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魔鋼世界の双術者  作者: 刀狐ー トウコ ー
黒髪紫眼の少年
1/2

学院都市への道のり

よろしくお願いします!

木漏れ日の落ちる静かな森の中に、武器を携えた一人の少年が歩いていた。


その少年は黒髪に少しツリ目よりの薄紫色の瞳を持ち、街を歩けば10人中7人は振り向くほど整った顔立ちをしているのだが、今はその顔に警戒の色を見せていた。


「………来た、」


少年、〈ユキト〉がそう呟いた瞬間、背後の森の奥から三つの風の塊がユキトに目掛けて飛んできたが、ユキトは背後から迫り来るその風の塊を見る事なく軽やかな足運びで全て避けると、目標を失った風の塊は木や地面に直撃し、当たった箇所が抉られた様になっている事から生身で当たれば怪我をする程度では済まないだろう。


背後に振り向くと三匹の狼の魔物がこちらに走ってきており、口を開けて風の塊を飛ばしてきたがユキトは再び避けると、懐から3本の特殊加工を施したナイフを取り出し、ナイフにマナを流し込んで振り返り様に投げた。


投げられたナイフは目には止まらない速さで飛んでいき、狼型の魔物達に向かって一直線に突き進んで行った。


「グガァッ!」「ガルァッ!」


しかし、三匹の魔物の内の前を走っていた二匹に首元に一本ずつ当たって絶命したが、後ろにいた一匹は寸前でナイフに気付いて回避された。


「グルルルゥゥ!!!」


魔物はユキトを睨み付けているが、当の本人はそれを無視して腰に掛けている【ARMEDアームド】呼ばれる剣を抜き、黒い刀身に青い筋が浮かぶそれを握って腕を下げる様な構えを取る。


アームドとは正式名称【対抵抗魔術付与装置(Anti.Resist.Magic.Enchant.Device)】の略称で、武器の製作過程で純度の高い〈魔術結晶〉と呼ばれる物が使用された、魔物に対抗する為に製作された特殊な武器の総称である。


更にマナと呼ばれる魔力を流し込む事で剣ならば斬れ味を、銃ならば弾の威力を上げる事ができる。そして先程のナイフは【ARMED】ではないのだが、の製作に使われている技術によって特別に造って貰った代物だ。


ユキトが【ARMED】にマナを流すと、剣の刀身に刻まれている青い筋が強く発光して斬れ味を高める。するとユキトの雰囲気が変わった事を察したのか、狼の魔物はこちらに走りながら口を開け、連続で風の塊を吐き出した。


しかし、その攻撃もユキトは最小限の動きで避けながら、いまだに風の塊を吐き続けている魔物に自ら向かって走り出し、臆する事なく真正面から魔物に立ち向かう。


「グルゥ、ガァァァ!」


そんなユキトに魔物は臆したのか、魔物の走るスピードが少し落ちたが、それも当然だろう。


何故なら、魔物達が今まで狩りの対象にした人間や他の魔物達は弱いか、強くあっても集団で掛かれば倒せる程度の存在であり、特に人間等は自分達の姿を見ると一瞬でも臆するのだが、今回の人間は自分達を見ても臆するどころか、逆に自ら立ち向かって来たのだ。


しかし魔物はプライド故か、臆して緩めた速度を上げてユキトに向かって飛び掛かり、これまで獲物を仕留めてきた牙でユキトを嚙み殺そうとするが、それは魔物にとって最後を意味する行動だった。


「それは……、悪手だぞ?」


ユキトはそう呟き、更に走る速度を上げて地面に付きそうな程に腰を低くし、飛び掛かってきた魔物の下を通り抜ける様にして突き進みながら体を捻って剣を振るうと、次の瞬間には魔物の首が胴体から外れ、魔物を絶命されるのだった。







「よし、血抜き終了。始めるか」


戦闘を終えたユキトはさきほど倒した魔物の剥ぎ取りを行なっていた。


魔物から採取できる物は魔物によって異なるが、魔物の体内の何処かには必ず〈魔術結晶〉がある。

〈魔術結晶〉とは謂わばマナの塊であり、魔物が強ければ強いほど純度が高く、その中でも更に純度の高い物は【ARMED】や公共施設の動力源などに使われる。


ユキトは倒した魔物を集める時に回収したナイフを慣れた手つきで操り、さきほど倒したウィンドウルフと言う名の魔物達の皮を素早く剥ぎ取り、次に〈魔術結晶〉を剥ぎ取った。


