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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
桜の下でもう一度
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第四話 捜査④

 俺は病室の扉をゆっくりと開けた。

「貴方が、()(しま)さん? で合ってますよね?」

 豊島由紀。彼女は一般的な専業主婦で、特に夫が大企業のお偉いさんとかでもなく、息子または娘が天才でもなく、ただ普通の家族。

 狙われる理由が無いと言ってしまえばそれまでになってしまうが、どうしても響子さんが彼女の話を聞きたいとうるさく言うので、俺の方が折れ、彼女の言うことを聞いた。

 この事件は無差別という線が本当に濃くなってきている。

「どちら様ですか?」

(わたくし)、生活安全課の織神響子と申します。こちらは同じく生活安全課の香澄准兵くんです。この度は原因不明の体調不良だと聞かされて、一応事件性または事故の可能性が無いか確認に参りました」

 例の如く丁寧に挨拶を交わし、響子さんは近くに寄り話を聞こうとする。

「いきなり倒れたと聞いて、私たちも驚き、急ぎで話を聞こうと」

「そうですか……。最初はただの貧血だと思っていたんですけど、それが意外と長くて。気を失っていたのが二日だとか」

「そんなに長く?」

「はい。点滴で必要な栄養を貰ってました。だけど、家族の心配で家に帰りたいんですが、まだ体が怠くて体を起こすだけで精一杯です」

 豊島さんは咳き込み、体を苦しそうに曲げ息も絶え絶えだ。

「大丈夫ですか!? すみません、無理をかけてしまって」

「いえ、まだ話せます。私みたいな人をこれ以上増やさないためにも、刑事さんたちに話します」

 気をしっかりと保ち、豊島さんは再び話し出す。

「それで、何か聞きたいことはありますか?」

「それでは、質問させていただきます。貴方は倒れる前に何か口にしましたか?」

 何かを口にした? どうしてそんな質問を今ここで? 俺は八色さんとの修行で憑神の知識はある程度蓄えてきたが、食べ物から憑く奴なんていない。

 正体不明の体調不良は恐らく憑神の仕業。そのことは響子さんも、俺もよく分かっている。

 そういえば、先ほどの人も何かを口にしてから倒れたと言っていた。このことも何か関係しているのだろうか。

 俺は意識を耳に集中させて、一言も聞き逃さないようにした。


「確か……ボランティア活動をしていて、その終わりごろにジュースを貰いました。それを飲んだ後にいきなり体調が」

「誰に貰いましたか?」

 響子さんが間髪いれずに質問をする。

「女の子です。神楽坂町の市長さんの娘さんの、えっと、鹿崎華実さんだったような」

 ここで出て来た鹿崎華実という名。しかも、神楽坂町の市長の娘だときた。

 まさか彼女が犯人だと言うのか? だけど、これだけどおかしいことがある。彼女には何の得があるのだろうか。

 だって、そうだろ。桜の木を守るために工事現場の人を倒すだけなら分かる。理解できるだろうが、どうして一般人を?

 狙う必要の無い人間を狙うのはおかしい。

「分かりました。私たちはこれで失礼します。これからもお身体にお気を付けて」

「ありがとうございます」

 俺たちは病室を出て、病院も後にした。

「何か分かったか?」

 俺が不意に尋ねると、響子さんは首を横に振って、小さく呟くようにまったくよ。と肩をすくめて自嘲するように言ってみせた。

 俺はため息をつきながら――。


「嘘だろ?」

 と冗談だと願いながら響子さんに聞き直す。

「嘘じゃないわよ。本当よ。分かったことは強いて言えば、何故食べ物を口にしたら謎の体調不良を引き起こすのか。それだけじゃない。二人とも疲れ切っていた。栄養が足りてないんだわ。そう考えると、おかしな点がいくつかあるんだけど、それは癪だけどあの人に頼まないと」

「あの人?」

「安瀬馬くんよ。ちょっと調べてほしいものがあってね。さっきメールして頼んだわ」

「それでなんて?」

「しょうがない。やってやろうって偉そうに言ってたわよ」

「今日はどうする?」

「帰るわよ。暗くなってきたし、それに頼みごとが送られてこないと何にも出来ないもの。勝負はそれからね」

 俺たちは、神楽坂町から桐之座町に帰るために駅に向けて歩を向けた。


 そして俺たちは、事務所に戻り俺は晩御飯を作るために調理を開始し、響子さんはいつものように小説を片手にして、足を組みコーヒーを飲んでいる。

 今日の料理は、オムライス。たまに俺自身も食べたくなって作るのだ。響子さんは卵料理が大好きで、それなりの物を出せば、良い顔をして食べてくれる。それを見て作ったかいがあったと胸を張る。

 この時だけは、事件のことを忘れて楽しい時間を過ごすことができる数少ない時間だ。

「助手くんまだー?」

 響子さんが、欠伸をしながら俺に問いかける。

「もうちょっと待ってくれ。あらよっと」

 チキンライスを卵に包み、皿に盛りつけた。

「ほら出来たぞ。今日は一段と手心を込めて作ったオムライスだ。冷めないうちに、どうぞ」

 本に栞を挟み閉じ、手渡されたスプーンを手に取り、ケチャップを好きなだけかけてオムライスを口に含む。

「あら、いつもより卵が柔らかいわね。どうやって作ったの?」

「いつもより卵をかき混ぜなかったんだ。それでふんわりとした感じになった。作り方教えてあげようか?」

 とオレが笑いながら言うと、響子さんは首を横に振りこう言った。

「オムライスは作るの苦手なの、だから貴方が作ってね。ずっと」

「はいはい。俺が真心こめて作らせていただきますよ」

 そして、夜は更けっていった。まだ何も知らない俺たちを置き去りにして。



久しぶりに日常書いた気がします

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