第十話 ていうか、ダンジョンの入口にラスボスが!?
「「「「たっかいな〜」」」」
暴風回廊に近づけば近づくほど、塔の高さが際立つ。
バベルの塔じゃないんだから……いや、どっちかと言うと、昇りきれれば修行してくれたり豆や水をくれる仙人がいる塔かな……。
「……まずは第一関門……『狂獣』だな……」
いきなり入口に出現する暴風回廊の守護神。
何が厄介かと言うと……何が出てくるか不明だという点。なので『狂獣』なんて仮の名前がつけられてるわけなんだけど……。
「Sクラスは来ないで。でるならゴブリンかスライムで」
「アホか! 最低でもBクラスは出るんだ……ゴブリンとかが出るんならどれだけ楽なことか……」
……なんだ、B以上で固定されてるのね……。
「けど安心しな。さすがにSクラスはないから……たぶん」
「な、何よ最後の不安な一言は!?」
「ウダウダ痴話喧嘩してても仕方ないだろ……私は先に行くぞ」
「ななななにがちち痴話喧嘩だ!」
だから動揺しすぎだっつーの!
「私も行くわ……エイミア行きましょ」
「はい」
……勘弁してよ……。
「ま、待て! 置いていくなー!」
「……何もいないじゃない」
「ある程度近づかないと出現しないよ……」
さてどうする。
全員で行っていきなり不意討ちでもされれば堪ったもんじゃない。ここは……私が先行しますか。
「私が近づいてみる。リル援護して。リディアとエイミアはすぐに攻撃できるように準備を」
「わかった。無理するなよ」
「サーチに何かしようとしたら私がぶっ飛ばします!」
「お、おい! ちょっと待てよ! サーチが囮になるってことだろ!? 止めねえのかよ?」
リルとエイミアはキッパリと答えた。
「「止められるような人なら苦労はない!」です!」
……どんだけ人の事を猪突猛進だと思ってんのよ……!
「それにサーチが一番戦い慣れている。咄嗟の判断で相手を煙に巻くくらいの芸当はできるさ」
「何だかんだいって、サーチが間違った事はありませんから」
「……信用してるんだな」
「……信用できないのなら一緒に旅なんてできませんよ」
「確かに……その通りだ」
「好きな女を信用できないようじゃ男が廃るぜ」
まーたリルはリディアをからかってるな……私をネタにしないでほしいんだけど。
「そうだな……お互いに信用できないのなら伴侶にはなれないしな……」
「へ?」
「は?」
「……きゃっ♪」
リディアは真面目くさった顔をして歩いていった。
「……サーチ……良かったな」
「リディアって結構押しが強いタイプなんですね……」
いや、たぶん本人は何を言ったか自覚してないと思われ……。
「式には呼んでくださいね!」
「……それ以前に女同士なんだけど……」
「「あ……」」
肝心なこと忘れてるな。
「じゃあ私行くから、リル援護よろしく」
「あ、ああ……」
リルは矢を放ちやすい高台へ移動する。
「女同士のカップル……」とか呟いてたけど……私にはそういう趣味はないからね。
「ねえエイミア」
「なんですか?」
「さっきの『きゃっ♪』て……リルだったわよね……?」
「……声はリルだったと……思います」
………………。
リルって恋バナ好きなのね……。
……入口まであと10m。何も変化はない。
「大丈夫かサーチ!」
……リディアの声に親指を立てて答える。すぐに対応できるように≪偽物≫でリングブレードを作って握る。
ざっ……ざっ……
1m進む。変化なし。
「サーチ! 大丈夫かー?」
……大丈夫よ。
さらに。
「気をつけろよー! サーチ!」
…………。
さらに……。
「油断するなー!」
………………。
……く……。
「サーチ!」
「うっっるさあい! 気が散るわあああっ!」
ぶんっ
ざく!
「ぅわ! あぶね!」
ちぃ!
“逆撃の刃”を紙一重で避けるとは!
「こ、殺す気か!」
「エイミア! 黙らせて!」
「え!? は、はい!」
ごっっすぅぅんっ!
「…………ありがと。リディア生きてる?」
「はい、たぶん……」
ならよし!
ズズズ……
「……きたわね……」
地面……というより空気が振動してる。イヤな予感しかしないわね……!