「お、これは純度がかなり高いやつだな」


取り出された〈魔術結晶〉は淀みの少ない透き通った翡翠色をしており、かなりの高純度の風属性の〈魔術結晶〉だった。他の二体から採取できた〈魔術結晶〉も同様に高純度であったため、たまたま遭遇したとは言え嬉しい誤算だ。


それからウィンドウルフの食べられる部分を腐らない様に処理してから余った死骸を埋め、折り畳んだ皮と魔術結晶を大きめのショルダーバッグに入れたところで、ポケットに入れていた端末から呼び出しの音が鳴った。


『Piーー、Piーー』

「ん?誰だ、ってグレイソンさんか……」


ユキトは端末に表示されていた獅子の様な人物の顔を思い浮かべ、画面に表示されているボタンを押して耳にあて、先程の口調を改めて電話口に話す。


「もしもし、こちらはユキトです。グレイソンさん、何かありましたか?」


ユキトがそう聞くと通信を掛けてきた相手、グレイソンは電話越しでもわかる覇気を含んだ厳かな声音で、用件を伝えて来た。


『あぁ、君の入学の件の事についてなのだが、こちらの準備は全て整った。後は君が書類に名前を書きに来るだけだ』


どうやら2ヶ月前に話した、学園への入学の準備ができた事の報告の様だ。


「そうですか。急な頼み事でしたが叶えて頂き、有難う御座います」

『なに、君に入学を誘ったのは私だ、感謝せねばならぬのは私の方だ』

「それでもです。有難う御座います」


ユキトは電話越しにお礼を告げると、グレイソンは『そうか…』と呟き、話を続ける。


『ところで話は変わるがユキト君、君は今、どの辺りにいるのかね?』

「今ですか?ポラプの森ですね」

『ふむ、と言う事はここには今夜か明日の朝に着くとして、この《オルセリア高等魔術学園》に来るのは明日となるだろう…。そうだな…、昼前には時間が空くから、その時に校長室に来てくれるか?詳しい話はそこでしたい』

「わかりました、それではその時間に伺いさせて頂きます」

『うむ、それではこれで失礼させて貰う』


そこで通信は終わり、ユキトはショルダーバッグを掛け直して森の外にある目的地に向けて足を進めた。



ユキトが向かっている目的地は《学園都市エルセラス》と呼ばれる場所で、先程グレイソンの話に出ていた《オルセリア高等魔術学園》と他の二つの〈高等魔術学園〉と、二十近くある〈初等、中等魔術学園〉を中心に、未来の《契約者》と呼ばれる者達を育成する事を目的に、100年程前に建てられた都市である。


契約者とは、精霊と呼ばれる別次元の存在と〈契約紋〉を通して契りを交わし、その精霊の力を借りて魔物達と戦う者達の事だ。

勿論、そんな存在を育成する学園に入学しようとするユキトも契約者であり、かなり特殊な精霊と契約をしているのだが、今はユキトの中で昼寝をしている。


《学園都市エルセラス》の人口の約2000万人程であり、そのうち約4割は学生、または教師や軍の契約者である。残りの約6割の人口は一般市民や商人、そして公共施設の役員だったりするのだが、最近は観光地としても有名になってきており、こちらに移住する人や新しく学園に入る新入生が後を絶たない為、今も着々と人口が増え続けている。


その目的地に向かって森を歩いていると、やっと森の端が見えてきた。


「やっと、この森から出られるな」


少し早足になるのを感じながら森の外へ出ると、学園都市に続く道の近くにある、草原を見渡せる小高い丘に出た。ここは日当たりも良く、景色も良い事からピクニックには持ってこいな場所だろう。


(さて、行くか・・・ん?あれは……、)


学園都市に向かって歩き出そうとした時、ユキトは視界の端に自分と同じく学園都市に向かって一台の馬車が走っているのを捉え、どうせなら乗せて貰おうと考えて馬の従者をしている男に手を振った。

