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アゲハ蝶の臓物  作者:
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アゲハ蝶の臓物

【アゲハ蝶の臓物】



子供はどんなものにも興味を持つ。

しかもその好奇心は幼ければ幼い程無邪気で残酷だ。

自分以外の全てが新しい発見であり、自分すらも発見の何か。


中はどうなっているのだろう?

こうするとどうなるのだろう?


純度の高い探究心は熱く対象に注がれる。

そこには一切の罪悪感もない。


そいつはこう言った。


「私は、虫を殺した。もう死んじゃったから色々試す事はできない。」


手には乾ききれない血をつけて微笑んでいたそうだ。


―その虫はどんな虫?―

「毒虫でさ。外側がすごく派手。素手で触れないからそこらにあるもので中を開いてみたの。」


―どうだった?―

「たくさん汁がでて気持ち悪かったよ。外側はあんなに派手なのに中は大した事ないんだと思った。」


―あなたが殺したのは虫ではないよ?女だよ?-

「そう?オンナって名前の虫なの?」



私らの同級生が殺されたのは半年も前だ。

何の刺激もない田舎町だから殺人事件というだけで蜂の巣をひっくり返す騒ぎだった。

加えてもっと刺激的なのは、犯人もまさかの同級生と言う事に更に衝撃が走った。

私は地元を出てしまっている奴からの興味本位の問い合わせに暫く追われ。同じクラスだったというだけでテレビ関係者からも追われた。

私はその騒がしさから、携帯の番号を変え、職場から困らない程度に実家から離れた。


殺されたMも殺したYも中学二年の時同じクラスだった。


しかしそれ以外の記憶はない。

MとYの関係とはと聞かれても正直私には分からなかった。

【二人は友人同士で良くつるんで居た】

ぐらいしか言えないし分からない。

何より女子同士というのは縄張り意識が高いもので私のグループとMとYのグループは別だ。

グループが違うと言う事はただのクラスメート以外の何者でもないわけで、国交のようにその壁は厚い。

どうせ聞くならMとYのグループにはあと二名いたはずだ。そいつらから聞いたらいいのに…。

そう思い地元を出た同級生で他人(ただのクラスメート)にはそいつらの名前を案内して置いた。

が…皆一様に…「番号をしらない」「もう何年も会ってないから聞きづらい」という。

私もあなた方と何年も会ってないはずだが…。そう言いそうになって辞めた。言っても無駄な気がしたからだ。

そもそも担当の刑事でも精神科医でもない奴らが聞いてどうなる?

何も言わず「よく分からない」とだけ繰り返してたらその中の一人に言われた。


「あんたYと幼稚園一緒だったじゃん。」


そこまで調べあげる能力は私の心境は察知できないのだろうか?


「ごめん。本当によく分からないの。ただクラスが一緒だっただけだから。幼稚園の時も。」


何かをあきらめるような空気を電話口の向こうに感じた。



ところが、諦めの悪い連中はMの弔いを兼ねて地元へ集まるという歯切れの悪い事を提案した。

私もその一員に組み込まれてしまった。私は望んではないのに。

その日の夜は眠れなくてイライラしながらトイレ掃除をした。

その時に小さな家蜘蛛を見つけた。何となく息を吹きかけ私の目の届かない所へ飛ばした。


―何でそんな事するの?―


Yは私にそう言ったっけ?


Yは子供の頃から美人で妙な雰囲気のある子だった。

しかし酷い人見知りで幼稚園でも静かに絵本を読んでいるかふと行方をくらませているかだった。

この時から私とは別のグループに居た。Yの周りも同様に静かでおとなしい子ばかりだった。別にそれをどうとも思う事もないし、幼い私は走り回ったり飛び回ったりに忙しかった。

