第六話 ていうか、今度のギルドマスターは?
リディアが「防具はあてがあるから自分で探す」と言って出掛けたあと、ふと大切なことを思い出した。ギルドに行かなきゃならないのをすっかり忘れていた。
「ギルドに顔を出すんですか……?」
エイミアが心っ底嫌そうな顔をしてる。たぶん私も同じ顔をしてるだろうな。
「……また一族なんでしょうかね……」
ただ救いなのは、変態ギルマス以外は割とまともな人が多かったことか。
あ……直接繋がってなくても、腹黒ギルマスみたいなのもいるか。
「今度こそ……血縁関係がなくてまともなギルマス……できればイケメンでお願いいたします……」
「……別にイケメンじゃなくても……」
「でもでも! どうせならイケメンのほうがいいじゃない!」
目の保養的に。
「まあ……そりゃあ……」
「どうせなら……ですね……」
「はい、祈りましょう!」
ぱんぱん! (柏手)
「「「どうかイケメンでありますように!」」」
……通行人が私達を避けて歩いてることに気がついたのは、しばらくしてからだった。完全に怪しい宗教団体よね……。
「ここが……ギルド?」
ハクボーンのときの地下大空間ギルドにも驚かされたけど……これはまた……。
「……船……だよね……」
「……誰がどう見ても船だ」
「……これが船じゃなければ私の目はおかしいですね」
……なぜ船?
港に住所がある時点でおかしいとは思ってたけど……。
「これ……岸壁に固定してあるぜ」
まあ……前世でもボートハウスなんてものもあったくらいだから……。
「でも……素敵ですよね……水の上で生活するなんてロマンチックじゃないですか……」
うん、わかる。
だけどギルドだから。
「まあな……これで夜中に花火が上がって……甲板で酒でも飲みながら……なんていいよなぁ」
うん、わかる。
だけどギルドだから。
「ですよね! これでギルドマスターがイケメンだったら最高じゃないですか!」
「おお! めっちゃ絵になるな!」
「うん、わかる。わかるけどね……ギルドだから。荒くれ者がわんさと集まってガヤガヤと酒を煽るギルドだから」
……リルとエイミアが私をジト目で睨んできた。
「サーチは夢がねえな……」
「サーチはイケメンよりもビキニアーマーですもんね……」
悪かったわね。
「サーチも少しは男の子を意識して行動しひゃ……ひゃーひぃ?」
「……あんたにだけは……言われたくないわよ!」
縦! 縦! 横! 横! 丸書いてちょん!
「いっひゃーーい!」
ふんっ!
「サーチ……今のは痛いぞ……」
「びえ〜……」
余計なこと言うからよ! 言っとくけど男の子との経験なら、私の方が断然上だからね!
……前世での話だけど。
「まあいいや……ここで駄弁ってたってしゃあねえから入ろうぜ」
「そうね……行くわよエイミア!」
「いひゃい! いひゃい! びえ〜……」
「……やめてやれよ……」
「しっかしこんな小さい船にギルドなんて……」
でもドアを開けたらびっくりだった。
「な、何これ!?」
船の大きさからは想像もできないようなフローリングが広がっていた。全体的に木調で統一されたギルド内は、海辺の洒落たバーみたいに雰囲気が良かった。むさ苦しい冒険者のおっさん達がジョッキ片手にガハハ……ていうギルドのイメージは全くない。
「ホントにギルドなの……?」
「す、素敵です! 住んでみたいくらいです」
「つーか船の大きさ的に無理ありすぎだろ!」
……これは……。
「空間魔法……?」
『よくおわかりになられましたね』
うわびっくりした!
「どこに……いる……あれ?」
誰も……いない? 気配も……ない。
「リル、何か匂いは感じない?」
リルは鼻をヒクヒクするが。
「……いや、何も感じねえな」
「サーチ! ここは何か強力な結界に包まれています!」
エイミアが叫んだ。
「な、何ですかこれ……まるで……」
……声を震わせながら。
「≪神々の盾≫に匹敵する……」
≪神々の盾≫!? 最強の防御魔術と同じ力の結界ってこと!?
『匹敵はしていませんよ』
……!
またあの声!
『これは≪神々の盾≫そのものです。少しだけ改良しただけです』
少しだけって……≪神々の盾≫を全面に張るって、どんだけMP使えばできるのよ……!
