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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
破滅の旋律
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第五話 捜査⑤

 気が付けば、周りは月明かりに照らされていた。

 傷口からの出血はようやく止まり、あとは再生が始まるのを待つだけた。

 だが、氷見蓮九郎の策略によって俺は安瀬馬さんと八色さん、両名の友人と闘うことになってしまった。あの時の八色さんはとてもつらそうな顔をしていた。

 あんな奴にまだ踊らされていると思うと腹が立つ。大切な物を一つづ壊していき、やがてはその人自身を壊す。

 まさに外道の所業だ。

 響子さんは無事だろうか? 一番最後だと言っていたがそれが真実だと信じ切れるはずもない。安否を確認しなければ。

 俺は、携帯電話を取り出し響子さんにかける。

「もしもし、助手くん? 大丈夫なの? あの時から全然連絡なくてびっくりしたんだから」

「ごめんな……ちょっとな。取り敢えず、危機は脱したかな。ハハ」

「笑ってる場合じゃないでしょ! 貴方私がどれだけ心配してると思ってるの!! いい? 貴方がいなくなったら、誰が私の相棒になるの?」

「すまん」

「事情を話してくれる? どうして貴方が南方さんに追われているのか、どうして事務所に立ち寄らないのか」

「悪い。今は事情を話せない。これが終わったら、ゆっくりコーヒーでも話すよ。そうだ、玉子焼きでも作るからさ」

「ふざけないで!!」

 通話先で響子さんの怒号が飛ぶ。俺は驚いて電話を耳元から話す。久し振りに訊いた俺に対する怒りの声。

「今話してくれなきゃ、力になれないじゃない! 私、怖いのよ。貴方がいなくなりそうで……。ごめんなさいいきなり怒鳴って。黒崎加奈子さんも失踪してるし」

「失踪してるだって!?」

 どういうことだ。あの事件は、万事滞りなく解決したはずじゃ……。どうして憑神の脅威から守られた彼女が。

 俺には確信した何かがあった。

 氷見蓮九郎、あいつの名前が頭を過る。

「ごめん響子さん。頼み事を一つだけしていいか?」

「なに?」

「黒崎加奈子さんの所在を調べてくれないか? 安瀬馬さんと一緒に」

「分かったけど、どうして安瀬馬くんと?」

「その方が都合が良いだろ。頼むよ、じゃあ!」

「あっ――!」

 無理矢理電話を切り、ポケットにしまうとほぼ同時に氷見から渡された別の携帯電話が鳴る。

 こいつは本当に会話を盗聴していないのか? だとしても、タイミングがばっちりすぎるぞ。

「もしもし。また電話してたね。足の怪我はどう? 随分痛そうだけど」

「お前に心配されるほどじゃねぇよ……。お前今度は安瀬馬さんと八色さんにここに俺がいるって情報を流して」

「そうだよ。僕が流した。だってキミたちが戦うところ楽しいじゃんか。仲間同士で傷つけあい。最後には壊れる。その姿は実に滑稽(こっけい)だ。だけどどうやら安瀬馬開斗は仕事中毒者ではないらしい。非常に残念だ」

「てめぇ!! ふざけんな!!」

 俺は力一杯に怒鳴り散らす。

「アハハハハ。良いね。その怒った顔。僕の大好きな顔だ。ほら見せてごらん」

 通話の声が重なる。俺は恐ろしさを感じながら振り向くと、そこには暗闇に潜み、影から薄気味悪い笑みを浮かべている氷見蓮九郎がいた。

 何故奴がここに?

「やぁ。元気?」

「どうしてお前がここにいる?」

「どうしてって。キミに次の問題を出そう。『残酷の愛。異形の愛。全てを崩す偽りの均衡』これだ。五問目は最高のショーになるはずだよ」

「お前の茶番に付き合えるか。ここでお前を!」

 影から刀を取り出し、襲いかかろうとするが呆れた顔をした氷見は、俺を容易く押さえつけ、地面に叩きつける。

「襲いかかったって無駄だよ。憑き人風情が僕に敵うわけないだろ。さっき言ったクイズの場所は僕とキミの対談場所だ。食事でもしながらゆっくりと話そう。準備に時間がかかるから先に行って待ってるよ」

 今度はにっこりと笑みを浮かべ、俺の拘束を解く。  

 やがて氷見が立ち上がると、振り向くと同時に奴は再び闇に消え去った。

「あいつ、どこにいったんだ……」

 恐らく、俺とあいつの対談場所に向かったのだろう。俺も向かうとしても、あの言葉の意味が解らない。それに歯向かったとしても今の俺じゃ到底勝てない。

 それをあの一瞬のやりとりで感じた。

 あのまま戦い続ければ、俺は数秒の後に殺されて肉塊に成り果てていただろう。それほどに奴の危険さを感じ取った。

「今は大人しく、向かうとするか」

 さて、あの言葉は一体……。

「『残酷の愛。異形の愛。全てを崩す偽りの均衡』か。何のことだよ。クソ、全然分からねぇ」

 落ち着け。全てが俺たちの関わったことのある事件だとすれば、そこはどこになる? 桐之山ではないし、ましてや隣町でもない。

 そうだ。イレギュラーの事件を除けば、全部順番通りになっている。四肢狩り事件に、灰化事件。そうなるなら、答えは至極簡単。

 あの事件か。

 俺は、深呼吸をして足を引きずりながらも歩き出す。 

 あそこならば、そう遠くは無いはずだ。


 そして十五分程度歩き、俺はシャノンに来ていた。店内は暗く、入り口には本日貸し切りと書かれた手製の紙が貼られている。

 このメイド喫茶の閉店時間は午後八時。今は午後七時半。まだ、店内を暗くするには早すぎる。誕生日パーティーでもやってくれれば、助かるんだが。

 もしここに氷見がいるとすれば、中の従業員たちの身の安全が心配だ。

 意を決して店内に足踏み入れると、そこはいつもと違う雰囲気が空間を支配していた。

 恐怖でもない、狂気でもない、絶望でもない。今まで感じたことのない何かに満ち満ちたような感情が渦巻いている。

 そして何かに見つめられているようだ。

「やぁ来たね。こっちだよ」

 この雰囲気を壊すように、陽気な声が聞こえる。氷見の奴だろう。

「お前、ここの人に手を出してないだろうな」

「大丈夫。ここに居る人たちはまだ手を出していないよ。必要なくなったら殺すかもね」

「!!」

「嘘だよ。さぁここに」

 俺は言われるがままに、氷見の前に警戒しながら座る。目の前には蝋燭(ろうそく)、白いテーブルクロス。まるでレストランにでもいるようだ。

「さて。何を食べようか。オーダーをお願いするよ」

 メイド服を着た虚ろの目のままの彼女たちが、オーダー表を持ってきた。

「この人たちに何をした? 答えろ」

「ちょっと洗脳しただけだよ。このお食事会が終わったらすぐに開放するさ。さぁ始めよう。僕たちの食事会を」

どんな食事会になるのか!?

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