表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

始まりの出会い

かつてこの世界が暗黒に覆われ滅びようとした時、一人の男が異界より訪れ世界を救った。

魔王が倒れ再び世界が平和を取り戻し、二百年が過ぎた現在。

遥か北の大地に再び魔王が現れた。

魔王の復活と共に、世界が暗黒に包まれようとした時、ある一人の巫女によって、異世界より一人の男が召喚された。

しかし……




退屈な学校から解放され家路についた俺は、明日から始まる夏休みの予定について考えていた。

夏休みには、去年から準備を進めていたある計画があったのだ。

バイクでの日本一周一人旅だ。

その為に去年から死に物狂いでバイト代を溜め込んでいたのだ。

毎日学校と家を往復するだけの退屈な日常から、少しでも解放されたいと望んだ結果である。

このまま大人になれば、社会人として働き、今度は会社と家を往復するだけの日常。

結局退屈な事に変わりはない。

なら、今この夏休みという長期休暇が存在する学生の間だけでも非日常を味わっておくべきではないのだろうか、と考えたのだ。

俺の名前は、片桐蒼太かたぎりそうた

歳は今年で18歳、特にひいでた才能もなく、只々平凡な毎日を送るごく普通の男子高校生だ。

ちなみに彼女なる者もいない。

つまり非リア充なのである。

回りの仲間達が次々と彼女を作り、高校生活を満喫する中、俺だけが青春から取り残されてしまったのである。

「いいんだ、俺は明日から始まる一人旅で最高に青春を満喫するんだ」

虚しく独り言をこぼしながら愛車のクロスバイクで走っていると、奇妙な物が目に入った。

「なんだあれ?水溜まり……だよな?」

それは、一見ただの水溜まりに見えたのだが、他の水溜まりと少し様子が違っていた。

雨上がりに出来た水溜まりが、空を写し出しているのはよく見かけるが、その一つだけが少し様子が違うのだ。

確かに空を写し出していることには変わりが無いのだが、その写し出された空が見たこともない空だった。

そこに写った空には、太陽や月とはまた別の、幾つもの惑星の様な物があり、宙に浮いた大地も幾つも存在していた。

「トリックアート……でもないな。でもこんな空見たこともないぞ

そう、まるでゲームや漫画に出てくる異世界の様な光景。

「これ、本当にただの水溜まりなのか?」

妙な好奇心に駆られ、水溜まりを触ろうとしてみる。

「……っ!?」

伸ばした指先は、水溜まり触れられなかった。

いや、触れられなかったというよりも、そもそも水溜まりに触れる事なく、その中に指先が浸入したのだ。

「なんなんだよ、これ」

恐ろしくなり腕を引っ込めようとした時、その水溜まりではない別の世界を写し出した何かから人の手が伸びてきた。

「うわっ!」

思わず後ろに倒れ掛けた時、その何かから伸びてきた腕が俺の腕を掴んだ。

「驚かせてご免なさい」

声と同時に、水溜まりから女の子が体を現した。




冷蔵庫から麦茶を出しコップに注ぎ、それをお盆に乗せ階段を上がっていく。

自室の扉を開けると、先程の女の子が物珍しそうに俺の部屋を観察していた。

水溜まりから現れた女の子は、俺に頼みがあると言い、なにやら長話を話初めたのだが、流石に水溜まりから半身を出した状態の女の子と話しているところを誰かに目撃されるのは色々と面倒なので、こうして俺の家まで連れてきたのである。

一応彼女の話では、彼女は異世界から来たらしく、何やら現在進行形で世界が崩壊寸前なので、救って欲しいとの事だ。

『まるで、本当にゲームか漫画の様な話だな……』

「あのう……」

女の子が控え目に手を挙げてきた。

「これはなんなのですか?」

俺の携帯を指差して訪ねてくる。

「あぁ、それは携帯電話っていって、遠くの誰かと話したり連絡を取るものだよ」

「遠くの誰かと……ですか。……ウルバの様な物ですね」

「………ウル……なに?」

初めて聞く言葉だった。

「あっ、ごめんなさい!こちらの世界で遠くの誰かと連絡を取る為の魔法の事です」

「魔法……ね」

なんだかにわかには信じられない話である。

だが、彼女の身に纏っている服装や雰囲気が、なんとなく信じさせる物がある。

長い銀髪に碧眼、とても大きな瞳は吸い込まれそうになるほどに美しかった。

服装も、どこか昔の物語に出てくる魔法使いの様な格好をしている。

「あのさ、とりあえず話をもう一度整理させてもらってもいいか?」

次から次へと俺の部屋の物に興味をしめす、異世界から来た美少女に声を掛けるが「この書物は何でしょうか?」と言って、ベッドの下に手を伸ばしている。

「だぁーーー!!それは駄目だ!」

慌てて止めようとしたが遅かった。

「~~~~~~~~~っ!!」

俺のお宝書物を開いた異世界美少女は、真っ赤になり頭から湯気を出している。

「ふっ、不潔です……」

「すいません……」

って、何で見知らぬ女の子に部屋を荒らされた挙げ句に謝ってんだ俺!