そんなある日幼稚園が終わり近所の公園で姉と姉の友人とかくれんぼをしている時だった。

公園の茂みにYを見つけた。

公園の植木を一人で熱心に見詰めるY。

子供の親切心から私はYに一緒にかくれんぼをしないか?と声をかけた。Yは顔を真っ赤にして横に振った。

照れているのか?遠慮しているのか?当時は分からなかったけど今思えばYは興奮していたのだ。

Yの手には木の枝が握られておりその先にはYから逃げるように地面を這う毛虫がいた。

私は毛虫は触ると毒があるから危ないと教え込まれておりYの肩を掴んで自分の所へ引き寄せた。

「危ないよ?」

「知ってる。」

真っ赤な顔をしてYが微笑んだ。整った顔が少し歪められ細められた目の奥はうるみゆるく笑う。その表情は本当の大人の女性の様に見えた。

その当時Yが周りの大人から将来が楽しみと言われていたのはこの雰囲気からだろう。

長い黒髪を耳にかけYは木の枝でその毛虫を追った。

私はそんなに虫が好きなら仕方がないと思いかくれんぼに戻った。

私とYが接触したのはそれが初めてだった。その日の帰りに私はYが気にしていた毛虫が気になりYの居た植木あたりを覗いてみた。


もうYは居ない。

そして、茂みの中にぐちゃぐちゃに潰された毛虫の死骸を見つけた。あの特徴的な毛虫の柄が草より目立っていた。

夕焼けでギラギラする太陽はしっかり毛虫の死骸も焼いていた。


これをやったのがYとは限らないし、別にYが潰したとしてもどうとも思わなかった。

潰れている虫に同情もしないし。よく見かけるモノだから気にもかけなかった。


死骸になっていた虫の事なんか忘れ私は翌日のお遊戯の時間に小さな蝶が室内に入っているのを見つけた。

窓とカーテンの隙間に阻まれて外に出れずに居た。虫はそんなに得意ではないが窓ガラスにぶつかりながらも外に出ようとしていたので、そっと窓をあけて外に出した。誰も見ていないと思ったがふと後ろから声を掛けられた。


「何でそんな事するの?」


びっくりして振り返ると私より驚いた顔をしたYが居た。

私が何も言えずに居るとYが先生に呼ばれお遊戯に戻った。これが最後だ。

これ以上話す事もなかったし、これ以上の接触もなかった。


その後、Yとは中学二年の時に同じクラスになったが、これも特に接触はなかった。

その頃にはすっかり虫の事は忘れていた。むしろそんな面影すらない程Yは普通の子だった。

幼い頃のぞっとするような美しさは成長と共に並みになり平均的で、健康的な14歳だった。

どこにでも居る恋とニキビに悩む普通の14歳。長かった髪はボブくらいに整えられ明るく染まり耳当たりではねていた。中身も御贔屓のアイドルの話や誰と誰が付き合ってるだの付き合ってないだの。

流行にも敏感で色々と騒がしかった。

この時同じクラスだったのが被害者のMだ。

Mも似たような感じの子だった。似た者同士の二人はいつも一緒だった。


別グループに居たので私は人づてにしか聞いてないがYとMは買い物に一緒に出てはおそろいの物、色違いの物を良く買い周りの同級生に自慢していたそうだ。友情の証と言っていた様だが、服や靴までかぶせて来ると少し異常さを感じもしたそうだ。

「私らは双子の姉妹なのー」と言っては常に行動を共にしていた。実際は他人なのだが互いの家にもよく行き来していたようだった。

私はその頃思春期特有の不眠症に悩まされよく学校を休んでいた。

なので中学の頃のYとMの事は本当に詳しくない。そしてこのせいで中学の頃の友人はほとんどいなかった。ただ一緒に居るだけで友人っぽい何かだった。それは申し訳ないが独りで居ないための何かだったと思う。恐らく向こうもそうだろう。

私の薄い友人関係よりYとMの関係が濃く見えた。あの人見知りだった頃のYはそこには居なかった。


それから月日は経ち成人式というイベントを迎えた。

私は中学時代のうわべだけの友人と参加するのが億劫になり参加を見送った。

この時にYとMが会場まで来ていたそうだがMは立派な振袖姿で、遅れて来たYは黒のスーツだったと聞いた。

てっきりお揃いの振袖で来ると思ったがYのスーツがかなり意外だった。あの時参加した同級生によると着物のレンタルすらできない程Yの実家は危なかったらしい。Yは学生をしながら家計を支えるのに必死だったそうだ。

