外なのだ。
「欲しい」
「……それも魔王様がお持ちだったはずだ。聞いてみるがよい」
……まあどちらに転んでも魔王に会うしかないのね。
「すまぬが……そろそろ私を身体に戻してもらえぬか?」
言われて振り返ると、頭を探してウロウロしてるデュラハーンただし身体のみと……キャアキャア言いながら逃げ回るエイミア達がいた。
「メ、メチャクチャ怖かったです」
「あ、あんなのに迫られたら、だ、誰だって逃げるさ!」
「…………男の俺が悲鳴をあげるなんて…………」
……なかなかに怖かったらしい。
それよりも。
「私達の目的のために会わなければならない人がいるの。ついてきて」
「「「え……?」」」
「ま、魔王!?」
「ここが魔王の別荘……?」
「……いきなりな展開過ぎるだろ……」
うん、みんな思ってる。
「ま、ままま魔王とはたたた戦うんですか!?」
……普通なら勇者のライバルだしね。
「まあ……いきなりそれはないでしょう……けど」
「魔王様! なぜその格好になっているのですか!」
「だーってさー……肩凝るんだもーん」
「? ……魔王の声なんか可愛いですね……」
……確かに……。
「……覗いてみようぜ」
賛成。
(こっそりよ、こっそり)
(大丈夫だ、≪猫足≫使ってる)
スキルのムダ遣いだ。
(なんで俺まで……)
あんたもブーブー言う割についてくるわね。
「ぶーーーっ!」
(?……何か吹き出したみたいね)
さて……どんな顔してるやら……って、ええっ!?
「て、天使!?」
そう、魔王様は。
天使でした。
なんで天使が魔王?