エルセラスの朝
11月20日に内容をちょっと変えたり、追加したりしました。
翌日、学園都市エルセラスにあるホテルの一室でユキトは目を覚ました。
体を起こして部屋に設けられていた電子時計に目を向けると、画面には【5/04・AM・4:27】と表示されていた。
「あー、やっぱりベットは疲れが取れる」
ベットから出て伸びをすると、久し振りにベットで眠ったからかスッカリ疲れが抜けていた。
次にカーテンを開けて外を見てみるが、いくら5月といっても外はまだ暗い。
そんな街並みを眺めてからユキトは身を翻し、ショルダーバッグから動きやすい服を取り出して着替えると、冷蔵庫に入れておいた水筒とタオルとカードキーを手に取って部屋を後にする。
部屋を出て扉が自動ロックしたのを確認してから廊下を進み、エレベーターに乗って一階のフロントにある受付に向かう。
「おや、お客様、お早いですね?何か御座いましたでしょうか?」
「えぇ、ちょっとこれから走ってこようと思いまして、鍵をお願いします」
受付にいた男性のスタッフがユキトに気付いて声を掛けてきたので、ユキトは用件を伝えてカードキーを渡す。
カードキーを渡されたスタッフは「わかりました、少々お待ち下さい」と告げるとカードキーの番号を見てから名簿を取り出してユキトの名が乗ってある欄に外出の時刻を記載する。
「お待たせしました。外はまだ暗いのでお気をつけ下さい」
「ありがとうございます」
ユキトは御礼を言ってから受付から離れて自動ドアを通り抜ける。
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(さて……、行きますか)
ホテルを出てからユキトは軽く準備体操をして体をほぐし、昨夜の内に決めておいたコースを走り始める。
先程のスタッフが言った通り外はまだ暗く、僅かに街灯の光が赤レンガの道を照らしているだけで走るには少々危険なのだが、ユキトにとっては問題は無い。
そんな暗い赤レンガの道を駆けてホテルが建ち並ぶ宿泊街を抜け、学園都市全域を流れる川の一つに掛けられた橋を渡り、朝早くから開店の準備をしているカフェや露店の人達と挨拶を交わしながらユキトは折り返し地点にしていた《エルセラス第二自然公園》を目指す。
そして、走りながら学園都市の街並みを見ていたユキトはこの都市を見てある感想を持った。
(それにしても、この都市は凄い造りをしているな)
昨夜にも思った事だが、この都市はビル群などの屋上や街中の至る所に多くの自然の植物が存在している。
都市全体の植物と人工物との比率はおよそ3:7といったところで、機械などの工業技術が確立されてから600年経った現在でここまで街中に自然物が存在する都市は大変珍しい。
さらに、都市の中央部は有名企業や軍の巨大な建造物がある為、この都市は観光名所としてはかなり有名である。
そんな都市の中央部にユキトが目を向けていた時だった。
(………ん?あれは……)
周囲に幾つかの人や動物ではない気配があったのでその方向を見てみると、色とりどりの羽を生やした手の平サイズの小人や、全身が水や石で形成された動物が屋根の上や空を飛び回っていた。
それらは明らかに魔物の様に通常の生物には見えないが、それらは魔物とは全く別の存在である。
では、人でも魔物でもないあの存在は一体何なのかと問われれば答えは一つ。
ーーーそう、あの存在こそが遥か古の時代から共存し、人々が〈精霊〉と呼び慕う存在である。
「野良精霊達か……」
ユキトの言った野良精霊とは、文字通り契約者と契約を結んでいない野生の精霊達の事であり、人々は契約をしている精霊は〈スピリット〉、契約をしていない精霊はそのまま〈精霊〉と言って区別している。
更に精霊達は様々な姿をしている為、その姿によって呼び方が違ってくる。
例えば、羽を生やした赤や緑の小人は『フェアリー型火精霊』、『フェアリー型風精霊』と呼ばれており、全身が水や石で形成された動物の様な精霊達は『アニマル型水精霊』、『アニマル型土精霊』と呼ばれ、『〇〇型〇精霊』と言った風に様々な枠組みが存在する。
そんな精霊達の横を通り抜け、それから学園都市の空が日の出を迎えた頃にユキトはエルセラス第二自然公園に到着した。
「ふぅ………」
ベンチに座って汗を拭き、水筒の中身を喉に流し込んで一息ついてから自然公園に目を向けると、精霊達がこの自然公園に集まっていた。
太陽が昇った事もあるだろうが、ここは精霊達が好む自然のマナが溢れている。それに吹いてくる風や木々のざわめきが心地良いのでこれも精霊達が集まってくる理由だろう。
「良い場所だな、ここは……」
そうユキトが言葉を口にした時、突然としてそれは起こった。
『うにゅ……、ユキト、おはようございます……』
突如として、少女の声が聞こえたと思った次の瞬間、目の前に小さな光の粒子が次々と出現し、それらは一箇所に集まって小柄な人の形を形成すると淡く発光した。
そして光が収まるとそこには、一人の小柄な少女が眠そうに目を擦って立って居た。
身の丈はおよそ140㎝程で長い薄紫の髪をツーサイドアップに結い上げており、服装は何処か和を感じる肩穴のある袖口の広い上着と膝より少し下ほど長さのスカートを履いている。
そんな何処か神秘的な雰囲気を持つ少女に、ユキトは話し掛けた。
「おはようクロエ。良く眠れた?」
「まだちょっと眠たいです……」
「そうか、もうちょっと寝ているか?」
クロエと呼ばれた少女はユキトの質問に答え、次なるユキトの問いにこう答えた。
「いえ、私はユキトの契約精霊です…。ユキトが起きているのならば私も起きています……」
そう、クロエは人間ではなく、ユキトの契約精霊なのである。
そして同時に、世にも珍しい『人型』の精霊でもあった。
赤点を取らなくて良かったと思う今日この頃。