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第九話 ていうか、ダンジョンも楽勝?

 暴風回廊(ゲイルストーム)

 “八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトの一つに数えられる、空への道。

 このダンジョンは“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトの中で、唯一人間の建造物がダンジョン化したものである。

 いつの時代に建てられたかもわからない朽ち果てた塔が、魔王によって占拠されてから数百年。塔の周囲は凶悪な空のモンスターが飛び交い、入り口付近は獰猛な〝狂獣〟が唸りをあげている。

 また暴風回廊(ゲイルストーム)の名前の由来となっている、塔を中心に渦巻く旋風は、近づく冒険者を容赦なく吹き飛ばす。

 あまりの凶悪な難易度から“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトでも特に難攻不落なダンジョンとして知られている……。



「……だったと思う」


「相変わらず、くだらねえこと知ってるな……」


 知らないよりはマシだよ!


「でも高い塔ですねー……てっぺん見えませんよ」


 ……何、あの意味ありげに頂上付近に固まってる雲は?

 ……なるほど……暴風回廊(ゲイルストーム)の別名が巨大榎茸(キングマッシュルーム)なのがよくわかるわ……確かに榎茸だ。


「でも今回のダンジョンは、エイミアには難しいわね……」


「え? 何でですか?」


 だってさ……。


 ぴらっ


「きゃあ!」


「あんただけよ、スカートは……」


 暴風でどれだけめくり上がるやら……今日は黒。なかなか大人ね。


「く、黒かよ……」


 あ、後ろにいた真リディアに見られたみたいね。


「ぎゃあああ! チカン!」

 どかんっ!

「ヘンタイ!」

 ズギャン!

「ゴーカンマァァァ!」

 どっかんっっ!!


「待って待ってエイミア!」


「はー……はー……」


「おーしおし。ちょっと落ち着こうなー」


 ……興奮してるエイミアはリルが宥めてくれてる。

 私は……。


「ちょっと……生きてる……?」


 せっかくの美人さんが白目になって気絶してる……完全なとばっちりだけどね。


「仕方ない……」


 私はナイフを作り出して、妙に赤い革の鎧をつつき始めた。


「おーい、革の鎧のダメダメ怨霊。せっかく死にかかってる装着者(リディア)に止めも刺せないのー?」


 ちょっと小馬鹿にした感じで言う。すると。


『……ぬああああああああっ!!』


 お、めっちゃ怒った。リディアを蒼い呪いの炎が包む。

 だけどリディアの職業・呪剣士は呪いを無効、あるいは反転(・・)させる特性がある。

 つまり。


「…………うーん……はっ! オレは何をしてたんだ!?」


 ……止めを刺そうとして放たれた怨霊の呪いは……逆に装着者(リディア)を回復させてしまうのだ。


『お、おのれええええ!』


 革の鎧の怨霊が悔しげに叫ぶ。


「うるせえ! 静かにしてろ!」


 真リディアが叫ぶと、怨霊はピタリと静かになった。呪剣士の命令は怨霊にとっては絶対だ。


「しかし便利な革の鎧があったわね……」


「前の所有者の血が染み込んで赤くなった“血染めの革鎧”(ブラッディレザー)。重傷を負った装着者を死の世界へ引きずり込む、という呪われた鎧なんだが……オレには最高の鎧だな」


 そりゃそうよね……重傷を負うたびにわざわざ回復してくれる鎧なんて、伝説級の鎧でもないわよ。


「それじゃ進みましょうか……エイミアどうしたの?」


 落ち着いたらしいエイミアは、新調した釘こん棒を振って不思議そうな顔をしていた。


「ん〜……おかしいです。何故か軽く感じるようになっちゃって……」


 あ……そう言えばエイミアの『力』を聞いてみようとしてたんだっけ。


「ちょうどいいわ。エイミア、あんた最近ステータス確認してる?」


 …………エイミアがコテンと首を傾ける。ちょっと……! まさかステータス知らないとか言わないわよね……?


「……養成学校から今まで見た記憶が無いです……」


 ………………もっとびっくりだったわ。


「……マジかよ……」


 リルもびっくりしてる。


「私なんか場合によっては毎晩確認してたぜ……」


 場合によって? も、もしかして……?


(リル。ステータスでバストサイズ(・・・・・・)なんて見れたっけ?)


