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閑話 避難訓練、再び。

「はい、これで避難訓練を終了しまーす。お疲れ様でしたー」

「「「お疲れ様でしたー」」」


 二時間ほどかけて行った避難訓練も終わり、いよいよ火星から出発……と思っていたら。


 ウウウウウウウウウウウウウウウッ!!


「!? な、何!?」


『……このサイレン、どうやら火星から発せられているようです』


「火星からって……いったい何の目的で?」


 長い長いサイレンが終わったあと、抑揚のない男性の声が、信じられない言葉を告げた。


『…………訓練、訓練。この放送は訓練です』


 な、何よ! 宇宙に出てまで防災の日なの!?


『時空震発生、時空震発生』


 なんじゃそりゃ!


『大型戦艦のワープ失敗により、火星付近にてM9.2の時空震が発生しました』


 時空震でもマグニチュードなんだ!?


『近くを航行中の船舶は至急揺れに備えて下さい。繰り返します、繰り返します……』


 時空震って……。


「ニーナさん、実際にあり得るの?」


『理論上はあり得ます。ですが放送でも言っていた通り、巨大な船舶のワープ失敗といったような要因でもない限り、そのような事はあり得ません』


「……つまり、ワープ航法が普及してない今は、心配する必要もない?」


『はい』


 何だ。なら気にしなくていいか。


「この放送は無視してさっさと行きましょ。火星から離れちゃえば、避難訓練もクソもないでしょ」


「そうですね」

「起こりえないこと心配してたら、何もできなくなるぜ」


 エイミアとリルも同意してくれた。よし、なら出発を……。


「ちょい待ちいや」


「ん? どうしたのよ、エリザ?」


「たぶん乗組員の点呼を求められるんやないかな」


「……で?」


「何人乗ってて怪我人が何人か、ちゃんと報告せんと火星の宙域から出れへんはずや。警備隊が非協力船舶の取り締まりするはずやで」


 はああっ!?


「そんなムダなことに税金使うんなら、もっと他のことに使いなさいよ!」


「その点にはウチも大いに同意するけど、今は従わんと面倒やで。何てったって今は逃亡中の身の上やしな」


 …………仕方ない。


「ニーナさん、適当に答えといてもらえる?」


『わかりました。ではお任せください』


 ふー、やれやれ。お役所仕事ってのも何かとめんどくさいわね。


「……あれ? 確か……」


「ん?」


「ん、確かなんやけど……船長クラスの人が出向いて、直接報告する事になってたような……」


『……その通りでした。通信ではなく口頭で報告するように、との返事です』


 全く! これだからお役所仕事は!



 シャトルを操作して指定された衛星基地へ。要は火星の防衛を担う軍事衛星だ。


『シャトルを停める際は係員の案内に従ってください』

「はーい」


 受付でドッグの番号を教えてもらい、シャトルの列に並ぶ。ていうか番号札渡す人がいるんなら、その人に報告すりゃ早くない?


「……ホントにお役所仕事よね……」


 たぶんここに並んでるみなさんも思いは同じだろう。十分ほど待たされてから、私の番号が呼ばれる。


『第二十六ドッグの方〜』


「はいはーい」


『追尾レーザーを出します。自動に切り替えてください』


 追尾レーザーってのは……要は船とリンクしてドッグへの接続を自動でやってくれる優れモノ。アクセルとブレーキの踏み間違えで店舗に突っ込んで車が壊れるのとは違い、宇宙で外壁に穴が空けばシャトルクラスは一発アウト。それを防止するための装置だ。


 ……ガチャン


 シャトルが衛星基地に接続完了。搭乗口から基地内に……。


「ワタクシ、軍事衛星の中は初めてですわ」

「ボクもだよ」

 ササッ


 な、何でナイアとナタが!?


「ヴィーさんが手続きしている間に衛星内を見てみようと言ったのはナタですが……何もありませんわね」

「……何にもないねえ……」

「ナタ、貴女は軍の兵器が見たかっただけではありませんの?」

「え、えー。何のことかなー」

「棒読みですわよ。わかりやすいですわね」


 妙な好奇心出してんじゃねえよ! おかげで私が入りにくいじゃないのよ!


「えー、次は竜の牙折り(ドラゴンブレイカー)のサーチさーん」

「「なっ!?」」


 ニーナさあああああああああん! 本名で申し込まないでよおおおおおおおおっ!!


「サーチは何処ですか!?」

「ナイアはここで見張ってて! ボクは周りを探してくる!」


 ああああああ! どうすれば! 変装しようにもあいつらにはバレる可能性が高いし!


「サーチの事ですから、露出度が高いに決まってますわ!」

「あとは黒髪で判別すればいいね!」


 やっぱり読まれてるぅぅぅ!

 ……ていうか、露出度が高くて、黒髪……?



「サーチさーん! サーチさあん!?」


「はいはい、申し訳ありませんでした」


「来ましたわ! サー…………チ?」

「サーチ…………かな?」


 私の姿を見てあ然とする二人。そりゃそうだろう、今の私は金髪でビシッとパンツスーツを着込んだキャリアウーマン風なのだから。


「……顔は似ていますが……露出していませんわね」

「……髪も黒くないし……」


 必死で染めたわよ。最新の毛染めいいねっ!


「それに……」

「サーチは……」

「「あそこまで胸は大きくないし」」


 かなり詰めモノしたけど……ムカつく。


「ちょっと、そこのお二人。私に何か御用ですか?」


「へ!? い、いえ、何でもありませんわ!」


「そうですか……あまり他人をジロジロ見たりするのは、マナー上いかがなモノかと思いますよ」


「も、申し訳ありませんでした。どうかお許しを」


「……いえ。わかっていただければ結構です」


 シュンとした二人を置いて、私はカウンターへ颯爽と向かう。ざまあみろ。


「ええっと、サーチさんですね?」


「はい」


「写真と違うので確認しますが、髪を染めまもがががっ」


 黙れ。



 手続きを終えて船に戻ろうとすると。


「あ、あの!」


 ん? ……げ、ナイアじゃん。


「ああ、先程の……何か御用ですか?」


「は、はい。先程は無礼な真似を働き、大変申し訳ありませんでした」


 律儀だねぇ。


「いえ、先程謝罪を受けましたので、これ以上は不要ですよ」


「そう言って頂ければ……」


 まだ落ち込み気味のナイアを見て、少しイタズラ心が疼いた。ポケットから折り畳んだ広告を取りだし、手渡す。


「まだ申し訳ないという思いがございましたら、機会があれば我が社の製品をお買い求め下さい」


「あ、はい」


「これは我が社の商品のパンフレットになります。船に戻られた際に、皆様とご検討下さい」


「わかりましたわ」


「では失礼致します」


 そう言って一礼し、船に乗り込む。ああ、笑いを堪えるので精一杯だったわ。



「……ただいま戻りましたわ」


「お帰りなさい、ナイア。どうでしたか?」


「自分達の商品を買ってください、と笑顔で返されましたわ」


「あはは、完全に社交辞令ですね。相手の方はあまり気にしてないんですよ」


「……ああ、そういえばパンフレットを渡されたのですわ……」


 ガサガサ


「えっと………………!!? あ、あの女性はやっぱりサーチだったのですわねーーーっ!!」


「何が書いてあったのですか…………ふふふ、サーチらしいですね」



 念のために適当な広告を準備していた私は、裏面にこう書いておいたのだ。


『ケガはもう治ったのかしら? サーチ』

露出のないサーチは稀少です。

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