きみが見えなくなるまえに
「きみがみえるまえに」からの続きです
それから春と俺は、よく会うようになった。
というよりも、春が俺のところに会いに来るようになったと言う方が正しいのかもしれない。
いつでも会いに来るのは春のほうで、しかもそれは決まって俺が一人のときだった。
理由を気にしたことは、特になかった。
それほど春と過ごす時が安定していたのかもしれないし、気にするべきではないとどこかで感じていたのかもしれない。
このとき、までは。
「・・・なぁ、春」
「ん?」
「悩みとかって、ある?」
「ん?んー、んーー。べつに?」
しりとりだと完全にアウトな一文字を繰り返した後、春はそう答える。
だけどその言葉には、きっとその“ん”の分だけの嘘が隠れているんだろう。
「俺さ、聞いちゃいけないんだと思ってたんだよね」
「へ?」
「春のこととか、全部」
どこかでずっと思っていた。
“春についてのこと”には、踏み込んではいけないんじゃないかと。
「でもさ、やっぱり違うんだよな」
最後まで避けることと、ちゃんと向き合うことでは。
結果はどうなるにしても、きっと全てが変わるんだろう。
「だから、ちゃんと聞きたいんだ。春のこと」
「・・・どうして急にそんなこと思うの?」
だって、春は。
「俺の大切な友達だから、」
だから、消えてしまう前に、ちゃんと話したいと思ったんだ。
「・・・そっか」
そう呟いて春は俺の目をまっすぐ見る。
「私のこと、何だと思ってた?」
「・・・・・わかんない。ただ、皆とは違う、ってだけ」
私はね、と春は言う。
「人には見えない存在なんだ。本当は、誰にも見えない」
「じゃあ何で・・・俺には見えるの?」
「春が、私の名前を呼んだから。ううん、春って言ったから」
春って言ったから。
あの時俺が呟いただけの春って言葉が、あの声を“春”にした。
そして春と名前をつけた俺にだけ、春が見えるようになった。
だけど、あれから俺の目に映るようになった春は、今度は俺に見えなくなっていく。
ゆっくりと、だけど確実に。
「こういうのはね、本当は見えちゃいけなんだ」
「・・・見えちゃ、いけない」
「だから、大人になるにつれて見えなくなっていく」
春の声はもう、少し滲んでいた。
「私のことも、もうじき見えなくなる。だけど、仕方が無いんだ」
だから寂しくないなんて、嘘だ。
春は寂しさで押しつぶされそうなんだ。
きっと、俺と同じように。俺がそう感じているように。