きみが見えなくなったあとに
あれから、あっという間に春は見えなくなっていった。
日を追うごとに俺の目に映る春は透明に近づいていく。
いつか完全に見えなくなってしまう日を考えると怖かった。
だけどそれ以上に、少しでも傍にいたいと思っていた。
知ってはいたけれど。
春ともう数えるほどの日々を一緒に過ごせはしないと、分かってはいたけれど。
「それなら俺は、大人になんてなれなくてもいいのに」
それでも一緒にいたかった。
理由もなくそう思うのは、きっと本当に大切だからだ。
だけど時はとまりはしない。
春は、とうとう見えなくなった。
「ね、今日合コンいかね?」
「・・・あー、今日はパス。悪い」
俺はまだ、時々きみのことを考えている。
冬が終わりに近づく季節に、春が訪れるたびに、きみのことを想っている。
「・・・なあ、春」
もうとっくに返ってこなくなった返事を待つだけ待って、俺は問いかける。
「俺はいつになったら、大人になるんだろうな」
きみからまだ1人立ちできないような俺は。
いつになったら、大人になれるんだろう。
「大人に、なれてんのかな」
その言葉に答えるように、桜の花弁が風に舞った___。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「きみが見えなくなるまえに」はここで完結となります。
が、そのうち“春”目線のお話も書いてみたいなと思っています。
その時にはまた、よろしくお願いします。