「とっ、とにかく話を整理しよう!」

「はっ、はい!そうでしたね!」

めちゃくちゃ気まずかった。





「なるほど。つまり君の世界に昔現れた魔王が二百年振りに復活して、また世界を滅ぼそうとしていると」

長々三十分もかけて、彼女から説明を受けた俺はようやく流れを理解した。

「はい、そこで巫女であるわたくし、リリル・アルフロート・ナルナリアが、かつてわたくし達の世界を救って頂いたこちらの世界に、救世主である貴方様をお連れに参ったのでございます」

「リリ……?なんだって?」

「リリル・アルフロート・ナルナリアでございます。リリーとお呼び下さい」

「わかった。」

咳払いをひとつして、俺はもう一度気になっている事を訪ねる。

「話は大体わかったが、なんでその救世主様とやらが俺なんだ?」

「はい、それは貴方様が救世主で在られるからでございます」

全然わからない。

「違う!だからどうしてそもそも俺が救世主だとわかるんだ?俺はただの平凡な一学生の身だぞ」

「どうしてと言われましても……、わたくしが巫女だから解るのでございます!」

何故かそこだけやたらと自信満々に説明している……って、顔近い近い!

彼女居ない歴=(イコール)年齢のピュアボーイには刺激が強すぎる。

「えっと……巫女ってのは、どうして救世主かどうかわかるんですか?」

目を合わせられない。

「ん~~、匂い……でしょうかね?」

「匂い?そんな救世主の匂いなんてあるのか?」

「すいません、多少語意があるでしょうが、直感?みたいなものでございます」

『直感?そんな簡単に世界を左右するような人選をしていいのか?』

会話をそっちのけで、異世界美少女なるリリーは俺の部屋の探索を再開している。

「救世主様!これは何でしょうか。救世主様はこの箱の中で小人を飼っていらっしゃるのですか?」

爛々と目を輝かせながらテレビを指差して聞いてくる。

「いや、違うよ。それはテレビって言って、別にそこに人が入ってる訳ではないんだ」

「テレビ?ではこの中の方々はいったいどこに?」

「う~~ん、もっと別の遠くにいるんだよ。」

説明するのが面倒なので、適当に答えておく。

「遠くに……ですか、先程のケータイ?でしたっけ、その様な物でしょうか?」

「そうそう、そんな感じ」

なんとなく合っているので、そういう事にしておこう。

「では救世主様、これはなんという……」

「あのさ、その救世主様って呼ぶのやめないか?俺はまだ自分が救世主とかそんな風に思えてないんだし」

「…………では何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「俺は片桐蒼太かたぎりそうたっていうんだ。だから、普通に蒼太でいいよ」