ズズズ……
「っ!? ……サーチ! 離れてください!」
「え……わ、わかった!」
私は≪早足≫を使って即座に離脱する。
ズズズズズズ……ドズゥン!
来た!
私がいた場所に何かが降り立った!
ゾクッ
……逃げないと……殺される!
「エイミア! リディア! 下がって!」
「はい!」
「わ、わかった!」
私はエイミア達と合流してさらに離れる。そんな私達の様子で察したらしく、リルも戻ってきた。
「どうしたんだよサーチ!」
「わかんない! でもこういうイヤな感じがしたときは毎回ろくなことがないのよ!」
そう言ったとき。
キシュアアアアアアア!
空間を斬り裂くような叫びとともに得体の知れないプレッシャーが私達を吹き飛ばした。
「きゃあああ……!」
まるで……竜巻が突然現れたような……!
『我には名は無い』
あ、頭に……! 直接、ひ、響いてくる……!
『我の初めの頭は物事を考え言葉を紡ぐ』
『我の中の頭は欲望に支配され牙を磨ぐ』
『我の終の頭は何も無くただ世界を飽く』
『我等……三つの頭が集いて我を為す』
「三つの頭って……まさか」
「く……Aクラスのケルベロスか!」
違う! そんなレベルじゃ……!
「バカ! 控えなさい!」
「ぐはっ!」
私はリディアの頭を抑えつける。
「エイミア、このバカをお願い」
そう言ってエイミアにリディアを託すと……私は前に進み出て跪いた。
「我が友のご無礼、平に御容赦を」
『ほう……なかなか道理を理解した娘よな』
「我ら、御身に向ける愚かな剣は持ちませぬ。御身の寛大なる心を以てこの場をお通し下さい」
『我はただ喚び出されただけ。このような場に執着する理由は無い』
「では……」
『我が問いに答えよ、娘』
「御意」
『なぜ暴風回廊を通る? 魔王に楯突く為か?』
「……私は魔王がどうなろうと……関係ありません」
『ふむ』
「私は……私の欲望のために暴風回廊に来ました」
『…………』
「私は……私のためにここにあります」
『……ふふふ……ははははは! 己の欲の為に我が前に立ったと言うか!』
「はい」
『ふふふ……左腕を前に』
何故か身体が勝手に動く。私は左腕を差し出した。
『逆らわぬか……気に入った』
ガブッ
っーー!!!
腕を……食い千切り……!
「くっ……ぐっ!」
『ふふふ……叫ばぬか……良かろう』
い、意識が飛びそう……!
『娘、名は』
「サ、サーチ」
『サーチか……ふふふ……我に相応しい番よ』
つ、番って……。
『サーチの願い、聞き届けよう』
……フッ……
「……はあ! はあ、はあ……」
私……生きてる……。
「サーチィィィ!!!」
え、エイミア?
「大丈夫!? 左腕が……左腕が……」
……やっぱり……無いか。はは……これからどうしよう……。
「っ!?」
ゾゾッ
な、何?
痛みが……消えて……。
「う、嘘……」
「サーチ、ひ、左腕が……戻った」
は?
……げえっ!!
「な、なんで! さっき確かに」
食い千切られたのに……?
『食い契った』
「え!?」
私は周りをキョロキョロするが……いない。
今のは……?
「おい。何でケルベロス程度に腕をひゃぐっ!」
私は生えた左腕で拳骨を落とした。
「あんたバカじゃないの!? Aクラスのケルベロスがあれだけのプレッシャーを漂わせるわけないじゃない!」
「いって〜……じゃ、じゃあ何だったんだよ!」
答えようとしたとき、リルが踞った。カタカタ……と全身に冷や汗を垂らしながら震えている。
「あ……ああ……あれは……」
「リル大丈夫ですか? リル?」
「三つ首の……狼……」
やっぱり……。
「三つ首の狼って……えぇ!?」
あれは……ケルベロス。
世界と冥界とを結ぶ地獄門に居座る狼の王。
Sクラスモンスター。
地獄門の三冠の魔狼。
そして、私の左腕には……三つ首の狼をあしらった刺青が刻まれていた……。
地獄門のケルベロス登場。
サーチが気に入られたか…?