するとユキトに気付いた従者の男は手を振り返し、ユキトが馬車に近付くと馬車のスピードを緩めて止まってくれた。


「おう!どうしたんだ兄ちゃん、俺になんか用か?」


頭に巻いてある鉢巻が似合う従者の男は、開口一番にそう言ってユキトに用件を聞いてきた。


「実はこれから学園都市エルセラスに向かおうとしてたんだが、丁度この馬車を見つけてな。もし良かったらなんだが乗せて貰えないか?勿論、ちゃんと金は払うぞ」

「ん?ってこたぁ兄ちゃん、学園の新入生か?」

「あぁ、オルセリア学園に入る事になってる」


そう言うと従者の男は荷台を見ながら、「そうだなぁ〜」と腕を組んで悩む素振りをした後、何か閃いたのか手を叩いて「よし!」と言い、ユキトの方を見た。


「かなり狭いが、詰めれば大人ひとりは入れる隙間ができる。それで良かったら乗せられるぜ」

「それで十分だ。荷物寄せるの手伝おうか?」

「おう、じゃあ後ろに回ってくれ」


交渉が成立したので従者の男、ダンガと協力して荷台の荷物を更に敷き詰めて人ひとりが座れる程のスペースを作り、ユキトがそこに乗り込むとダンガが再び馬を走らせた。そして道中では、お互いの過去に行った場所や経験を笑いながら話し合った。


ダンガは過去に行った街や都市で何回か盗難に会いそうだったが、ギリギリのところで近くにいた警備の人が気付いて事なきを得た事や、大量の蜂蜜を運んでいる道中に熊の魔物に遭遇し、叫びながら馬を走らせて何とか逃げ切った事を笑いながら話していたが、ユキトが蜂蜜を持った状態で熊の魔物から逃げた事に突っ込むとダンガは大声で笑っていた。


そして今度はユキトの話をしていたのだが、途中でダンガがある事を聞いてきた。


「おぉ、そう言えば兄ちゃん」

「ん、何だ?」

「兄ちゃんには、何か叶えたい事みたいなもんはあるか?」

「・・・・・・・」


その質問にユキトは沈黙する。



これはユキトには叶えたい事がない…という訳ではない。勿論、ユキトにも叶えたい事があるのだが、ユキトにとってそれは【叶えたい事】では無く、【必ず果たす事】である。


その事を考えた時、ユキトの脳裏に忘れたくても忘れられない、10年前のあの【出来事】が流れた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


辺り一面が炎に包まれている中、当時5歳だったユキトはその真っ只中に立っていた。


足元には自分の父親と母親が血を流して倒れており、母親の腕の中には産まれたばかりの銀髪の赤子が泣いていた。しかし、ユキトはその紫色の瞳にその光景を収めておらず、代わりに目に映っていたのは自分よりも年下の朱色の髪を持つ可愛らしい幼い少女だった。


しかし、その少女の表情はニヒルな笑みを浮かべており、少女は、自分たち親子にある事を告げた後、目も開けていられない程の光に包まれ、光が収まった時には少女は姿は何処にもなかった。


その後に急いで父親と母親、赤子を家に連れ帰ったが、その時には母親は息を引き取っており、父親は何とか一命を取り留めた。

それから色々あって赤子を父親の知り合いである人物に預けた後、ユキトは父親に向かって自分の決意を言い放った。


『親父、僕は絶対にあの子をーーー・・・』


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



時間にして数秒も掛からない程だろう。


思い出した事を再び胸に刻み込むと、ユキトは返事を待っているダンガに向かって質問に答えた。


「・・・叶えたい事は、ある」


そう答えると、ダンガは「そうか、なら頑張って叶えろよ!」と笑いながら言い、ユキトはその言葉に何故か少しだけ心が軽くなった様に感じた。




それから30分ほど馬車を進めた時、ダンガがある一点を指して声を掛けてきた。


「おい兄ちゃん、あそこを見てみろよ。凄いもんが見れるぜ」

「本当か?どんなもんがーーー・・・」


あるんだ?とは続けられなかった。


それほど、目の前の光景に驚かされたのだ。


ユキトの目線の先、そこには見渡す限りの草の絨毯が風によって波の様になびいており、その上に馬や羊が所々に見えており、さらに少し遠くには連なる山脈と大きな川が流れている光景があった。


