第六話 真相①
「さてキミは何を頼む? ここのオムライスはなんでも絶品らしいじゃないか。色々頼みたい物があるんだけどなんせお金が無くてね」
ハハハと冗談がてら話しながら、メニュー表に目を通す。
こいつは何がしたいんだ? 店員の様子もおかしい。本当にただ食事をしたいだけなのか。いや、こいつに限って何かある。それを探るしかない。
氷見の事をじっと見つめ、おかしな素振りがあったらすぐに逃げられる準備はしておく。
「お金を払うのか?」
「当たり前じゃないか。僕が興味があるのは美しい物だけでハッキリ言って僕は常識人だからね。そこは見くびらないでくれ」
「人を平気で殺す奴が常識人であるもんかよ……どうしてお前は人を殺す?」
「キミはどうして息をする?」
こいつは何を言ってるんだ? 質問に質問で返してきやがった。
「俺の質問に答えろ」
「キミが答えてくれたら教えてあげるよ。その為の食事会だ。キミにこの事実を知ってもらいたくてこのゲームをしかけたんだ。ほら、さっきの質問に答えて」
俺はメニュー表を閉じ、そっとテーブルに置く。横目で店員を確認するが、いつも笑顔で接客しているのに、今日はいつにもなく無表情だ。彼女だけじゃない。
俺と氷見以外は感情が消されているようだった。
「生きるためだろ。それ以外にない。もしかしてお前、生きるために人を殺すのか!?」
「違うよ。美しい物を壊すんだ。主に人間だけど。それが僕が人を壊す理由かな」
「お前はやっぱり狂ってる」
「その言い方は少々違うな。強いて言うなら狂わされた。詳しい事は食事をしながら話そう。こんなに可愛いメイドさんを待たせてはいけない。この店のオススメのオムライスをお願いするよ。キミも同じので良いよね」
「あぁ。構わねぇ」
「じゃそれで。とびっきり美味しくなる魔法をかけてね」
店員は何も言わず、メニュー表を回収し、厨房に戻っていく。
「お前、ここの人たちに何をした? どうして何も喋らない。どうして表情を変えない。答えろ!!」
「うんいいよ。教えてあげよう。ここのオムライスを食べておきたかったんだ。なんてのは嘘。単純にここの方がキミは気楽に来れるだろ。それにここは事件があってクイズにしやすかった。それには店員が邪魔だろ? だから少しいじったんだ」
「響子さんの友達だっているんだ。これ以上おかしなことはするな……」
「キミたちは本当にラブラブだね。響子さん響子さんって。そんなに恋しいのかい? だったらキミを今すぐ殺せば彼女はどんな哀しい顔をするんだろう。楽しみだ」
「いいのか、ここは事務所からも近い。その気になれば安瀬馬さんと俺たちでお前を捕まえることができるんだぞ」
「脅すなよ。それに無理だろ。キミは彼女に黒崎加奈子の捜索を頼んでいる。勿論、安瀬馬開斗にも協力を依頼してね」
どこまでこいつは知ってるいるんだ。本当に底が知れない男だ。
「そうだ。キミが回収した手紙を見てみてよ。面白いものが書かれているから」
そう言われて、俺はポケットに入れていた手紙を取り出し、氷見の目の前で開く。
薄れた字、多少何を書いているか分からなかったが、これは誰かが氷見蓮九郎宛に書いた手紙であると、見た文面で分かる。
それがこれだ。
『この手紙を見ているということは蓮九郎。私は死んでいるだろう。冷たい獄中に捕えられ、二度と日に光を拝むことすらできない。
いいか、お前の父親は私だ。記憶を操作され、変わっているだろうが、必ず矛盾点があるはずだ。それをきっかけに記憶が戻るだろう。
私は過ちを犯してしまった。だが、それを間違いだとは思っていない。今もそれを正義だと信じている。奴らは正しさを行った私を捕えた。この手紙を見て記憶が戻り次第、屋敷に向かえ。そこに全ての真実が隠されている』
なんだこれは。この手紙が氷見の父親からだったとして、奴らってのはまさかあの御三家このことなのか?
どうなっている。前の手紙の内容を重ね合わせると――。
「そう。昔。馬鹿な僕の父親はあの御三家でも手を焼いていた事件を解決してしまった。それがいけなかった。闇に徹していなければいけない僕たち一族はその時不運にも日の光を浴びてしまった。それに憤慨した彼らは誰よりも優秀だった父を捕まえた」
「そんな――」
「これが闇だよ。それに僕たちは憎しみの感情を強く感じたり分け与えたりすることができる。それが気に食わなかったんだろう」
「だとしても」
「僕の憎しみは永遠に続く。だから憎しみを永遠に分け与えることができる。憎しみの感情は憑神の好物。僕が感情を分け与えれば無限に憑神を創り出すことができる」
言葉を告げようとしていたが、料理が運ばれてくる。それで一度会話が中断された。もしこの事が本当だとしたら、御三家の闇はとてつもなく深い。
このことは、響子さんや安瀬馬さんは知ってるのだろうか。もしこの事実が隠されたままだとしたら、何が正義なんだ。
正義の行いをした氷見の父親を掟を破ったからといって、その一家を解体したのか。
「これが真実だ。さぁオムライスを食べよう」
氷見はオムライスを一口食べ、笑顔を店員に向ける。ケチャップをつけずにひたすら口に運ぶ。俺も空腹には耐えきれず、いつも通りに食べ始める。
「?」
いつもと味が違う。まさか、あいつに指示されて毒でも入れたのか!?
「大丈夫。毒は入れてない。ただキミのオムライスには特別な薬を入れておいた。人間の血、とかね」
飲み込んだ物を吐き出そうになって、口を両手で抑える。確かにこのチキンライスは赤いが、人間の血を使っているのか!? 有り得ない。
「嘘だよ。キミの傷の治りが速くなる薬を入れた。これで足の怪我も治るよ。でも副作用ですごく眠くなるんだ」
瞼が重くなる。耐えがたい睡魔が俺を襲う。まだだ、まだこいつには訊きたいことがあるんだ。逃げるな、氷見。
「また会おう。明日はキミに最高の絶望を上げるよ」
俺はそこで意識が消えた――。
御三家の深い闇は明かされるのか?