『それよりも……ギルドにご用事なのですね?』
あ、忘れてた。
「はい。ギルドマスターに用事が……」
『わかりました。承りましょう』
………………。
『どうぞ』
「あ、あの……ギルドマスターを……」
『ですからどうぞ』
「だから……」
ていうか、もしかして……?
「あなたが……?」
『はい。私がアタシー支部のギルドマスター。名をロシナンテと申します』
ロシナンテに促されて椅子に座る。
『何か飲まれますか?』
「え? ……あー……ココアを」
『はいどうぞ』
にょきっ
わっ! テーブルから這えてきた!?
『他の皆様は?』
「私はミルク。ホットでお願いします」
「私は緑茶でいい」
『はいどうぞ』
にょきっにょきっ
「ふふ。面白いです」
「……順応するのはええな、エイミア」
『ではご用件をどうぞ』
姿は見せない気ね……でも確認はしてみよう。
「ごめん、その前に確認させてほしいんだけど」
『はい』
「スーモサカの変態ギルマスは知ってる?」
『…………はい。知識としては不本意ながらあります』
……嫌われてるわね。
「あなた……まさか血縁者や義理の親戚だったり……」
『有り得ません』
…………。
「……ホントに?」
『はい』
「金貨一万枚賭けても?」
『もう一桁増やして賭けても大丈夫です』
「「「やったーーーー!!!」」」
ついに変態ギルマスの呪縛から解放された……!
『心中お察しします』
ありがとう! ありがとう!
『あの。そろそろ本題に』
あ、そうだった。あまりの感動で忘れてたわ。
「ごめんなさい……実は新しいパーティメンバーの登録と暴風回廊へ行きたいので許可を……」
『わかりました。まずはパーティ名と現在のパーティクラスをお願いします』
「はい。パーティ名は竜の牙折り。クラスはCです」
『……先月に獄炎谷を陥落させた方々ですね?』
「は、はい……」
ホントは私達じゃないんだけどね……。
『でしたら問題ありません。本来ですとBクラス以上じゃないと許可は出せないのですが、あなた方なら大丈夫ですね』
「…………そうですか」
……どうせなら「許可できない」て言ってほしかった……そしたら温泉満喫しまくるのに……。
『……何か不満でも?』
三人揃って頭を横に振る。
『わかりました……後はパーティの新規加入ですね? その新メンバーはどなたですか?』
「え〜と……もうすぐ来ると思います」
『でしたら先に登録だけ済ませましょう。顔の確認は後からでもできますから』
おー、手際が良い。
ていうか、そういえば……。
「すいません、ロシナンテさん以外のギルド職員はいないんですか……?」
『いません。私だけで事足りますので』
「そ、そうなんだ……他の冒険者がいないから、別の職員が対応してるのかと」
『いえ。全て私が処理してます』
……へ?
「あの……受付は?」
『私です』
「……事務とか……」
『私です』
「もしかしてココアとか準備してくれたのも?」
『私です』
「まさか≪神々の盾≫の維持管理は……」
『私です』
はいーーーっっっ!?
「あの……トイレ掃除は」
『私です。このギルドの運営は全て私だけで対応しています』
…………スーパーマン越えてるわ。
『質問は終わりですか? 私も同じ回答を延々と続けるのは苦痛なのですが』
……ごめんなさい。ホントごめんなさい……。
「新しく入るのは……リディアっていう狐獣人だ。少し前に≪識別≫を施されたばっかだ」
『リディア……リディア……はい、確認できました。彼女はアタシーでの奉仕活動中ですが……あなた方への奉仕活動に切り替える形にしますがよろしいですか?』
「おーけ……大丈夫だ」
『OKですね。私も理解できますのでご心配なく』
嘘!? OKがわかるの!?
『パンドラーネには私から連絡をしておきます』
何から何までありがとうございます。
ホント、いい人だ……!
『それと……サーチさん』
「え? は、はい!」
『“飛剣”はお元気ですか?』
「え? 院長先生を知ってるんですか?」
『はい。私も一緒に旅をしていましたので』
え? え? 確か……院長先生が一緒に旅してたのは……先代勇者と……エルフの女王……これはマーシャンね……あとは……結界術の達人の……あ!
「あなた……世界でただ一人の“結界術士”のニーナさん?」
『そうです。私は元A級冒険者の“結界術士”ニーナ・ロシナンテです』
うーん……。
イケメンかどうかは確認できないわね。
だって、マーシャンはおろか、先代勇者ですら顔を見た事が無いのだから。