羊は群れで草を食べていたが、羊飼いの犬が走って来たことによって群れで逃げ出し始め、馬は競争でもしているのか何頭か並んで走っていた。


ユキトはかつて、とある人物と修行の旅をして各地を回って様々な土地を見てきたが、これ程までに自然の力が漲っている土地はあまり見た事がなかった。


「これは……、すごい、な…」

「おぉ、兄ちゃんもこの光景の良さがわかるのか!」


ダンガは嬉しそうに笑って、この場所について教えてくれた。


「兄ちゃんは《精霊王》達と昔の偉い人達が定めた条約の中に、無闇に自然を壊すなって事が書かれてるのは知ってるよな?」

「あぁ、《人霊王条約》の第4条、【その土地の主である大精霊の許可なく自然を壊す事を禁ずる】だろ。どんな子供でも知ってる事だ」


ユキトがそう言うとダンガは「やけに詳しいが、その通りだ」と言って話を続ける。

因みに《人霊王条約》とは今から約3000年前に12体いる精霊王達と、当時の各大陸の王族達が取り決めた条約の事だ。


「この場所の主である大精霊は、とにかく自然と動物達が好きみたいでな、時々この大草原に降りてきて休むでる事があるんだよ。で、その事を見た昔の人達がこの大草原に付けた名前が、【精霊の憩いの大草原】って名前なんだ」


この大草原の名前を聞いた瞬間、ユキトは思わす馬車から落ちそうになった。


「長いし変な名前だろ?だからみんな略して精霊大草原って呼んでる」

「何故最初からその名前にしなかったんだよ……」


ユキトの疑問に「さぁな」とダンガが答えた時、ダンガの腹の虫が鳴った。頭上の太陽を見ればそろそろ正午に入るからであり、昼食をまだ食べていないので腹が鳴ってもおかしくはない時間帯だ。


「そろそろ昼食でも食べるか?」

「・・・そうだな」


そう言って「保存食、足りるかな…」とダンガが呟いたと同時に、またダンガの腹の虫が鳴って、ダンガは「……すまねぇ」と頬を書きながら謝ってきた。


(別に腹が減るのは自然の摂理だから、謝らなくても良い事なんだけどな・・・)


苦笑いしながらも、自分もお腹が空いてきていたのでちょうど良い頃合いだろう。


「お、そうだ兄ちゃん。どうせならあの草原で飯を食わないか?まぁ、あの羊飼いの爺さんの許可を貰えたらだけどな」


突然ダンガが良い提案だとばかりに言ってきたが、ユキトもそれは良いなと思ったので、「じゃあ許可を貰えたらそうするか」と言うと、ダンガは馬車を草原の方に下ろした。


少し近づいたところで羊飼いのお爺さんが此方に気付き、手を振ってきたので此方も手を振りながらお爺さんの隣まで馬車を進ませた。


「おめぇさん達、こんな辺鄙な所になんか用でもあるんか?」

「あぁ、ちょっとな。それで用件なんだがーーー・・・」


ダンガがお爺さんに此処で食事をしても良いかな許可を取っている間、ユキトはパートナーの精霊に食事にするのかを問い掛ける。


(お前は昼食をとるか?)

(すぅ……すぅ……)

(……まだ寝てるのかよ)


どうやら《彼女》はまだ寝ている様なので、放っておく事にした。


精霊は基本、何も食べなくてもマナさえあれば生きて行ける存在だから食事を摂る必要はない。


それから、いまだに交渉を続けているダンガの方を振り向くとそこにはーーー・・・


「だったら、あの馬だろ!他の馬より毛艶が美しいし、脚の方も他の馬に比べてガッシリとしていて堂々としているからな」

「そうだ!奴こそがここのボス馬だ!」


何やらダンガとお爺さんが馬の事で意気投合しているが、あの様子なら許可は取れるだろう。


(話が終わるまで羊とかでも見てるか……)


草原には、まだ何頭かの羊の群れが犬に追いかけ回されている。そして、追いかけられている羊をよく見ると【コットンシープ】と呼ばれる種類の羊だった。


【コットンシープ】はその名の通り、綿の様な毛質をした羊の事であり、性格はいたって静かなのだが危機管理能力が少しばかり低いので、すぐに他の肉食動物に標的にされる事から、地域によっては高価な値段で売買される事がある。