目の下にくまを作り細身のスーツすら余らせる程Yは痩せていた。後でみせてもらった写真でもそれは良く分かった。


そして、その3年後…事件は起こった。


Mは人気のない道路のど真ん中で内臓をぶちまけ空洞になったお腹を上にむけ死んでいたそうだ。

体の中は、悪戯に漁ったように、細かい傷があったそうだ。

頭部は大きい石でかち割られ飛び出したその中身すらも木の枝でいじくりまわされていたと聞いた。

発見者は近所の主婦で、その時の精神的ショックで物が食べれなくなったそうだ。

また、現場を処理した警察関係者でさえ、気を病む者が居たと聞いた。

Mは当時23歳。彼氏と別れたばかりで少し凹んで居たとYでもない友人が語っていた。

Mの職場の人間が語るに、明るく気遣いのできるイイ子だったと涙を流していた。その映像は飽きる程見た。


そして、その犯人はすぐ捕まった。

その日の昼に衣服や手に大量の血をつけて肉片の一部をずるずると引きずり、ふらふら歩いている所を警察が保護した。

その肉片らしきものは、引き抜かれたMの腸の一部だった。


Yはこう言ったそうだ。


「私は、虫を殺した。」


その言葉はメディアを震撼させ女の起こす猟奇的殺人事件として着色されて報道された。

成人式以来のYの姿がテレビに映った時私は背筋が凍った。


Yは恐ろしく美しくなっていた。

長く美しい黒髪、大きくも柔らかい瞳、通った鼻筋、欲情的な口元。

中学の頃とは別人だと周りは言うが、私としては幼稚園の時のYの本来の姿に戻った様に感じた。

人見知りだが妙に人を惹きつけるあの雰囲気。


この姿が本来のYの姿のような気がする。


弔いの会は地元の小さな居酒屋で当時の中学2年のメンバーがひっそり集まって行われた。

もちろん、連絡の取れない者、来れないと連絡のあった者も居た。

最初こそ重苦しい空気だったのに酒の力もあってすぐに同窓会の二次会のような雰囲気になった。

そもそも弔いの意味とか関係なくただ飲み会がしたいだけの様に感じた。

その内に話は段々逸れ、誰と誰がどうだったとか。

ここに居ないメンバーの噂。

今、彼氏や彼女が居るだの居ないだの。

卑猥な質問が飛び交い。

下品な下ネタが料理と共に出される。


何がおもしろいのだろう?

何が楽しいのだろう?


何が集まって良かったのだろう?


このクラスはソウルメイトだと叫び出す奴が出た所で私は体調不良を理由に退席をさせてもらった。会費は払ったし、何より一時間以上は居た。もう充分だろう。

帰ろうとする私にクラスメイトだと言う女が一人酔っ払いの状態で話しかけてきた。

「あんたさぁ…あんまり学校来てなかったくせに…こういう会はちゃっかり出るんだね。」

「…。」

「居るよね…。遠足とか修学旅行とかはしっかり行くけど普段は来ない。美味しい所だけ、ばっちり?みたいな?合コンはどんなでも行く女の典型っていうか…。」


饒舌に私の事を語るこの女はそもそも誰だろう?

高いヒールをつっかけて香水と酒の臭いを漂わせ私に近寄ってくる。

ネイルも肩にひっかけたカーディガンもやたら派手なピンクで目立つ。異臭と外側の毒々しいまでの派手さ。毛虫のような女だ。

その女に手首を掴まれそうになり私は思わず声をあげてしまった。

「きゃっ!!」

「ちょっと何よ?そんな大袈裟な声あげないでよ!!」

そう…彼女は私の手首に少し触れただけ。なのにピリッと刺すような痛みを感じた。

「ごめん。体調悪いから先に帰るね。」


呑んでない奴から送ろうか?っと言われたが早くここを出たくて逃げるようにタクシーに乗り込んだ。

酔った数名の男が店の外まで出てタクシーを追いかけるそぶりをしたが、それすらも気持ち悪く感じた。

同じクラスだったメンツ。でも誰?


「同窓会ですか?」

「…さぁ?」

私の答えに空気を読んだ様で運転手はすぐに黙った。


家に帰って私は二度目の悲鳴を上げた。

あの女が触れた所が赤く膨れあがっていた。

小さいものではあるが起こすはずのない異変に心拍数が上がった。私はすぐに洗面所に行きとりあえず冷水で洗った。洗っても冷やしてもその赤みはひかなかった。

そんなはずはない。気持ちの問題だ。


その日の夜は同級生達に気持ち悪さを覚え、かかってきた電話やメールも無視して眠りについいた。


目を閉じれば狭い居酒屋で集団で蠢く姿が葉の裏で待機している毛虫の集団のとして蘇り触れられた所がチリっと痛んだ。

私は、それを思いだし朝方少し吐いた。


翌朝、会社の同僚に同窓会の感想を聞かれた。

同窓会ではないと伝えると面白くないと膨れた。

昼頃に【まだ何人か地元に居るから今夜はメンツ少なめだけどごはん行かない?】っと知らないアドレスから誘われた。


何を思えば正解なんだろうか?っとふと外を見たくて振り向いた視界に外をめがけて飛ぶ小さな虫が居た。

小さい体をその割に合わない羽で何度も振るわせ外を目指していた。

私は席を離れ窓を少し開けて虫をそこへ誘導した。

虫はあと少しで外へ…。


私は窓を突然閉めて虫をその勢いで潰した。

窓枠には挟まり潰され内臓をぶちまけている虫。

隣の同僚のボールペンで更に中身を抉った。小さくて良く見えなかったしボールペンのインクに着色されて折角の中身が黒に染まってしまった。手近に漁るのにいいものがなかったのが悔やまれた。

でも何故か昨日までのストレスが緩和される感じがした。

手首のチリチリとした痛みもこの時消えた。


私はこの時少しだけYの気持ちが分かるような気がした。




ゆか…今あなたは何を思っているの?



【真昼の狩り】に続く。



走りの部分は他で公開したものです。もしピンとくる人が居たらコンニチワ☆

やっぱり日本語って難しいですね。

何か段々変になっていく言葉…。何か変な所があっても生易しく見守っててください。

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