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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
螺旋の恋人
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第六話 真相①

 日をまたぎ、翌日。あれ以来事件は起きていない。そう思えば、松尾陽太郎はこの事件の犯人なのかもしれない。

 いや、決めつけるのは早い。

 ここは一度落ち着いて、この事件の概要をもう一度考え直す必要がある。そのために俺は響子さんとホワイトボードとにらめっこをしていた。

 湯気の出ているコーヒーを片手に、今書き出している情報を整理していた。

「まぁ、事件をまとめるとこうなるわね」

「そうなるか」

 ホワイトボードに書かれているのはこうだ。

 ・一件目の被害者、坂牧さんは凍死体で発見された。

 ・彼の部屋には奇妙な手紙が置いてあった。

 ・二件目の被害者、闇金の社長、()()さんはわざわざ胸を刺して殺害した。

 ・凶器の包丁には松尾さんの指紋が疑いようのないほどについている。

  まだ色々と謎が多い。

「一番怪しいのは、もちろん松尾さんか?」

「ここで見るとそうなるわね。だけど、まだ何か引っかかるの」

「例えば?」

 コーヒーを飲みながら、黒いマジックペンを置く。そして響子さんは近くのコンビニで買ってきた玉子サンドイッチをひとかじりする。

「もし、松尾陽太郎が犯人だとしたらわざわざ自首してくる必要はないのよ。そして憑神に憑かれているならば、包丁で刺す必要が無い。一件目のように凍死させればいいもの。違う?」

 確かにそうなる。一刺しして殺す必要性が全くない。凍らせれば、指紋どころか犯人である痕跡は残らない。

 そうなれば警察の捜査は困難になり、俺たちも犯人を捕まえるのに相当苦労するだろう。

 どうしてだ? 一体犯人にはどういう考えがあって。

「ってことは……?」

「犯人は他にいる。その可能性は一番高い。二人に憑神が憑いている可能性は今は限りなく低い。さて、今から私たちのする事はなにか?」

「それは?」

「朝ごはんを食べて、松尾さんの家に行くのよ!」

「了解!」


 それから俺と響子さんはコンビニ弁当を食べ、南方さんから聞いた松尾さんの住所に向かった。彼の家は桐之座町の繁華街の近くのアパートに住んでいた。

 古い木造建築のアパートで、窓には隙間風を防ぐためにガムテープが貼ってある。大家さんに話を通して松尾さんの部屋に入る。

「ごく世間一般的にある家ね。これと言って珍しいものはないわ。できれば隠し部屋ぐらいあればいいんだけどね」

「そんなのあったら、面倒この上ないよ」

「それもそうね。この部屋の間取りならそれもないと思うけどね」

 彼女は笑いながら、部屋を見渡す。本当にこれと言って無くなっている物はないし、極めて普通だ。普通の大学生の部屋と言っても良いだろう。

「一応くまなく探しましょ。端から端まで、見落としたら駄目よ」

「響子さんもな」

 部屋を探す。まず目についたのは居間にある写真だった。

 そこには松尾さんと崎野さんが手を握り、仲が良さそうに映っている。ただし、それ一枚だけではない。

 写真立ての中に大切そうに保管している。これはただならぬ関係と思っていいだろう。

「響子さん、これって」

「二人は付き合っていた。そう考えるのが自然ね。私はこれを見つけたわ。見つけたというより、無かった物を分かった。ほら」

 台所に呼ばれ、包丁を置く棚を見ているとそこには違和感があった。包丁が一本も無かったのだ。さすがにこれはおかしい。

「包丁が無いなんて普通に有り得ないよな」

「誰かが取って行った。それしか考えられないわ。おおよそこれが闇金の社長を刺した凶器でしょうね」

「だから指紋がついていた?」

「そうね、これなら普段使うし、指紋だって余るだけ取れるわ。きっとまだあるわよ、まだ探しましょ」

 俺たちは寝室を探しに行った。押し入れを見てある物を見つけ出す。

「これって、ラブレター?」

 差出人は小町洋子さん。受け取ったのはもちろん、松尾さんだ。

 手紙を見る限り、二人は付き合っていたらしい。そしてこの手紙を見て、響子さんが何かを閃いた。

「分かったわ! この事件の本当の犯人。貴方だったのね。さぁ行きましょ助手くん。この事件はもう終わる」

 響子さんの推理の刃が虚実の闇を切り裂き、真実の光が差し込む。

 行こう。悪の犠牲の先で笑っている奴を捕まえに。

次話、終局です!

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