そして一応、コットンシープも魔物の部類に入っているため、魔術結晶が取れるのだが純度も大きさも低いし小さい。


「おい兄ちゃん!この爺さんも昼食に参加する事になったぞ!」

「わしの妻の料理を食べていけぃ!」


しばらくコットンシープが犬に追いかけられている光景を見ていると、やっと交渉を終えたダンガがお爺さんと肩を組んでいた。

どうやらお爺さんも丁度食事を取ろうとしていたらしく、妻以外の話し相手と久し振りに話す事が出来て良かったと言っていた。


その後、お婆さんが出してくれた料理(結構美味しかったのでレシピを聞いた)を平らげ、お礼に幾つかの食材(ウィンドウルフの柔らかい部分など)を渡して俺たちは草原を後にした。






それから数時間後、ユキトはダンガと話し合いながら自分の手持ちの本を読んでいると、ダンガが声を掛けてきた。


「おい兄ちゃん!そろそろ学園都市エルセラスの防壁が見えてくるぞ!」

「おっ、やっとか」


本を閉じて前方を見ると、ダンガはそびえ立つ黒い防壁を指差した。


「あれが学園都市の防壁か……、王都のやつ(防壁)とは違う色なんだな」

「お?兄ちゃんは王都に行った事があるのか?」


ダンガがユキトの呟きに目ざとく質問すると、ユキトは「2年前にちょっとな・・・」と言って一瞬、1人の少女の顔を思い浮かべた。


(必ず会いに行くから、待っていてくれよ……)


ユキトが心の中でそう呟いて下車の支度をした。



整備された道を進んでいくと大量の馬車が並んで降り、かなりの渋滞だった。


「あ〜〜どうする兄ちゃん。一般の受け付けの方は空いてるから、もう降りるか?」


ダンガが目の前の渋滞の様子を見てユキトに聞いてきたので、ユキトは宿を取る事を考えるとその方が良いと考えてその案を採用した。


「まぁ、そうするか。ダンガ、代金は幾らだ?」

「そうだな、あの距離なら700リントぐらいだろ」

「わかった。・・・ほら、700リント丁度な」

「おう、毎度あり!」


ダンガに金額を聞くと、疑ってはいなかったのだが、ちゃんとした金額を言われたので渡して降りる。


「それじゃあダンガ、また会おーーー・・・」

「おっと待った兄ちゃん。別れの前にこれを受けとんな!」


別れを告げようとする前にダンガがストップを掛け、ある物を投げてきたのでユキトはそれを掴んで見ると、それは先程ユキトが渡した700リントだった。


「おいダンガ、これじゃあ稼ぎにならないんじゃ無いのか?」


ユキトは返された700リントの意味がわからずダンガに聞き返すが、ダンガは「さて?」と言って言葉を続ける。


「確かに俺は兄ちゃんから料金は貰ったが、それは俺が未来を担うであろう学生への餞別だったんだがなぁ〜」


物凄くわざとらしいダンガの態度に、ユキトはため息を吐いた。そう言えば過去に似た様なことをやった人がいたのだが、受け取ったものを返そうとしても頑なに拒んで貰うまで態度を変えなかったので、ダンガもあの人と同じ人種なんだろうと理解した。


ここは最早自分が折れる他あるまい。


「はぁ…、わかった。この餞別は俺が有難く貰っておくよ……」

「お、そうか。じゃあな兄ちゃん、学生として頑張れよ!またどっかで会おうぜ」

「あぁ、また会おうな、ダンガ」


手を張り合ってからダンガと別れ、ユキトは一般の持ち込み審査をしている係の兵士の所に向かった。


ダンガの言葉通り、一般の持ち込み審査のところは空いており、すぐに審査の順番が回ってきた。


「すいません。審査の為、身元を保証出来る物とそのバッグの中身を見せてもらえますか?」

「わかりました」


それから端末で自分の身元を証明し、バッグに入っていた魔力結晶の事を聞かれたが、皮を持っていたことから倒したものだと証明でき、さらにその皮と魔力結晶を軍の人間が買い取りたいと言っていたので買い取って貰った。


そして今は、買い取りの時に紹介された宿の一室が開いていたのでそこに泊まり、夕食を食べ終えた後にユキトはベッドに入って眠りについた。




1リント=1円です。

次はオルセリア学園入学編です。

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