表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/52

第14話 覚醒

 ミアは懐から小盾の聖装を取り出し正面に構えた。その能力が発動し、不可視の結界が展開される。自分を包む球状へと。


 頬傷が、冷気の使い手が、戦槌が、それぞれミアへと一斉に攻撃を繰り出す。


 結界が恐るべき堅牢さで以って、そのことごとくを跳ね除けた。


 ミアは目を剥く三人に微笑で応じる。


「うふふ、無駄ですわ。わたくしはコンホヴァルやローワンと違い、身体能力に優れておらず、近接戦闘の心得も持ち合わせておりません。だから、いざ機動力を奪われた場合を想定し、この聖装を用意しておいたのですよ」


 聖装を作るのは鍛冶屋の仕事だが、その製法を把握しているのは神木教会の祭司のみ。


 ゆえにブレスは祭司を懐柔し、製法を聞き出したのだ。そして実際に、自分達専用の聖装を作らせた。


 ここまで聖装の力を温存していたのには理由がある。王国軍を油断させる為だ。こちらの戦力が常駐する聖騎士のみで対応可能だと思い込ませれば、人間達は「無理に都外へ脱出しようとせず、屋内にこもってやりすごす」という選択肢を取る。


 こちらは4体――あの女も含めれば5体か。とにかく人手が足りないのだ。王都の全員の動向を監視する事などできない。下手に逃がしては周辺から援軍を呼ばれてしまう。


「聖装だ、と……? ふざけた事を抜かすな! 魔族に聖装が使えるはずがなかろう!」


 頬傷が激昂した。無理もない。彼の常識の埒外にある事象だろうから。


 三人が躍起になって攻撃を仕掛けてくるが、結界は小揺るぎもしない。


「さて、そろそろ終わらせると致しましょうか」


 聖装を使用する利点は新たな能力を得られる事だけではない。相乗効果で魔族としての能力が高められるのだ。この状態のミアは地上に十体と出現した事のない上級魔族――討伐に成功した人間達が例外なく歴史に名を遺した事実上、最強の魔族の階へと足をかける。


 ミアは影から黒珠を生み出す。その数たるや、聖装使用前とは比較にもならない。


 上空へ打ち上げられた黒珠の群れが一点へと集まって融合し、その形を変えていく。やがて、周辺区画を丸ごと押し潰すような漆黒の正方形が誕生した。


 見上げた三人の顔色が蒼褪める。


「これだけの大きさ重さであれば、あなた方のちっぽけな抵抗など問題にもならないでしょう?」


 そう言った直後、正方形が流星のごとく落下しミアごと三人を押し潰した。腹に響くような重低音が周囲を震わせ、大地が怯えるように振動した。


 正方形が一欠片も残さず虚空に拡散した後、ミア一人だけ平然と地面に立っていた。自分の周囲だけ無事に済むよう正方形にくぼみを作っておいたのだ。


 下敷きとなった聖騎士達は原形すら留めていない。


「――あら、まだ生きておられたのですね」


 そんな中、ミアは息のある者が一人いる事に気付いた。鋭敏な聴覚を頼りに、荒い呼吸音の下へと向かう。


 その無残な姿を見下ろす。四肢があらぬ方向に折れ曲がり、内臓が飛び出し、顔面が潰れていた。


 おおまかな背丈や体型から頬傷だと判断する。おそらく、衝突の寸前に重さを操作する力場を展開し、正方形の一部を軽くしたのだろう。結果としてその判断は悪手だったが。おかげで即死できず、無駄に苦しんでいる。


 頬傷がひゅーひゅーと吃音混じりの声を発する。


「人も魔族も……女という生き物は、どうして……こう、面倒なのか。黙って……男の言う事を、聞いて……おれば、よいものを!」


 こちらを忌々しげに睨みつけた。


 ミアは一切の気負いなく頬傷の顔を踏み潰した。


 ★ ★ ★


 ポーリクが前のめりに駆け出す。


 レイピアの切っ先が届くより速く、ブリードは背後から気配を感じ取った。そんな場合ではないと知りつつも、正面から目を離し首だけ背後を振り返った。


「あ、主!?」


 そこに、遠くで戦況を見守っているはずのブレスが立っている。こちらの頭に触れた。


 直後、周囲の景色が陽炎のように歪み――ポーリクから遠く離れた場所へと移動していた。水の縛鎖から解き放たれたブリードはブレスに問いを投げる。


「これは……いったい?」


 ブレスが両手持ちの大剣――クレイモアを握っていた。道中、肩に背負っていたものだ。ブリードの背後、進む向きを変えてこちらに迫るポーリクの姿に視線を移す。


「説明している暇はない。これを使え」


 ブレスがローブから二振りの剣を取り出し、ブリードに差し出した。


 受け取ったそれらは正真正銘、自分の愛剣モラルタとベガルタである。ブリードは二振りを両手に構えた。


「し、しかし……魔族いまの私では……」

「吾輩を信じろ!」


 ブリードはブレスの言葉に押され、いつもの調子で聖装を発動――できた! それだけに留まらず、身体の中にかつてない力が沸き上がり駆け巡っていく。これならば、あるいは――


 ブリードはブレスに一つ頷いて、ポーリクへと走り寄る。互いに距離を詰め、刃を交えるべく動いた。


 ハッキリと見える、ポーリクの動きが! 先んじて双剣による二連撃を見舞う。その速度は音すら置き去る!


 ポーリクがこちらの踏み込みを捉え、左足を後ろから横へと運びつつ身体をひねって二連撃を回避した。その間も、こちらの身体の正面にレイピアの切っ先を向けている。返しの突きを放った。


 ブリードはポーリクの横に回り込み、その右手を断ち切らんとする。


 ポーリクが右手を引き戻しざま後ろに下がった。


 ブリードはベガルタを無数の破片へと変えてポーリクに追いすがる。


 刃の群れがポーリクを包囲した。その全身に細かな裂傷を刻んでいく。


 ポーリクが羽虫に集られ足を止めた隙に、ブリードは聖光を纏わせたモラルタによる刺突を繰り出した。


 遂にこちらの刃が届く! 横へと逃げるポーリクの脇腹を裂いて焼いた。


 ポーリクが移動した先、その背後にブレスが突如として出現した。クレイモアを振り上げた体勢で。ブリードを助けた時のように瞬間移動してきたのだろう。


 これ以上ない形での不意打ちだが、悲しいかな。ブレスの振る動作はブリードから見れば遅すぎる。


 それはポーリクにとっても同様。振り返りざまレイピアを振るって巧みにクレイモアを巻き上げる。


 ブレスがクレイモアを取り落とさないよう必死にこらえる内、横からポーリクの回し蹴りが伸びてきて吹っ飛ばされた。


「主!」


 ブリードは走り出す。地面に叩き付けられるより速くブレスの下に到達し、その身体を受け止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