「わかりました。では蒼太様、これは……」

「いやいや、その前に話を戻そう。」

いい加減このままでは話が進まないので、半ば強引に話を戻そうとするが「はて、何のお話をしていましたっけ?」ポカンと首を傾げている。

「おいおい、お前の世界が危ないとかなんとかって話だろ!」

「あぁ、そうでございました」両手をパンと合わせて納得した様子だ。

一番大事なところを忘れるなよ!世界が滅びるとかいう話は本当なのかよ。

「え~~、まずどこからお話をすればよろしいでしょうか」

こめかみに指を当てて考え込んでいる。

「だから、仮に俺が本当にその救世主様やらだとしよう。それで俺は何をしたらいいんだ?」

「はい!わたくし共の世界を救って頂きたいのです!」

勢い良く身を乗り出してそう答える。

『だから、近い近い!』

顔が熱を帯びているのが自分でもわかり、動揺を悟られない様顔を背ける。

「さっ、さっきも言ったが、俺は極々普通の学生であって、戦うだの世界を救うだのは無理だ!」

だが俺の動揺など気にも止めず、さらに俺の上に被さる様に身を乗り出し「いいえ、蒼太様は救世主なのです。必ずや魔王を倒し世界を救って下さります!」

「わかった!わかったからまずは退いてくれ!」

すると、リリーはようやく自分の今の状況を理解したのか、ハッと顔を赤らめ後ろに飛び退いた。

「も、申し訳ありませんでした」

気まずい。なんだこの謎に気まずい空気は。

「コホン。えー、ですから蒼太様は救世主様だということは納得していただけたでしょうか?」

「あ、ああ。まぁなんとなくな」

正直全く納得はしていないが、話が進まないので合わせておこう。

「では、今からわたくしと共に来ては頂けますか?」

「行くというのは、リリーのいる世界にって事だよな?」

「はい、そしてわたくしと共に魔王を倒し、世界を救って頂きたいのでございます」

腕を組んで考え込むが、正直どうして良いのか全くわからない。

「でも俺が急に居なくなったら親とかも心配するし、それこそ捜索願いなんか出されたらシャレにならんからなぁ……」

「それなら心配に及びません!蒼太様がこちらの世界に来ていただいている間だけ、一時的に蒼太様に関する記憶を消す事が出来ますので」

「そ、そうなのか?」

それはそれで少し寂しい物があるが……。

「あとさ、ずっと気になっていたんだが……」

俺の中でずっと不安に思っていた質問を投げ掛ける。

「魔王と戦う訳だよな?つまり、危険が伴う訳だ。もしもそこで、俺が死んだりしたら……やっぱり本当に死ぬ訳だよな?」

話を聞いていると、本当にゲームや漫画の様な話だったので実感がわかないが、これはゲームなんかでは決して無いのだ。

「えぇ………………その場合は……死にます」

やはりな。

「悪いが、俺はまだこの世界でやり残した事も、まだまだやりたいと思う事も沢山あるんだ。だから……」

「お願いいたします!勝手な事を言っている事は百も承知です!でも、これは決してわたくし共の世界だけの問題では無いのです!」

胸の前で両手を握り合わせ、瞳に涙を浮かべながらリリーは続ける。

「本来世界とは全て一つの存在であり、その一つが崩壊すれば、世界がバランスを保てなくなります。そうなれば魔王は必ずやそこを狙い、他の世界をも滅ぼそうとするはずです!」

「なんだって!?じゃあ、その魔王を倒さなければ俺が今いるこの世界も危ないって事なのか?」

おいおいおい!そんなの聞いてないぞ!それでは本当に俺には選択肢が無いって事じゃないのか?

「はい。ただ、次に狙われるのがこの世界とは限りませんが、いずれは……」

くそっ!マジかよ。本当にシャレにならんぞ!

「~~~~~~っ!わかったよ!魔王だか何だか知らねぇが、俺が倒して世界を救ってやるよ!!」

「本当ですか?ありがとうございます!」

リリーは興奮しながら勢い良く俺に抱きついてきた。

「わたくしは信じておりました!蒼太様は必ずや世界を救って下さると!」

「わ、わかったから離れてくれ!」

またもや我に返ったリリーは、俺から離れると「本当に、本当にありがとうございます!」と、次々と零れ落ちる涙を拭っている。

「まだ、ありがとうは早いんじゃないか?それは本当に魔王を倒してからにしようぜ」

「そうですね。では、早速わたくしの世界へと参りましょう!」

リリーが勢い良く立ち上がったので、俺もそれに続く。

「よし!そんじゃ、ちょっくら行って魔王とやらをぶっ倒してやるか!」





もう後戻りは出来ない。

俺の平凡な毎日は今日を最後に変わって行くのだろう。

一人の女の子(異世界出身だが)との出会いをきっかけに、命をかけた旅が始まるのだろう。

「ところでリリー。その救世主って事は、俺はその世界で勇者って事になるんだよな?」

勇者という響きに、多少の期待を感じながら訪ねる俺に「いいえ。蒼太様は救世主様ですので勇者様ではございません」

まるで俺がおかしな事を言っている様な雰囲気で、キョトンとしている。

「えっ、救世主と勇者って違うの?」

「はい。蒼太様は、向こうにいらっしゃる勇者様をお助けしていただく救世主様でございます!」

あれ?なんか流れが違ってきたんじゃないか?

救世主って勇者じゃないの?俺は勇者様とやらのサポート役なのかよ!

「な、なぁ。別に勇者じゃないなら、他のヤツでも良いんじゃないか?」

俺の質問に対し、リリーは「もう決まりましたから」と言って、今日見た中で一番の笑顔を返した。

「では参りましょう!」

リリーが両手を広げ何やら術式を唱えると、先程の水溜まりが足元に現れた。

その瞬間足場を失った俺達は、その水溜まりの中に落ちていった。

「聞いてねぇぇぇええええ~~~~!!」


本作を読んで頂きありがとうございます。

もし、少しでも感想がございましたら、是非よろしくお願いいたします。

第2話以降も不慣れではありますが、頑張って書かせて頂きます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