私の嘘
私の彼氏は、私と意見がよく合う人だ。
いつも私が欲しいものをくれて、いつも私が行きたい場所に連れていってくれる。
きっと私は、彼と心が通じあっているんだろうな。
そう、思っていた。
(今日は和食が食べたいな)
「ねえ綾、今日は和食を食べに行こうか」
(こんど、山に行きたいな)
「ねえ綾、次の日曜日、山に行こうか」
(水族館でデートしたいな)
「綾、俺、水族館でデートしてみたいんだ。こんど一緒に行こうよ」
(あっ、このピンクのパーカー、かわいい。でもお金が足りないな)
「おっ、このピンクのパーカー、綾に似合いそうだね。俺が買ってあげるよ」
(この前、一人で本屋さんにいったときに見たあの漫画、おもしろそうだったな。こんど買おうかな)
「ねぇ綾。この漫画なんだけど、きっと綾が気に入るだろうと思って買ってきたよ」
(旅行にいくなら、北海道がいいな)
「綾。旅行にいくときにはさ、北海道にしようよ」
―――――――――――私はどこにいるの?
あなたは、私の口じゃないのに。
あなたはその綺麗な瞳で、私の何を見ているんだろう。
身体? 心? それとも……………………。
私には、あなたのこと、何もわからないのに。
だって、あなたの瞳は、綺麗すぎるんだもん。
――――――――そうだ。
(今日は中華が食べたいな)
「ねぇ綾。今日は中華を食べに行こうか」
「ごめんね、今日は和食が食べたいの」
「えっ。…………じゃあ、やっぱり和食を食べよう」
(動物園に行ってみたいな)
「綾。来週、動物園に行こうか」
「ごめん。私、また水族館に行きたいな」
「…………そう、なんだ。じゃあ、また水族館に行こう」
(あっ、この灰色のコート、欲しいな)
「ねぇ、この灰色のコート、綾に着てほしいな」
「ごめんね。私、こっちの茶色いセーターが欲しい」
「そ、そう…………それじゃあ、そのセーターを買ってあげるよ」
いくらでも、嘘をついてあげる。
だから、私をつくるのは、もうやめてね?
私? 私、嘘をつくのはいくらでも我慢するよ。
だって、我慢していればいつか…………
(こんど、海に行きたいな)
「……………………ねぇ綾。こんど、…………山に行こうか」
「…………えへへ。私、こんどは海に行きたいな」
私の本音を言えるから。