 リルにコソッと聞いたら。


 ごっっ!

「うきゃああああ!」

 め、めちゃくちゃ痛い! 頭めり込んでないよね!?


「サーチ、てめえ……」


「ご、ごめんなさい!」


 リルが殺気を纏って震脚してくるので全力で謝った。


「…………今度言ったら全部髪の毛をぶつ切りにして、スープに混ぜて食わせるからな」


 止めてください! せっかく背中まで伸びたのに!


「まあ、これで手打ちだ」


 リルが手を出してくる。


「……ごめんね」


 私が握り返す。

 ……リルってこういうところがサッパリしてるのよね。男っぽいのよね……胸みたいに。


 ばきょ! めきめきめき!


「んきゃあああ! リル痛い痛い痛い!」


「お、すまねえ……なぜか急にお前の手を握り潰したくなって……何でだろ?」


 ……読心術でもできるの? いてて……。


「あのー……いいですか?」


 あ、ごめん。エイミア忘れてた。


「何?」


「あ、はい……『力』は上がってはいますけど……そんなに目立って上がってる感じはないですよ?」


 数値を聞いてみたら、私よりは上だけどリルほどではないって感じだった。


「おかしいわね……確か前に腕相撲したときは……」


 ……女の子が何やってんだってつっこみは無しね。


「ああ、私は負けたぜ」


 エイミアが全勝(しかも圧倒的)、リルが二勝一敗、リディアが一勝二敗だ。

 え、私? アサシンに『力』は必要ないのよ!


「その代わりによくわからないスキルが増えてたんです」


「何てスキル?」


「一つは≪滅殺≫です」


 間違いなく≪撲殺≫の上位スキルね! なんで≪こん棒≫スキルが伸びるかな!?


「あと≪充力≫(パワーチャージ)ていうのが」


 パワーチャージって……?


「ステータス画面の文字上を叩いてみて」


 エイミアが言われた通りにする。そうすれば説明文が出るはず。


「えっ……と。電気を身体に溜め込むことができる。それを日常や戦闘で『力』に変換できる……だそうです」


「何よそのチートスキル!?」


 じゃあ何? 雷系の魔法とか全部吸収できて? しかも『力』はアップ!?


「……マーシャンがいたらエイミアに≪雷光弾≫(エレキバレット)してもらえば……」


「……すごい戦力だな……」


「や、止めてください! これの反動が怖いです」


 げっ! 反動があるタイプのスキルか!


「どういう反動?」


「は、はい……体内のエネルギーを異常に消費する……と…………欲が……大きく……」


 エイミアが顔を真っ赤にする。ああ……欲は欲でもラスト的な方ね……それで最近ソワソワしてたんだ……。


「……まあ……欲は何とかコントロールしなさい……適度に(・・・)


 ……さらに顔を赤くして岩影に引っ込んでしまった。


「そのスキルがあれば暴風回廊(ゲイルストーム)は楽勝だな」


 ……はい?


「リディア……何言ってんだよ……風属性のダンジョンだろ?」


 リルが言ったとおり……よね?


「あ? お前ら行ったことないのか?」


 私とリルは同時に頷く。


「なるほどな……説明してやるよ」


 そう言って真リディアは暴風回廊(ゲイルストーム)の頂上を指差した。


「頂上にはいつも雲がかかってる。あれが暴風を巻き起こしてる」


 ああ、巨大榎茸(キングマッシュルーム)かさ(・・)ね。


「ただこの暴風はただの風。魔法の要素は一切無いのさ……本当に恐ろしいのは……」


 私の顔を見る。見つめるな。


「雷だよ」


 か、雷?


「じゃあ暴風回廊(ゲイルストーム)は……雷系のダンジョン!?」


「ああ……登ってくるヤツには容赦無く雷がくる。しかも意思があるみたいでな。追尾してくる(・・・・・・)


 何? つまりは暴風に煽られつつ雷撃を避けろって?

 ……無茶言うな。


「だからエイミアのスキルが役立つ。雷は全部エイミアに吸収してもらえば……」


 ……あ!


「なるほど! 雷の心配がないならかなり楽だな」


 確かに。

 モンスターと暴風の対策をしていけば……!


「いままでで一番楽な“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトかもしれない……」



 当然、そんなわけないんだけどね。

アルファに投稿した短編がなぜかトップ10に?

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