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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
破滅の旋律
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第十章完結 新たな日の出

 俺は気が付いたら警察署内にいた。黒崎さんが首を自ら切断した時、氷見は笑っていた。あざとく、まるで虫けらを虐める子供のような無邪気な笑みだった。

 邪気にまみれた無邪気な笑顔。自分でも矛盾していると思う。だが、奴にはこの言葉が一番似合っている。

 人を操り、最終的に玩具を片付けると言って殺す。

 取り調べも一通り終わり、帰っても良いと言われたが何故か足が動かない。

「准兵さん。大丈夫ですか?」

 部屋に入ってきたのは、雫さんだった。彼女と会ったのはあの倉庫だ。恐らく氷見の憑神に操られてしまって俺を南方さん、三部と一緒に襲った。

 その時の記憶はないようだ。

「ええ、大丈夫です。ちょっと……頭はくらくらしますが」

「仕方ないですよ。私たちが突入した時に貴方はもう、倒れてましたから。今回の件、疑って申し訳ありませんでした」

 頭を下げて、俺に謝罪してくれた。本当は何も悪くないのに。本当の悪は氷見なのに。

「いいんですよ。でもどうして、俺の指紋が」

「それは、分かりませんので教えられません。だけど、いきなり上層部が貴方を捜査線上から外すように言われました。一体、何が目的なのか」

 嫌なことが頭に浮かんだ。俺はもしかして、氷見のおかげで助かったのか? あいつが警察の上層部に憑神を憑依させて、それで……!

「クソ。結局か……」

「私も力及ばず。多少記憶が欠落してますし、南方先輩の銃は弾が何発なくなってました。一体これは誰の仕業なのでしょう?」

「分からない。だけど、この事件の黒幕は恐ろしい。そんな気がする」

 この人たちを巻き込めない。だから誤魔化しておかないと。氷見と対峙させてはいけない。すれば必ず殺されてしまう。

「准兵さん。響子さんが待っているのでは?」

「え……?」

「もう取り調べもとっくに終わってますし、帰ってもいいんですよ? それとも帰れない理由でも?」

「足が動かないんです。この件で響子さんに迷惑をかけてしまった。合わせる顔が無いって言うか」

「そんなことないですよ。きっと今もあの人は心配して、気が気でないはずです。早く帰って、貴方の顔を見せてあげてください。さぁ」

 足が軽くなった。俺も彼女の顔が見たかったのかもしれない。そう思うと、俺は勢いよく立ち上がり、警察署内を出た。

「本当に世話がかかる人ですね。フフ、響子さん。今すぐ帰ってきますよ。貴方の好きな人が」


 街は静かなもので、穏やかそのものだった。

 この街に氷見蓮九郎が潜んでいる。俺が追われていた時のように騒がしくない、どことなく落ち着かなかったせいか足早に事務所へと向かった。

 氷見から渡された携帯電話は無くなっており、あいつがどこに消えたのか分からない。ただ、どこに現れるかは、俺には分かる。

 色んなことを彼女に話さなければならない。

 気が付けば事務所に着いていて、ドアの前に立っていた。自分でその扉を開けようとするが気恥ずかしく、いざ。というところで向こうから開けられた。

 目の前に、潤んだ瞳の響子さんがいた。

「ハハ、ただいま」

 殴られる。と思っていたが意外にも抱きつかれる。優しく、包み込むように。俺より小さい体だったが、この時だけは大きく感じられた。

「馬鹿。私がどれだけ、心配だったが分かる? 何がただいまよ! 本当に謝罪の気持ちがあるならケーキの一つでも買ってきたらどうなの?」

「ごめん……」

 数秒の沈黙の後、小さな声で。

「お帰りなさい。助手くん」

 腕を引かれ、久し振りに事務所内に入り、ソファーに座らされる。

「今日、何の日か分かる?」

「えっと……」

 考えてみたが分からない。あれ、何の日だっけ?

「貴方の誕生日よ。自分のことぐらい覚えれおきなさいよ」

 三月二十五日。そうだ、俺の誕生部だった。色んなことが有り過ぎて忘れてしまっていた。そう思うと急に笑えてきた。

「ハハハハ。あーあ、最悪の誕生日だったな。あのな響子さん――」

「いい。今は何も言わないで。はいこれ」

 響子さんが持って来たのは、誕生日ケーキ。不格好だったが、誰かの愛情が詰められている。

「はいどうぞ。助手くんのために作ったのよ? 美味しく食べてね」

 にっこりとほほ笑むと、ホールのままで食えと言うかのようにフォークを差し出す。俺は大丈夫かよ。と思いながら口に入れる。

「……美味しい! 美味いよ響子さん!」

「でしょ? 私この日のために練習してきたんだから。何が最悪の誕生日よ。私がいるんだからいいでしょ。むしろ最高の誕生日よ」

 そう言われると、涙が溢れて止まらなかった。

「お帰りなさい。そしてお誕生日おめでとう」

次話は第十一章スタートします。

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