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第6話 忌むべき白

 大聖堂から続く街の目抜き通り。ブリードは歩道の上を歩いていた。


 車道では行商人の馬車や騎乗した兵士達がせわしくなく行き交っている。


 ブリードは制服の上から外套クロークを羽織りフードを目深に被って、日除けをしている。


 こうでもしなければ、短い時間でも肌が火傷したように荒れてしまうのだ。


 警邏は王の直轄領に配備された常備軍――騎士修道会である聖騎士団とは指揮系統が異なる――に所属する衛兵達の仕事だが、ブリードは暇さえあれば自発的に街の見回りをする事にしている。ディアリンには羽を伸ばすように言われたが、あいにくと休み方を知らないのだ。


 目抜き通りから葉脈のごとく派生した脇道へと足を踏み入れる。


 いくつかの角を曲がった先、行商区では市場が開かれていた。天幕を張った露店が通路脇を埋め尽くしている。香辛料や果物、織物など多様な品々が街並みを彩っていた。


 街中を巡る運河は灌漑整備によって王宮のお堀にまで続いている。


 道行く人々が目ぼしい露店の前で足を止めている。


 商人達が彼らに商品を熱心に売り込んでいた。


 ブリードは民草の様子を輪の外から眺め、クスリと笑みをこぼした。


 外套は自分の容姿を隠すのにも役立つ。もしこの場に忌むべき白がいると知れたら、たちまち和やかな空気を壊してしまうだろう。それはお互い望むところではあるまい。スタスタと先を進む。


 いつの間にか商業区の端、貧民窟との境まで辿り着いていた。


「――てめえ、一体なんのつもりだ!?」


 ふと、近くから怒声が聞こえてきた。


 ブリードは即座に踵を返し、声の方へと駆け出す。


「なんのつもりだとぉ? それはこちらの台詞じゃい! 大の男共が寄って集ってこんなチンチクリンを痛めつけるなど……恥を知らんか!」

「ハア!? てめえ、バカなのか? そこのガキの姿をよく見てみろよ!」


 薄暗い路地に踏み入ると、複数の男達が少女を背に庇う青年と対峙しているのが見えた。


 察するに、男達が少女を暴行している現場に青年が割って入ったというところか。事態を収めんと、ブリードは外套を一部捲って聖騎士の制服を見せつける。


「やべえ、聖騎士だ!」


 男達がブリードに気付いて逃げようとする。


「待て待て! 相手が聖騎士様なら……逆に俺達の肩を持ってくれるだろ」


 顎に鬚を蓄えた男が彼らに制止の声を呼びかける。


 ブリードに揉み手ですり寄った。


「へ、へへ……聖騎士様、聞いてくださいよぉ。別に悪事を働いていた訳じゃありやせん。そこのガキが俺の店から物を盗もうとしやがったんでさあ」


 男が指差した先で少女が震えてうずくまっていた。服とも呼べないボロ布を纏っている。身体のあちこちに青あざができていた。白い肌と髪、淡紅色の瞳――間違いなく忌むべき白だ。


「忌むべき白が触れた品なんぞ売り物にならんし、こっちは大損ですよ! 人のガキならともかく、害獣を駆除するのに遠慮はいらないでしょう?」


 ブリードは顎鬚の男を睨み据えた。


「ほう……この面貌を目にしてなお、同じ台詞を吐けるか?」


 フードを下ろして素顔を晒す。


「ぶ、ブリード・オディナ!?」


 顎鬚の男が引きつった声を漏らした。


 一応、英雄扱いを受けている為、ブリードの顔と名前は市井に広く知られている。


 ブリードは地面に転がった食品へと目を落とした。おそらく、少女が顎鬚の男の店から盗み出そうとした物だろう。


 相場から被害総額を計算する。懐の麻袋から貨幣を多めに取り出し、顎鬚の男に押し付けた。


「これで異存あるまい?」


 支払いを受け取ると、顎秀の男が仲間達を伴い引き下がっていく。


 青年が彼らの背へと罵声を浴びせる。


「フン……弱い者イジメしかできんタマなし共め! 二度とツラを見せるんじゃないぞ!」


 男達がこちらにチラチラと気味悪そうな視線を寄越しながら建物の影へと消えた。

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